コラム

医療と医学

2021.04.03

知っていただきたい嚥下障害患者さんの薬の内服法 ―簡易懸濁法―

簡易懸濁法は,錠剤を砕いたり,カプセル剤の中身を出したりせず,そのまま温湯(約55℃)に入れて崩壊・簡易懸濁させる方法です.薬剤は粉砕されることも多いですが,簡易懸濁法は温湯にいれておくだけなので,たいへん簡単な方法です(図).嚥下障害に取り組んでいる当科の國枝顕二郎先生が中心となり,Dysphagia誌に簡易懸濁法の有用性を報告しました.

簡易懸濁法は,嚥下障害診療の第一人者である藤島一郎先生や,薬剤師の倉田なおみ先生が,嚥下障害患者さんの内服法について長年にわたり検討を重ねてきた方法です.国内の施設で使用されることも増えてきましたが,まだ十分に広まっているわけではありません.

粉砕法と比較して多くのメリットがあります.まず,経鼻胃管や胃ろうから薬剤を注入するときのチューブの閉塞リスクを軽減できます.また薬剤師や看護師などの薬剤粉砕にかかる労力が軽減されます.さらに薬剤の中止や変更が必要になった際,粉砕された薬剤が一包化されているとすべて破棄しないといけませんが,その対応が容易になります.その結果,経済的ロスの削減にもなります.ほかにも,粉砕した薬剤の吸入による健康被害を回避できる,薬剤を投与する直前に処方内容を確認できる,粉砕した薬剤の配合変化の危険性がない,といった数多くのメリットがあります.

さらに簡易懸濁法を適応できる薬剤の数は,粉砕法よりも多いです.錠剤では嚥下しにくい患者さんでも,液体であれば飲みやすくなることもあります.胃ろうから薬を注入している患者さんに簡易懸濁法をお教えすると,「とても簡単で便利」と言って喜んでくださいます.とくに神経筋疾患患者さんでは,簡易懸濁法がよい適応となるひとが多いと思います.急性期から在宅まで,広く使用できる方法ですので,ぜひ多くのひとにお伝えできればと思います.シェア,大歓迎です.どうぞ宜しくお願いいたします!
Kunieda K, et al. A Safe Way to Administer Drugs Through a Nutrition Tube-The Simple Suspension Method. Dysphagia. 2021 Mar 14. (doi.org/10.1007/s00455-021-10280-w

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