コラム

医療と医学

2021.12.18

ALSにおけるbad newsの伝え方 ―ALS ALLOW―

ALS患者さんに,病名の告知や人工呼吸器装着の必要性などのbad newsを伝えることは難しい作業です.その理由として,bad newsに対する患者さんの反応は多彩であること,経験豊富な脳神経内科医でも予後の予測は難しいこと,ウェブ上にはALSに関する情報が氾濫し,なかには苦痛や誤解を招くものがあること,bad newsを聞いた際の患者さん,家族の感情に対応する必要があることなどが挙げられます.医師はbad newsを伝えたあとの患者さんの反応に不安や恐れを抱き,bad newsを伝えたくないと思う傾向があります(mum(無言)効果と呼ばれています).よってbad newsを伝えるためのトレーニングが脳神経内科医には必要になります.

医師がbad newsを伝えるためのテクニックはこれまで複数開発されています.がんにおいて開発されたSPIKESや,さらに医師の感情も考慮したABCDEなどがあります.

SPIKES (Setting up the interview, assessing the patient's Perception, obtaining the patient's Invitation, giving Knowledge and information to the patient, addressing the patient's Emotions with Empathetic responses, and Strategy and Summary),

ABCDE (Advance preparation, Build a therapeutic environment/relationship, Communicate well, Deal with patient and family reactions, Encourage and validate emotions)

SPIKESはALSでも有効であることが示されていますが,プロトコールをALS患者さん向けに調整した「ALS ALLOW」というプロトコールが米国から提案されました.名称は図の8つのステップの頭文字になります.以下に8つのステップを紹介します.

ステップ1:出発点を確認する(Ascertain)
まず医師は出発点を確認する必要がある.出発点とは,患者さんとその介護者の考えや意見,信念などである.病気の初期では,診断告知する前に,問題になっていることや,今まで言われてきたこと,インターネットで知ったことなどを尋ねる.病気の後期では,予後やケアの目標,自分たちの方向性を尋ねる.

ステップ2: 対話の機会を残す(Leave opportunity)
話し合いは,対話のための十分な機会を残して徐々に始める.

ステップ3:議論の優先順位をつける(Stratify)
患者さんとその介護者が理解できるように,段階的に情報を提示する.情報や議論を整理し,優先順位をつけ,層別化して提示することが医師の役割である.検証や査読のされたウェブサイトなど,最適な情報源を説明することも有効である.

ステップ4: 情報量を最適化する(Anchor)
情報が多すぎても少なすぎても問題があるので,医師は情報量を適切に固定しなければならない.病気の初期では情報が多すぎると圧倒されたり,時期尚早だったり,不必要だったりするが,少なすぎるとフラストレーションになったり,誤解を招いたり,準備不足になる.病気の後期では,ケアの目標や事前指示についての話し合いが少なすぎると,患者さんや介護者は準備ができず危機的状況に陥る.

ステップ5:反応をありのまま受け入れる(Let it be)
病気の初期には,否認を含むさまざまな反応がみられる.ALSを理解することは,時間をかけて進化するプロセスであり,否認は重要な防御メカニズムである(注;キュブラーロスの死の受容の5段階.否認⇒怒り⇒取引⇒抑うつ⇒受容).否認に反駁することで得るものは少なく,信頼を犠牲にする可能性さえある.しかし病気の後期には否認は準備不足や危機につながるため「Let it be」するわけには行かず,医師は患者さんに方針についての重要な話し合いを迫らなければならない.

ステップ6:沈黙して聴く(Listen in silence)
医師の沈黙は強力であり,重要であるが,あまり教えられてこなかった.患者さんや介護者が感情を抑えられない場合,とくに沈黙は有効であり,時にはプライバシーを守るために部屋から出て行くことが有用である.感情が高ぶっているときに話し合いをしようとしても非生産的である.

ステップ7:時間をかける(Offer over time)
議論により患者さん,介護者,医師のいずれもが激しく疲労する.1回の議論で,30~60分が限界なので,改めて話し合いをする.

ステップ8:一致協力する(Work together)
ALSのケアは,医学的なものと心理社会的なものがある.ALS集学的クリニックは重要なリソースであるが,特に病気の初期には圧倒されかねない.精神的,感情的にも準備ができていない人には,単独の医師によるフォローアップが最適である.一方,病気の後期には,在宅ケアやホスピスが適しているかもしれない.医師は,フォローアップの方法とスケジュールを個別に決める必要がある.

いずれも非常に重要であり納得できる内容です.経験的にステップ1をしっかり行い情報収集することはとくに重要だと思います.
Wesleigh F. Edwards, et al. Delivering Bad News in Amyotrophic Lateral Sclerosis -Proposal of Specific Technique ALS ALLOW-. Neurol Clin Prct. Dec 2021; 11 (6)(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000000957

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