コラム

医療と医学

2020.04.22

フロイトから見た大腿外側皮神経痛(Bernhardt-Roth症候群)

間欠的な左大腿痛を主訴とする男性が,腰椎MRIで異常なしということで紹介され来院しました.感覚性単ニューロパチーである大腿外側皮神経痛(meralgia paresthetica)と考えられました.meralgiaは「大腿の」という意味の接頭語mero-に,「痛み」を意味する-algiaを付けたものです.以前のように学生が外来見学していれば良い授業ができたのにと残念でした.

外側大腿皮神経は図のように鼡径靱帯の下で筋裂孔を通り抜け,大腿の外側面に出て皮下に現れる感覚枝です.鼡径靱帯による圧迫などで絞扼(entrapment)されることで,大腿外側部のしびれ感,感覚過敏,感覚鈍麻が生じます.原著はVirchowの弟子,シャリテ大学病院の神経病理学者のBernhardtが1878年に報告し,病名はロジア人神経内科医Rothが名付けました.騎馬兵がベルトで強く鼠径部を締め付けて発症した患者を診察したことがきっかけでした.本症は手術後や妊娠,糖尿病,肥満に関連して起こります.

最も有名な患者はジークムント・フロイトで,自身の症状を「毛皮で覆われたような,他人の皮膚(alien skin)のような感覚,安静時は軽いが,歩行により悪化する.皮膚の表面に短い刺すような痛みと,下着がこすれるときに不快な感覚を伴う」と記載しています(Neurology 35;557-8, 1985).

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