VOICE~岐大医学部から~
救急・災害医学分野からのメッセージ
生体管理医学講座
救急・災害医学分野 教授
岡田 英志 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第144回は、令和7年7月に就任されました、医学系研究科 生体管理医学講座 救急・災害医学分野 教授 岡田 英志 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
父が医師だったんですが、私が子どもの頃は仕事でほとんど家にいなくて、「医師ってどんな仕事なんだろう?」というのは正直よくわかっていませんでした。父からも特に何か言われたことはなく、進路に悩みながら高校生活を送っていました。そんなある年の正月、たまたま熱を出して寝込んでしまって、ぼーっとテレビを見ていたとき、「遠き落日」という映画が流れてきたんです。野口英世の生涯を描いた作品で、英世が膨大な標本の中から梅毒のスピロヘータを見つけて、「やっとこめっけた」と言うシーンがありました。もちろん映画なので演出もあるとは思いますが、その言葉がすごく印象に残って、「何かを見つけた瞬間って、どんな気持ちなんだろう? 自分もそんな体験をしてみたいな」と思ったんです。そこから医学に興味を持つようになりました。
今思えば、もしあの時熱を出して寝込んでいなかったら、医師の道を選んでいなかったかもしれません。あの出会いは、ちょっとした偶然だったけれど、自分にとってはすごく大きなきっかけでした。今でも少し弱気になったときには、この映画を見返しては気持ちを奮い立たせています。
現在研究している内容について
「何かを見つける側になりたい」と思って医師になったわけですが、実際に医療の現場に出てみると、「なぜこの患者さんは急に悪くなったのか?」「どうすればもっと早く気づけたのか?」といった問いに直面することが多くありました。そうした疑問から、「体の中で何が起きているのかを見つけたい」と思い、研究にも関わるようになりました。
今、私たちの研究室では「血管」に注目しています。人の体には、つなぎ合わせると10万キロに及ぶ血管が張り巡らされており、その多くは直径5〜20マイクロメートルほどの毛細血管です。これらは血管内皮細胞という非常に薄い細胞の一層でできていて、酸素や栄養、ホルモンのやりとりを行う"最前線"の場所です。
最近の研究で、この内皮細胞の表面を覆う「グリコカリックス」という糖タンパクの層が、臓器ごとに構造や性質が異なり、病気によって壊れ方も違うことがわかってきました。私たちは、この変化を手がかりに、病気が体内でどう広がり、臓器同士がどう影響し合うのかを、ヒトの血清や動物モデルを使って調べています。
医療の現場で役立つ、新しい"気づき"や"しくみ"を見つけたい──そんな思いで日々研究に取り組んでいます。
救急・災害医学分野教授としての抱負
私が大切にしたいと考えているのは、「全は個にして個は全なり、個は孤にあらず」という考え方です。教室は一人ひとりの集まりであり、個人が力を発揮することで全体が成長する。そしてその全体が、また個人を支える。個は決して一人ぼっちではなく、互いに支え合う存在だと思っています。
教室を率いる立場として、誰か一人の優秀さに頼るのではなく、それぞれが自分の持ち味を活かし、のびのびと取り組める環境をつくることが大切だと考えています。一人ひとりが目標を持ち、自分の研究や臨床、教育にしっかり向き合える空気があれば、チーム全体も活気づき、自然と強くなっていくはずです。そして、そうした活気ある場が、また個人の挑戦を後押しする。そんな良い循環をつくっていきたいと思っています。
また、役職や年次にかかわらず、意見を交わせる雰囲気も大切にしたいです。自由に意見を言い合えるチームこそが、変化に強く、成長し続けられると感じているからです。
それぞれが目指すものに真剣に向き合いながら、教室全体としても一歩ずつ前に進んでいける、そんな場をともにつくっていけたらと願っています。
医師を目指す学生へのメッセージ
大きなことを成し遂げたいという夢は、誰もが何かしら持っていると思います。でも、その夢を叶えるには、まず目の前の小さな課題を一つずつ丁寧にこなすことが大切です。日々の当たり前の積み重ねと徹底が、やがて大きな成果や特別な瞬間につながると私は思います。
救急医療の現場には、ドクターヘリや手術など派手で目立つ場面があります。そうした華やかな部分に憧れるのは自然なことです。しかし、その裏には多くの方々の協力と「当たり前の徹底」があってこそ、安心して医療が提供できています。医師だけでなく、看護師や技師、運航スタッフ、救急救命士、消防、事務の方々など多くの職種がそれぞれの役割を果たしているのです。
一つ一つの仕事を丁寧に、感謝の気持ちを持って取り組むことが、安心と信頼を生みます。これは、以前聞いた世界的パティシエの話から学んだことでもあります。彼は特別な材料やレシピは使わず、普通のことを毎回丁寧にやることで、驚くほど美味しいお菓子を作りました。同じように医療でも、当たり前のことの積み重ねが特別な結果を生みます。
焦らず支え合いながら、地道に努力を続けていけば、あなたの夢もきっとかたちになるはずです。医療は一人ではできないチームの仕事だと、ぜひ心に留めてください。
略歴
平成10年3月 | 岐阜大学医学部医学科 卒業 |
---|---|
平成10年6月 | 兵庫県立尼崎病院(現尼崎総合医療センター)内科研修医 |
平成12年6月 | 兵庫県立尼崎病院(現尼崎総合医療センター)内科専攻医 |
平成13年6月 | 岐阜大学医学部附属病院 第2内科 医員 |
平成14年4月 | 岐阜大学医学部大学院医学系研究科 循環病態学 入学 |
平成17年3月 | 同 修了 |
平成17年4月 | 岐阜大学医学部附属病院 第2内科 医員 |
平成17年5月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 臨床講師 |
平成19年2月 | The Scripps Research Institute, Research Associate (Immunology) |
平成20年2月 | University of California San Diego, Postdoctoral Fellow (Cardiology) |
平成24年2月 | University of California San Diego, Senior Scientist (Cardiology) |
平成25年7月 | 岐阜大学医学部附属病院 第2内科 医員 |
平成26年7月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 医員 |
平成26年11月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 臨床講師 |
平成27年4月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 併任講師 |
平成28年7月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 講師 |
令和元年4月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 准教授 |
令和2年7月 | 岐阜大学大学院医学系研究科 救急・災害医学分野 准教授 |
令和3年4月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター 副センター長(併任) |
令和7年4月 | 岐阜大学医学部附属病院 臓器移植支援室 室長 |
令和7年7月 | 岐阜大学大学院医学系研究科 救急・災害医学分野 教授 |
令和7年7月 | 岐阜大学医学部附属病院 高次救命治療センター センター長(併任) |