コラム

医療と医学

2021.10.19

光合成を用いて脳を守る!?

脳の神経活動は,好気的なエネルギー産生に依存するため,常に酸素が供給されている必要があります.よって心停止や脳梗塞では,脳への酸素が途絶して神経活動が止まり,最終的に神経細胞死に至ります.これを克服しようと多くの研究者が,それぞれのアイデアで脳を守る治療法に取り組んできました.さて驚くべき論文が発表されました.図上段の緑色のオタマジャクシは,緑藻類を心臓から注入して血管内に行き渡らせたものです.半透明のオタマジャクシが,葉緑素の自家蛍光によって鮮やかに染まっています.緑藻類は脳の血管にも蓄積しているため(図下段),光を当てると光合成が生じ,脳内で二酸化炭素から酸素を作ります.よって水中で酸素がない状態にして神経細胞の活動が止まっても,光を当てることで15分もすると神経細胞が再び活動を始めるというのです!つまり将来,光合成をする微生物が,脳の疾患において新たな治療手段になるかもしれません.

ただしそう簡単に臨床応用できるわけではないと著者らは述べています.人間では光を当てても皮膚を通過せず,光合成が生じないでしょうし,うまく光合成が働いても,過剰な酸素は却って脳障害を引き起こします.また体内に入った藻類により予想もしないことが起きるかもしれません.しかし人間が脳を維持するための手段として,呼吸から脱却できる可能性を示した意味で,非常に興味深い研究と言えると思います.
iScience. Oct 13, 2021(doi.org/10.1016/j.isci.2021.103158

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