VOICE~岐大医学部から~
退職教授からのメッセージ
医学系研究科 腫瘍制御学講座
放射線医学分野
教授 星 博昭 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第69回は、平成27年3月をもって退職された、医学系研究科 腫瘍制御学講座 放射線医学分野 教授 星 博昭 先生にお話を伺いました。
教員生活を振り返って
以前は、『放射線科は、一体、何をするところですか?』という医学生からの質問が多かったのですが、最近は『CTやMRI、核医学といった画像診断や放射線治療を専門とするところ』と理解されるようになりました。別の言い方をすると、病院内の各診療科を支える専門医のいる診療科と言えます。このような画像診断・放射線治療は、新しい機器が開発され発展してきましたので、最も大きく仕事内容が変わった診療科の一つです。教育・診療・研究といった面でも、大きな時代の変化の中で、変遷を遂げてきました。
教育面では、岐阜大学に赴任して間もない頃に、テュトーリアル教育が全国でいち早く取り入れられることになり、それまでの系統講義による教育が一変しました。当然、症例画像を見ながら自学自習で学習するテュトーリアル教育を導入している大学はどこにもなく、どのようにすればよいか迷いました。学生への提示資料は毎年更新する必要があり、学生の興味を惹き、理解してもらえる工夫に悩んだものです。また、ポリクリ(臨床実習)の内容も、他の診療科とは一味違う内容を出来るだけ企画してきました。画像診断の話をしながら学生と対話するのはとても楽しく、医学教育に携わることができたことは、私の喜びでした。
診療面では、岐阜市司町にあった旧医学部・附属病院が2004年に柳戸地区に新築・移転したことが、思い出深い出来事です。あれからあっという間に、11年が経とうとしています。当時は大変な苦労もありましたが、滅多に経験することのない機会を得ました。移転により、それまでの放射線診療内容も全く新しい世界になりました。新病院では、普及が間もない電子カルテが採用され、画像はフィルムからフィルムレスのモニター診断になったことで、放射線科としてはいろいろと戸惑うことがありました。今では、モニター診断はどの病院でも行われていますが、画像診断が発達し続ける今日においては、膨大な量の画像をいちいちフィルムで見ることは不可能です。今さらフィルム時代に戻って診療しようと言っても、全く何もできないでしょう。このように放射線医にとっても、とても便利になりました。
研究面では、機器の急速な発展に伴い、常に最先端のテーマを得ることが出来る恵まれた環境であったと思います。また、大学院医学系研究科 再生工学講座に、画像解析やCAD(コンピュータ支援診断)を専門とする知能イメージ分野が設置され、画像情報解析に関する共同研究に携わることが出来ました。また、2013年からは、岐阜薬科大学薬効解析学研究室・本学部眼科学分野・放射線医学分野の3分野で共同研究を開始しました。
放射線医学の魅力
約40年前にCTが登場してから、医療の世界は一変し、今や画像診断は、ほとんどの病気の診断や治療に必要不可欠なものになりました。ただ、CTが登場した当時の画像を改めて見てみると、非常に画質が悪くとても診断できるような精度ではありませんでした。初めに発売されたのは頭部専用のCTで、2スライスの同時撮影に約4分もかかり、さらにCT画像が表示されるのは、1枚当たり約7分も経ってからという具合でした。
私が小学生だった頃の約55年前に、父が原因不明の病気に罹りました。進行性の歩行障害の症状から、パーキンソン病やALS(筋委縮性側索硬化症)などと診断されましたが、発症から約7年後に脳腫瘍であることが判明しました。7年もの間に脳腫瘍は大きくなっており、大変な手術でしたが幸い一命を取り留めることができました。しかし、後遺症が残ってしまい、その後の半生を半身麻痺で過ごすことを余儀なくされました。
父の病気がCTの登場以後に発症したのであれば、即CTで検査を行い、迅速な手術で後遺症が残ることなく仕事に復帰できたのではないかと思います。医師を目指し、脳や画像診断に興味を持つようになったのは、自然の流れだったのではないかと思っています。
放射線科は、画像診断と放射線治療に分かれますが、もちろん両者は切っても切り離せません。画像診断では、基本である単純X線写真からCTやMRI、核医学診断まで、画像診断が年々発達しています。放射線治療では、機器の発達によりミリ単位の範囲で放射線照射が可能となりました。そのような中で、最新の画像診断に密接に携わり続けることが出来ることは、放射線科の大きな魅力です。さらに、今までの発展の歴史を振り返ると、今後は今までとは全く異なる画像診断が近い将来出現するかもしれません。放射線科は、このように常に新しいことを身近に学び親しんでいける魅力があります。
次世代へのメッセージ
時代のニーズに常に適応できるよう、新しい技術や知識を学び続けてください。特に放射線画像診断は、時代と共に大きく変遷してきましたが、どのような領域でも同じことが言えると思います。
普遍的で常識的だと思われてきた、ケガや発熱などの日常的な治療法や薬でさえ、時代が変わると全く逆の治療に変わったりします。将来、臨床医や研究者など、どのような立場になった時でも学び続けなければなりません。厚く信頼を受ける医師、世界をリードする研究者になってください。
略歴
1979年 | 群馬大学医学部 卒業 |
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宮崎医科大学 放射線科 入局 | |
1987年 | 宮崎市郡医師会病院 医長 |
1988年 | 宮崎医科大学附属病院 放射線科 講師 |
アメリカ ハーネマン大学 交換留学生 | |
1991年 | カナダ マギル大学 モントリオール脳神経研究所 研究員 |
1994年 | 宮崎医科大学 放射線医学講座 助教授 |
1995年 | 岐阜大学医学部 教授 |
1999年 | 岐阜大学医学部附属病院 医療情報部長(併任) |
2010年 | 岐阜大学人間医工学研究開発センター(兼務) |
2015年3月 | 退職 |