コラム

医療と医学

2023.03.25

マイハンマー 2023(No 20-27)

私は診察用のハンマー(打腱器)を集める趣味があります.先日,学生のために行った神経診察道場でマイハンマーを披露しました.2年前にブログで紹介したときの写真を見ると19本でしたが,8本ほど増えていました.少し面白いものもあるので解説します.

20.Déjerine型.Déjerine型はJoseph Jules Déjerineによるフランスモデルで,ヘッドが円筒型で左右対称です.Dejerine型も形に多少のバリエーションがありますが,これはオリジナルの形に近く,英国Queen Squareの神経学者Gordon Holmes卿(1876-1965)が所有していたものに近いです(doi.org/10.1016/S0140-6736(17)31969-4).輸入品.

21.Queen Square型.Babinski型に似ていますが,柄が竹製でよくしなる点が異なります.英国Queen SquareのNational Hospital for Nervous Diseases病院の看護師であったMiss Wintleが1920年代に考案したと言われています.原型と言われているVernon型ハンマーの柄を竹に変更しました.しなりでよく反射が出るという先生もいますが,私は狙いをよく外してしまい苦手です.輸入品.

22.Buck型.もしくはBabinski-Buck型として日本でも入手可能です.柄の先端に小さな刷毛が入っていて,触覚の検査に使用できます.ただBuckもしくはBabinski-Buckがどなたなのか調べても分かりませんでした(どなたかご存知でしょうか?).

23. 吉村型.吉村喜作博士が使用していたモデル.明治39年に「バビンスキー現象ニ就キテ」という論文(http://jsmh.umin.jp/journal/42-2/210-211.pdf)を執筆し,現在のChaddock反射をChaddockより5年早く見出していた先生です(本来は吉村反射と呼ばれても良かったのに残念です).ただ軽すぎて腱反射は出しにくいです.

24. McGill型.柄が二股で,2点識別覚を調べることができるという特徴があります.文献が見つかりませんが,McGill大学(カナダ・モントリオール)で使用されていたのかなとと思います.

25. Taylor型音叉付き.腱反射に加え,聴覚や振動覚の検査が可能です.

26-27. アスターKNTシステムハンマー.日本の職人さんがアルミの無垢材から1本ずつ丁寧に削って製作したものです.高価なので,音叉なしの1本で我慢しようとしましたが,音叉付きの説明文「柄の先端に2つの突起部がついており,BabinskiとChaddock反射を同時に誘発できる(2ヶ所を同時に擦る)ことができる」という驚きの説明に負けて購入しました(笑).ずしりと重いです.株式会社アスター電機製.https://www.asterdenki.co.jp/hammer/hammer.html

まだまだ持っていないタイプのハンマーがありますし(Krauss型,Vernon型等),北海道大学の教授でいらっしゃった田代邦雄先生は50本以上のハンマーをお持ちであったと総説(Clin Neurosci 22;892-896, 2004)にお書きになられているので,さらに少しずつハンマーを蒐集してまいりたいと思います.

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