コラム

医療と医学

2022.03.29

COVID-19ワクチン接種後の機能性運動障害の診断と説明

朝のカンファレンスで,ワクチン接種後発症の運動異常症とその対応について説明しました.私の担当した患者さんは,ワクチン接種直後から手のふるえが出現,複数の病院をめぐり,多くの検査を行ったものの診断が長期間つかず,当院を受診したかたでした.突然発症の非典型的で奇妙(bizarre)な不随意運動で,distraction(注意を他に引くこと)で症状が弱まったり変化したため「機能性」の運動障害と診断しました.ポイントは2つで,distractionは複数の方法を知っておくとひとつがうまく行かなくても焦らずに済むこと,そして病状説明が重要であるということです.病状説明によっては,早期に改善することも,苦しみが持続してさらに別の病院を受診することにもなります.つまり病状説明が治療なのです.以下,説明のポイントです.

1.「機能性障害」などの明確な診断名をまず伝える → これで患者さんは安心できる
2.診断の根拠(器質的疾患としての矛盾)について理論的に説明する → 診断を納得してもらえる
3.「ハードウェアではなく,ソフトウェアの問題」「脳の命令が抑制されて手にうまく伝わらない」等メカニズムをわかりやすく伝える → 症状がどこから来ているのかを説明することが重要
4.症状は本物で,患者が嘘をついている(詐病である)わけではないことを伝える
5.まれな病気ではないことを伝える
6.脳に器質的障害はなく,回復が望めることを強調する → 希望をもっていただく
7.原因に立ち入る必要はない
8.一度で診療を中止せず,次回の診察を予定すること → 責任を持って担当する
つまり「回復の望める機能性疾患」という新しい認知を与えるわけです.これで生活・行動様式が変われば,それが「認知行動療法」という治療になります.

動画はカナダの民放テレビCTVで放映されウェブ上に公開されているものです.保険会社の重役の女性で,機能性神経障害(functional neurological disorder;FND)であることを公表した最初の一人のレポートです.ワクチン接種後に歩行が困難になりました.番組ではワクチンの副反応ではなく,ワクチンが引き金になって生じたFNDであることを強調しています.動画にあるように通常の歩行は不安定でも,階段は簡単に降りられることが,脳の器質的疾患としての矛盾になります.FNDを認識していない臨床医の対応は患者の病状を悪化させることを指摘しています.彼女は「治療可能な疾患であり,私は回復しつつあるという事実を,多くの人々に知っていただきたい」と述べています.
https://www.ctvnews.ca/video?clipId=2264897&jwsource=em

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