コラム

医療と医学

2020.11.29

「脳のなかのこびと」と「神経学の課題」

今月号の「脊椎脊髄ジャーナル」のノマド(巻頭言)に「いかに神経診察を学び,教えるか」という拙文を書きました.今から10年ほど前,2人の神経内科医の影響で,神経診察やその教育について考え直すようになり,4つの工夫をするようになったことを書きました.その1つが,神経診察の歴史,とくに魅力的な医師についても伝えることです.今回の3年生に対する集中講義でも,Romberg,Charcot,Osler,椿忠雄とともに,カナダの脳外科医Wilder Penfield(1891-1976)について自分なりに説明しました.神経解剖学でも印象的な脳の中の「こびと(ラテン語でホムンクルス)」を発見した人の話には学生も関心を持ったようです.Penfieldは,1933年,てんかんの治療のために行った開頭手術の際,大脳皮質を電極で刺激すると,鮮明な記憶が蘇ることを発見しました.そして運動野や体性感覚野と身体部位との対応関係をまとめ,有名な「Penfieldのホムンクルス」と呼ばれる図を作りました.ロンドンを旅したときに偶然,自然史博物館でみつけた立体模型の写真や,Penfield自身が手術をした女性にインタービューして「曲名は分からないけど口ずさむことのできるオーケストラの音楽が蘇った」という印象的な動画も見てもらいました.最後に昨年,Penfieldが勤務したモントリオールのマギル大学病院を訪れ,病院の壁に彼の言葉「The problem of neurology is to understand man himself(神経学の課題は人間を理解することだ)」を見つけて,感動したときのことを話しました(完全に講義から脱線しています.笑).でもこの2週間の集中講義で,神経学の面白さが伝わり,関心を持ってもらえるとよいなあと思いました.

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