コラム

医療と医学

2020.04.14

「黒蛇を育てよう」 医学部5,6年生の皆さんへ

みなさん,自宅待機の生活はいかがですか?やはり不安だろうと思います.臨床実習もできず,進級のためのOSCE/post-CC OSCEといった実技試験もどうなるか分からない.立派な医師になれるのだろうか・・・でも私はむしろ,みなさんはこれまでとはひと味違った,人間味あふれる医師になるのかもしれないと思っています.
写真はカナダ・マギル大学で聴講した「全人的ケア」に関する講義です.私はみなさんへの病棟実習で,杖に蛇1匹の「アスクレピオスの杖」とヒポクラテスの話をしますが,写真の杖は少し違っていて白黒,2匹の蛇がいます.それぞれには意味があります.杖は「医師の象徴」で,その医師には2匹の蛇という強い味方がいるというのです.そして白蛇は「知識=治療=Scienceの象徴」,黒蛇は「知恵=癒やし=Artの象徴」なのだそうです.
ただ日本の医学教育は知識偏重で,白蛇ばかり太らせてしまい,黒蛇には無関心,やせ細った状態ではないかと思います.ですからむしろ皆さんは黒蛇を育てることにも時間を費やせば良いと思います.いままで題名や著者だけ知っていて,手に取ったことのなかった本を沢山,読めば良いと思います.本を読み,ほかの誰かの人生を疑似体験することはひとの気持ちが分かる(共感empathy)医師を育てますし,孤独に考える時間はみなさんを成長させてくれます.
もちろん,臨床実習については,その代わりになるオンライン授業の工夫を一所懸命,各大学の医師が準備していると思います.当科でも今まで経験のない教育に挑戦しようとしています.ただみなさんはそんなに焦らなくても大丈夫です.医師としての診療技術は,患者さんを目の前にすればきちんとマスターできると思います(私の学生時代にはCBTもOSCEもありませんでしたが,みなちゃんとした医師になっています).むしろ,このピンチを積極的にチャンスに変えていけば良いと思います.
以下は,先日,岐阜大学の生協から依頼されて提出した,学生に読んでほしい本のリストです.当科の実習でも1冊は読んでいただこうと思います.ぜひ黒蛇を育ててください.

★ぜひ,FBをご覧の皆様,20代の学生が読んだら良い本を教えて下さい!!

【推薦本】
■ 医学するこころ―オスラー博士の生涯(岩波新書)
医学生を講義室より患者さんのいる病室で教育し,また医のヒューマニズムを実践生たことで知られるウィリアム・オスラー先生の自伝です.日野原重明先生が執筆されました.医師として目指すべき姿を学ぶのに最適な本だと思います.
■ 生き方 ―人間として一番大切なこと―(稲盛和夫)(サンマーク出版)
著者は京セラ・第二電電(現・KDDI)を創業した実業家です.私はこの本に非常に影響を受けました.何度繰り返し読んだかわかりません.
■ 精神と物質(立花隆,利根川進)(文春文庫)
研究とはどういうものか学ぶのに役に立ちますし,とにかく内容が面白いです.
■ 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
起業家精神とイノベーションの考え方はこれからの医師にも不可欠です.最初,読んだときには感動して,信じられないぐらいたくさんの付箋がつきました.
■ 僕は君たちに武器を配りたい(瀧本哲史) (講談社文庫)
20歳台をどのように行きていくべきかを論じた本として,日本人によるものであればこの著者のものがお薦めです.戦略的思考の必要性が分かります.医学系向きのものとしては「君たちに伝えたい3つのこと」(中山敬一)(ダイヤモンド社)が素晴らしいです.
■ 楽しくなければ仕事じゃない(千場弓子) (東洋経済新報社)
働く人を惑わす10の言葉「キャリアプラン,効率,好きを仕事にする,夢をかなえる,ロールモデル,ワークライフバランス,嫌われてはいけない,リーダーシップ,自己責任,自己成長」の問題点について言及しています.若い皆さんに伝えたくてもうまく表現できなかったことを,的確な言葉にしてくれた本です.
■ 神経診察の極意(廣瀬源二郎)(南山堂)
神経診察を学ぶためにもっともおすすめできる本です.奥が深さが分かります.コンパクト,かつ2700円と安価です.
■ Harrison's Principles of Internal Medicine
医学の共通言語は当然,英語です.ハリソンでもセシルでも良いので,学生の頃から,医学は英語で学ぶという気概が必要です.

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