コラム

医療と医学

2022.05.27

空軍と脳神経内科におけるジェンダーの壁を破ったDr. Betty Clementsの伝記

脳神経内科において女性医師は近年増加しています.しかし歴史的に,女性が医師になる道は長い間閉ざされていました.とくに脳神経内科の領域でその道を切り開いた人についてはほとんど知られていません.最新号のNeurology誌に,Mayo Clinicで神経学を学んだ最初の脳神経内科医で,後に世界有数の研究機関として知られるバロー神経研究所の創設者となったDr. Grace Elizabeth Betty Clements(1918-1965;写真)に関する論文が掲載され,twitterで多くの先生が「great paper!」と賛辞を送っています.その経歴には驚かされます.彼女は医学を学ぶ前に,第二次世界大戦中,原爆プロジェクトの一環として,女性空軍サービスパイロットとして飛行任務に就きました.戦後は1946年まで,フィリピンのアメリカ赤十字社で病院のレクリエーション担当として駐在しました.そこでハンセン病患者の世話や看取りに携わり,医学の道を志すことになります.故郷のネブラスカ大学に戻って医学部を卒業し,1951年,ハンセン病に関する論文にて学位を取得,1954年にMayo Clinicで神経学の研鑽を開始し,てんかんから運動異常症まで幅広い分野の論文を発表しました.さらにロンドンの名門Queens Squareで学び,最終的にフェニックスにバロー神経学研究所を創設しました.

岩田誠先生(東京女子医科大学名誉教授)はご著書の「ヒュゲイアの後裔(すえ): 女性医師の系譜」のなかで「各国で女性の公認医師が誕生したのは,幾多の志高く極めて有能かつ勇敢な女性たちの不屈の行動力によるもの」と書かれていますが,Dr. Betty Clementsはまさにその一人だと思いました.ヒュゲイアはギリシア神話でアスクレピオスの娘で「史上最古の女性医師」です.ヒュゲイア以降の西洋およびわが国における医師の道を切り拓いた女性医師の魅力的なエピソードを紹介した岩田先生のこの本はとてもお勧めです.そのなかで,個人的には世界初の女性脳神経内科医,オーギュスタ・デジェリヌ=クルムケの話にとても関心を持ちました.

◆ヒュゲイアの後裔: 女性医師の系譜(https://amzn.to/3MR8Z2X
◆Coon EA, Smith KM, Boes CJ. Dr. Betty Clements: Breaking Gender Barriers in the Air Force and Neurology. Neurology. 2022 May 17;98(20):841-846(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200322

一覧へ戻る