概要

VOICE~岐大医学部から~

循環病態学分野からのメッセージ

医学系研究科 病態制御学講座
循環病態学分野
教授 大倉 宏之先生

『VOICE-岐大医学部から-』第96回は、2019年1月に就任されました、医学系研究科 病態制御学講座 循環病態学分野 教授 大倉 宏之先生にお話を伺いました。

医師になられたきっかけは?

私が医師になるきっかけは両親の影響です。とはいいましても、私の両親は医師ではありません。それは、私が生まれるはるか前にさかのぼります。私の父が高校生の時、医薬系の大学への進学を希望していたそうです。ところが母親(つまり私の祖母です)から、「人の命に係わる仕事は責任が重すぎる」という理由で許してもらえなかったそうです。結局、父は医薬系の大学進学をあきらめ、理系の大学に進学したのちに、中学校の教師になりました。父は教師という仕事が天職と思えるような人で、他人に物事を教えるのが大好きな人でした。長男の私が生まれたときに、自分がかつてあきらめた夢を息子にかなえさせたいと思ったようで、子供のころから医学部へ進学することをすすめられて育ちました。一方、私の母親は看護師をしておりました。小さい頃によく勤務先の病院に連れていかれて、母の仕事している様子を遠くから眺めながら、仕事が終わるのを待っていた記憶があります。このような両親の元で育ったことによって、自然と医師をめざすようになりました。
私は奈良県立医科大学を卒業しました。当時は医学部卒業後ほとんどの学生が大学の医局に入局する時代でした。私は外科系に興味があり、心臓外科や脳外科の入局説明会に参加しましたが、なかなか自分の進むべき診療科を決断できず、しばらく外部の研修病院でいろんな科を経験してから進路を決めようと考え、米国流のレジデント制度で全国的に有名だった、地元の天理よろづ相談所病院でジュニアレジデントとしての研修をスタートさせました。その後、内科診断学の醍醐味に惹かれるようになり、また自分の手でカテーテルを使って患者さんの治療を行うことができるという、外科にも通じる循環器内科を自分の専門とすることを決めました。

どのような研究を行っていますか?

心エコー図や心臓カテーテル検査時の血管内イメージングを用いた、心疾患の病態解明をテーマに研究を行ってまいりました。経胸壁心エコー図でプラニメトリー法によって大動脈弁口面積が評価可能であることを明らかにしました。本法は今では教科書やガイドラインにも記載され世界中で用いられています。血管内イメージングの代表的なものに、血管内超音波(IVUS)と光干渉断層法(OCT)があります。IVUSではattenuated plaqueやperi-medial high echoic band (PHB)といった所見を提唱し、これらがカテーテルインターベンション後の血管反応を予測するうえで有用であることを示しました。また、integrated backscatter(IB)解析を併用することによって、冠動脈の組織性状を診断することが可能であることを示してきました。OCTはIVUSよりも高解像度な画像診断法で、冠動脈の不安定化を診断するのに有用であることを示しました。今後は、IVUSとOCTのハイブリッドカテーテルが使用可能となります。両者を組み合わせることによってより精度の高い診断が可能となるものと期待されています。第二内科では基礎研究の分野においても世界的な成果を上げてまいりました。現在取り組んでいるテーマの一つが、生体内多能性幹細胞Muse細胞(multilineage-differentiating stress enduring cell:ミューズ細胞)です。Muse細胞を静脈内投与すると、急性心筋梗塞組織に選択的に遊走・生着し、機能的な心筋細胞に自発的に分化し、心筋梗塞サイズの縮小と心機能の回復がもたらされることが動物実験により示されました。現在は、臨床応用を目指して、急性心筋梗塞例に対する臨床試験を行っているところです。

教室をどのようにもり立てて行きたいですか?

私たちの教室の特徴は、多様性にあると思っています。第二内科は循環器、呼吸器、腎臓という相互に関連しあう重要な臓器を扱っています。2018年から新内科専門医制度に向けて新しく内科専攻医の登録が始まりました。私たちの教室で内科専攻医として研鑽を積んでいただければ、内科各領域の経験を積みながら循環器、呼吸器、腎臓内科それぞれの専門分野についても早い時期から研鑽を積むことができますので、まさに新制度にもってこいの素晴らしい環境だと思います。やる気のある若い先生たちには、身体所見や心電図、心エコー図といった基本技能から、心臓カテーテル検査、経皮的冠インターベンションからカテーテルアブレーションといった専門的な手技まで幅広く経験してもらい、"総合"循環器内科医となってもらいます。そのうえで、さらに専門技能を極める、研究に邁進する、実地医家として地域医療を支える等、それぞれの道にむかって教室員皆が大きく羽ばたいていってほしいと願っています。

医師を目指す学生へのメッセージ

医師は大変やりがいのある仕事ですが、その分責任も重大です。単なる知識や技術だけではなく、社会性、人間性をたかめて、医師という仕事を目指してください。私たちは全力でそのお手伝いをいたします。

略歴

1989年 奈良県立医科大学医学部 卒業
天理よろづ相談所病院 ジュニアレジデント
1991年 兵庫県立尼崎病院循環器内科 専攻医
1992年 神戸市立中央市民病院循環器センター 内科専攻医
1995年 神戸リハビリテーション病院 内科医員
1998年 スタンフォード大学 研究員
2000年 生長会府中病院循環器科 医長
ベルランド総合病院循環器科 医長、循環器内科 部長
2005年 川崎医科大学附属病院循環器内科 助教授、准教授
2015年 奈良県立医科大学第1内科 准教授、循環器内科 准教授
2019年1月 現職



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