脳血管障害
2018.03.15
Beevor先生は「おへそ」を診察し,脳の血管支配も明らかにした
「おへそ」は産まれたあとは役に立たない・・・これは神経内科医には当てはまらない.神経内科医は「おへそ」まで診察に使用する.
イギリスQueen Squareの国立病院に勤務したCharles E. Beevor(1854-1908)は「仰臥位で頭部を挙上させると,おへそが上方へ移動する神経徴候」を見出した(いわゆるBeevor徴候:1898年に報告).下部腹直筋の筋力低下をみとめる症例では,おへそを境に,その上下で筋トーヌスが異なるため,頭部を挙上させる負荷をかけると,筋トーヌスの高い上方へおへそが移動するのである.
Beevor先生は,この神経所見を胸髄11~12神経根レベルを巻き込む悪性腫瘍の症例において初めて記載した.下部腹直筋は第10~12胸髄レベルで支配されていることから,同部位の器質的病変,例えば,脊髄腫瘍,脱髄性疾患,脊髄梗塞,脊髄空洞症などでは陽性になりうる.そして筋疾患の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH)でも高率に陽性になる(ただしFSHに特異的ではなく,筋疾患では,筋強直性ジストロフィー1型,ポンペ病,封入体筋炎でも報告がある).FSHにおける検討については過去にブログで記載したのでご参照いただきたい.なぜFSHでBeevor徴候が陽性になるかについては,下部腹直筋に筋原性変化が生じる可能性が指摘されている.
しかし「おへそ」まで観察する神経内科医の先達がどんな業績を残したのか,興味が湧きはしないだろうか?最新号のNeurology誌の神経学の歴史コーナーに,Beevor先生の業績が論文として記載されていた.脳性麻痺症例を検討し,大脳皮質と筋(主動筋と拮抗筋)の運動パターンに関する研究を行なったそうだが,なんと現在もよく見かける図である大脳の血管支配を決定したのもBeevor先生であったというから驚いた!先生は晩年の7年間をこの研究に捧げ,1908年に論文報告をしている.87人の剖検脳に対し,5つの主な血管に異なる可溶性の色素を注入し,その血流分布を明らかにするという,それまでなかった方法で検討を行ったのだ.その地図が図A,Bである(青:後大脳動脈,茶:後交通動脈,えんじ:中大脳動脈,緑:前大脳動脈,黄:前脈絡叢動脈).やはり「おへそ」まで注意して診る神経内科医は,さすがだなあと思った次第である.
Arch Neurol 47:1208-1209, 1990
Neurology 90; 513-7, 2018