概要

VOICE~岐大医学部から~

退職教授からのメッセージ

医学系研究科 病態制御学講座
泌尿器科学分野
教授 出口 隆 先生

『VOICE-岐大医学部から-』第90回は、平成30年3月をもって退職される、医学系研究科 病態制御学講座 泌尿器科学分野 教授 出口 隆 先生にお話を伺いました。

教員生活を振り返って

教育では、卒前医学教育において、クリニカルクラークシップの充実と外科系診療科への興味を持たせるために、医学生の実際の手術への参加や腹腔鏡下手術の基礎的手技のトレーニングを体験させるなどの内容の充実と工夫に努めた。大学院教育においては、平成12年度から平成29年度の間に、19名の大学院生に研究指導を行い、18名に医学博士(甲)の学位が授与され、残りの1名についても医学博士(甲)の学位申請中である。また、10名の泌尿器科医局員に研究指導を行って全員に医学博士(乙)の学位が授与された。
研究では、尿路性器感染症、泌尿器癌、排尿障害、腎移植などを研究テーマとした。感染症領域、特に男子性感染症においては、起炎菌の探索、淋菌やMyocplasma genitalium の薬剤耐性の疫学および薬剤耐性機序の解明などに関する研究成果に対しては国際的に高い評価を受けた。淋菌の臨床分離株の収集による薬剤感受性サーベイランスでは国内最大規模を誇り、平成10年からは、WHO Western Pacific Region (WHO WPR)の淋菌薬剤耐性サーベイランスの施設として登録された。癌領域では、去勢抵抗性前立腺癌の抗癌剤耐性機序の解明、さらに癌細胞より分泌されるexosome内に含まれるタンパク質および遺伝子の解析を行うliquid biopsyの開発とその臨床応用に関する研究を行って成果を得た。排尿障害領域では、新規ニューロキニン1受容体拮抗薬の膀胱の蓄尿機能に対する影響に関する動物を用いた基礎研究に加えて、前立腺肥大症や過活動膀胱に対する新規の薬剤の臨床評価を行って排尿障害患者への適正な薬物治療法の確立を進めた。腎移植領域では、レシピエントの遺伝子多型と免疫抑制剤のpharmacokineticsとの関連を解析して、適切な免疫抑制剤の投与法の確立を目指した。また、移植腎に対して定期的に生検を行い、その病理像より移植腎機能に及ぼす潜在的な拒絶反応あるいはウイルス感染の有無を解析し、早期の介入による移植腎の予後の改善に努めた。
研究は多岐にわたるが、感染症であろうと癌であろうと、より正確な診断に基づくより適切な治療につなげようとする試みであり、研究に共通する思いにぶれは無かったように思う。周りの方々の多大な協力があり充実した教員生活を送ることができた。関係各位に深謝いたします。

次世代へのメッセージ:Boys, be ambitious!

「少年よ、大志を抱け」、この言葉を知ったのは、おそらく小学校高学年の頃であり、その古色を帯びた言葉の意味は理解していなかったことと思う。そして、中学生になり、その元の言葉が、「Boys, be ambitious!」と知って、ambitionは「野心」と訳されてあまり良い印象の言葉でなく、be ambitiousは「野心的であれ、野心家であれ」は、手段を選ばずに名声や富を得ることのみを目的とするような何らか胡散臭いように思った。では、「Boys, be ambitious!」を「少年よ、大志を抱け」となぜ訳されたのか?この言葉は、明治時代に札幌農学校のクラーク博士が、諸説はあるが、日本を去るときに学生たちに言い残した言葉とされている。英語のnative speakerに言わせると実際は懸命に努力して成し遂げる大きな望みをambitionと表現されることの方が多く、むしろ前向きな良い意味を含んでいるとのことである。当時の農学校の学生たちは、おそらくはambitionの真の意味を理解していたし、彼ら自身の中に日本の農業を近代化させるという使命感と大きな志を持っていたからこそ、その思いに「be ambitious」が響いてこのような日本語訳「少年よ、大志を抱け」になったような気がする。時代の文脈から読み解けば、この訳は当時の日本の近代化を担う若者の熱い思いを適格に表す名訳であろう。そこで、現在の学生諸君に問う。「Boys, be ambitious!」と投げかけられたら、どのようなことを思うのか?是非とも君たちの心に響くそれぞれの大志があることを願っている。もし、無ければそれを是非とも見つけて欲しい。

略歴

1953年生まれ、専門は泌尿器科学
1979年 岐阜大学医学部 卒業
岐阜大学泌尿器科 入局
1983年 米国Roswell Park Memorial Institute リサーチフェロー(2年間)
1991年 岐阜大学医学部附属病院泌尿器科 講師
1998年 岐阜大学医学部教授(泌尿器科学)
2002年 岐阜大学医学部附属病院副病院長(4年間)
2004年 岐阜大学大学院医学系研究科教授(泌尿器科学)
(組織改組による変更)
2018年3月 退職

学会役員

 日本泌尿器科学会(監事、代議員、専門医、指導医)
 日本性感染症学会(理事、認定医)
 日本移植学会(移植認定医)
 日本感染症学会(評議員)
 日本化学療法学会(評議員)
 岐阜県ジン・アイバンク協会(副理事長)



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