VOICE~岐大医学部から~
法医学分野からのメッセージ
医学系研究科 医療管理学講座
法医学分野
教授 道上 知美先生
『VOICE-岐大医学部から-』第99回は、令和元年6月に就任されました、医学系研究科 医療管理学講座 法医学分野 教授 道上 知美 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
小学校入学時の健康診断で心臓疾患の疑いという診断を受け、大学病院に精密検査に行くことになりました。幸い程度は軽く、自然治癒が見込まれるとのことでしたが、そのとき子供の私でもわかるような易しい説明をしてくださった担当医の先生をみて、医師という職業に憧れを抱いたのが最初です。実際に進路を決める折りには、女性でも自立して生きていくことのできる職業であるということも医師志望の後押しとなりました。はじめは内科系の総合診療医を目指していましたが、救急病院での臨床研修経験のなかで、心肺停止状態で搬送されてくる患者の死因診断をつけることの難しさを実感し、法医学教室の門を叩いたことから現在に至っています。
どのような研究を行っていますか?
法医学というと、ドラマなどの影響でまず解剖を想像すると思いますが、その他にも様々な研究活動を行っております。なかでも、私の専門は法医病理といって、人の死因やその過程における病態生理を客観的に説明するための医学的根拠となるデータを集め,最終的に法医診断の精度を高めることを目指すものです。その結果は、裁判などでの医学的判断根拠となりうるとともに、臨床医学へもフィードバックされる可能性を秘めています。これまで、外傷後の脳神経細胞傷害の程度の評価、死後血液生化学検査の法医鑑定への有用性、また近年の法医学におけるトピックスのひとつである死後CT画像検査と剖検所見の比較等に関する研究などを行ってきました。現在は、傷害を受けた後の急性期・慢性期肺障害の機序解明や突然死を来しうる疾患の病理病態分析にも研究分野を広げていきたいと考えています。
教室をどのようにもり立てて行きたいですか?
法医学は基礎医学に分類されますが、医学の専門知識を駆使して行われる鑑定や解剖は臨床医学と同様に実践的医学分野といえます。法医解剖には、犯罪・事故の見逃し防止などの社会安全のための役割もありますが、病死の例も多く、総合診断学的な面もあります。死因を医学的に追及する法医解剖は、その人が受ける最後の医療であり、死因を正確につけることは死者の尊厳を守ることに繋がります。それを行える機関は岐阜県では岐阜大学法医学分野だけですので、その重要性を肝に銘じて、誠実な法医鑑定に努めます。研究の面では、法医学は国内での専門家や専門誌の数が少なく、必然的に国際学会などで発表することが多くなってきます。それを逆にひとつのチャンスとして、世界に通用するような研究活動を行っていきたいと考えています。岐阜大学法医学分野では私の就任以前から、医学部の学生が学生研究員として、DNA多型を用いた個人識別に関する研究に積極的に取り組んでいます。私がこれまでいた大学にはなかった素晴らしい制度ですので、是非今後とも一緒に頑張っていきたいと思います。
医師を目指す学生へのメッセージ
外傷・疾病問わず死因診断を行う法医学は、ある意味亡くなられた方を対象とした総合診断学と言えるのではないかと思います。不運にして亡くなられた方から得られた知見は、人を生かすことに役立つことがあります。医師には、専門分野に特化した高度な知識や技術はもちろんのこと、患者の全身管理を行うための幅広い医学的基盤が必要です。その中には、患者が急に死亡した場合や、虐待・傷害を受けた患者への対応など、法医学的な素養が求められることも多くあります。そのような視点で法医学を学んでいただき、よりよい医師になっていただきたいと思っています。
略歴
2002年 | 和歌山県立医科大学医学部 卒業 |
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岸和田徳洲会病院 総合診療科研修医 | |
2004年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 博士課程 |
2008年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 研究員 |
2009年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 特任助教 |
2010年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 助教 |
2012年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 講師 |
2016年 | 大阪市立大学大学院医学研究科法医学 准教授 |
2017年 | ドイツ・エッセン大学法医学研究所 客員研究員 |
2018年 | 和歌山県立医科大学医学部法医学教室 准教授 |
2019年6月 | 現職 |
(2005~2018年 大阪府監察医事務所 非常勤監察医) |