コラム

医療と医学

2020.07.06

重症筋無力症と鑑別を要したsagging eye syndromeの1例

Intern Med誌に報告した症例です.66歳女性.6年前から遠方や左右を見た際に複視が出現.当初,神経学的診察で明らかな異常を認めず,その後の増悪もなかったため経過観察されました.しかし複視が増悪したため入院.日内変動や易疲労性はなく,red glass試験では脳神経障害や特定の眼筋麻痺で説明のつかない複視のパターンでした.抗AchR抗体や抗MuSK抗体は陰性,テンシロンテストも陰性,さらに頭部MRIでも器質的病変なし.ここで私はお手上げでしたが,若手のホープの一人,加藤新英先生が眼窩MRIで両側外直筋の内下方への偏位および外直筋と上直筋との間の結合組織が両側でたるみ(=sagging),右側は断裂していることに気づき,sagging eye syndromeと診断しました!プリズム眼鏡で生活に支障はなくなりました.眼科領域で2009年より報告されるようになった複視の新しい原因疾患です.頻度は不明ですが,おそらく今まで未診断の症例も多いと思います.機序は,外眼筋を固定している外直筋と上直筋との間の結合組織,いわゆる「LR(lateral rectus)-SR(superior rectus)バンド」の加齢変性のため,外直筋が偏位し,垂直性および水平性複視を生じます.また診察では,上眼瞼の上の深いくぼみ(deep superior sulcus)を認めます.緩徐進行性の複視で日内変動や易疲労性を伴わない場合,本症を鑑別する必要があります.

Kato S, Hayashi Y, Kimura A, Shimohata T. Sagging Eye Syndrome: A Differential Diagnosis for Diplopia. Intern Med. 2020 Jun 30(doi.org/10.2169/internalmedicine.4802-20.)

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