コラム

医療と医学

2022.09.21

知っておくべき市販の頭痛薬による脳症

カンファレンスで「ブロムワレリル尿素」による急性中毒について解説しました.この成分を含む市販頭痛薬の過量内服もしくは依存により,急性ないし慢性中毒が生じます.私自身は数例経験があります.上述の通り,「ブロモバレリル尿素」は一部の市販の鎮痛薬に含まれています.非常に依存が生じやすいので避けたほうが安全です.米国などではすでに医薬品としては禁止されていますが,日本はどういうわけか簡単に手に入ります.具体的には「ナロン錠」「ナロンエース」「ウット」などです.病歴でこれらの薬剤が出てきたら疑ってかかります.

「ブロムワレリル尿素」は有機臭素化合物です.暴露後,直ちに臭化物イオンに代謝され中枢神経に影響を及ぼします.場合によっては悪心,嘔吐,傾眠,せん妄,錯乱,興奮が生じ,精神疾患と誤診されることがあります.重篤になると昏睡,痙攣重積発作,呼吸抑制・停止が生じます.頻脈と紅斑様皮疹を認めることがあります.検査では,臭化物イオンが塩化物イオンに置換されるために生じる「偽性クロール血症」が診断のヒントになります.また腹部単純X線で薬の塊を認めることがあります(X線透過性が低いため).また私は初めて経験しましたが,頭部MRIで異常信号を呈することがあります.両側視床内側(図),被殻,中脳水道周囲灰白質,小脳歯状核病変の異常信号を呈し,Wernicke脳症(ビタミンB1欠乏)が当初疑われた2症例が報告されています(当然本邦からです).その報告では,視床血流の増加と大脳皮質血流の抑制を認めることや,血液脳関門破綻による浸透圧の変化がWernicke脳症と共通の病態機序ではないかと議論されています.いずれにしても,市販頭痛薬の常用,精神症状,偽性クロール血症等から本症を疑い,なるべく早期に治療開始することで後遺症の軽減を図る必要があります.具体的には臭化物濃度の低下を目的に,生食負荷と利尿剤投与,血液透析を行います.

★あらためて市販頭痛薬に関して,医療者も製薬企業も①連用により慢性頭痛が生じること(薬剤の使用過多による頭痛;薬物乱用頭痛)と②依存性が高いものがあることをさらに周知する必要があると思いました.
Biyajima M, et al. BMC Neurol. 2022 May 16;22(1):181.(doi.org/10.1186/s12883-022-02712-3

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