コラム

医療と医学

2021.07.19

弓道における異常な運動(いわゆるイップス)@臨床神経学

弓道では古くから「早気,もたれ,びく,ゆすり」と呼ばれる上達に支障をきたす4種類の厄介な状態があります.海外でも「Hayake,Motare,Biku,Yusuri」と呼ばれています.「早気」は意図したタイミングより早く矢を放つこと,「もたれ」は,意図したタイミングで矢を放つことができないこと,「びく」は矢を放ちかけること,「ゆすり」は弓を引いている途中に前腕や上腕がふるえることを指します.素人ながら弓道部の顧問になり,多くの部員がこの問題でかなり悩んでいることに気づきました.また昔から弓道競技者の間ではこれらはメンタルの弱さの問題として扱われてきたことも知りました.しかしプレッシャーがあまりかからない練習でも改善しないこと, 練習では同じ動作を反復することから,一部は書痙や音楽家に見られる動作特異性局所ジストニアではないかと仮説を立て,当時3年生だった西尾誠一郎先生らとともに研究を開始しました.大学生を対象としたアンケートを行ったところ,65名中41名(63.1%)にいずれかの経験があり,「早気」が最も多くみられました(85.3%).危険因子は経験年数が長いことでした.「もたれ」のみ単独で出現し(図),その特徴からも動作特異性局所ジストニアの関与が疑われました.これに続く研究が始まっていますが,最終的な目標は「早気,もたれ,びく,ゆすり」の病態に合った適切な対処方法を確立することです. 論文は「臨床神経学」にて公開され,以下からDLできます(https://bit.ly/2TgFAZe).とくに弓道関係者にご覧いただき,ご意見をいただけると嬉しいです.

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