VOICE~岐大医学部から~
眼科学分野からのメッセージ
医学系研究科 感覚運動医学講座
眼科学分野
教授 坂口 裕和 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第119回は、令和3年5月に就任されました、医学系研究科 感覚運動医学講座 眼科学分野 教授 坂口 裕和 先生にお話を伺いました。
眼科学分野及び眼科の紹介
目からの情報は、人では外界からの情報の80%以上を占めるといわれます。すなわち目に疾患が生じ、視機能が障害をうけると、QOLが大幅に損なわれる可能性があります。眼科では、視機能に影響を与える疾患を的確に診断し、治療することを目的とします。
一言に眼の病気と言いましても、結膜炎、網膜剝離、糖尿病網膜症、斜視、網膜色素変性などのよく聞く病気から、我々でもめったに出会わないような病気まで様々です。岐阜大学の眼科学分野では、この数十年、緑内障を中心に臨床、研究を行ってきました。緑内障は罹患されている患者の人口が多く、また失明原因の上位に入る疾患であり、今後もその治療、研究は重要です。私自身はこれまで網膜硝子体疾患に対する外科的治療を中心に行ってまいりました。網膜硝子体疾患には、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性など様々な疾患が含まれ、その患者の人口も多いのが特徴です。当眼科学分野では、伝統のある緑内障、と、網膜硝子体疾患の特に外科的治療を中心に、他の疾患にも対応しながら、臨床、研究を進めています。
現在研究している内容について
網膜硝子体手術はこの20年で、極小切開による超低侵襲手術に進化し、多くの疾患で、術後の視力が良好になり、早期回復早期社会復帰が可能となりました。しかしながら、視力が改善しない疾患がまだまだ多くあるのも事実です。我々はそれらの難治性疾患に対する新規治療方法の開発、新しい手術方法の開発を目指しています。
その他にも、臨床に直結するような研究に取り組んでいます。網膜硝子体手術において代用硝子体として用いるシリコンオイルや特殊なガスには、効果、安全面で多くの課題がありました。我々は大阪大学、メニコン社と協力し、新規ペプチドゲルを産学連携で開発し、人工硝子体への応用を目指しています。また同ゲルの薬剤徐放作用も証明し、抗VEGF薬の頻回硝子体注射に代わる画期的な方法として、徐放システム開発に取り組んでいます。また、今まで共同研究で実施してまいりました、人工視覚、あるいは、加齢黄斑変性患者等に対するiPS細胞由来網膜細胞移植の両プロジェクトにも引き続き積極的に参画していく予定です。
眼科学分野教授としての抱負
私のライフワークは網膜硝子体疾患の治療ですが、その中でも特に外科的治療を専門として参りました。単に解剖学的成功のみではなく、低侵襲手術の開発にも取り組み、術後視力も良好で、多くの患者が運転や読書が可能な視力を取り戻す、そのような手術を目指してきました。また、難治性疾患である増殖性硝子体網膜症や重症糖尿病網膜症には、最新の機器と手技を駆使し、失明回避、生活視力の獲得を目指してきました。そのような難症例を含む多数例の手術経験および専門的な技術を生かし、手術を引き続き実施し、後進を育成し、また、伝統ある緑内障の手術加療も継承し、日本トップレベルの手術件数を誇るような施設を目指したいと思っております。
さらに県全土の診療を整えることが大学の重要な責務と考えています。それぞれの病院が連携して診療にあたることができるネットワークを整備し、岐阜県全土の開業医、勤務医を中心とした病診連携も積極的に行っていければと思います。岐阜県の地域医療の拠点となり、県民の健康の向上に貢献するとともに、全国の網膜硝子体疾患治療の拠点を構築することを目指したいと考えます。
医師を目指す学生へのメッセージ
眼科では、ここ10年20年で、網膜硝子体手術に限らず、角膜、緑内障、斜視、涙道など多くの分野の手術技術、手術器具が洗練化され、低侵襲化が進んでいます。手術はより安全性を増し、また、3Dモニターをみながら手術をするヘッズアップサージェリーなども始まり、マイクロサージェリーに興味がある先生にとって、眼科は一つの大きな選択肢になるに違いありません。
眼科では、もちろん手術以外にも、内科的治療で対応する疾患もたくさんあります。各種抗生剤をはじめ、ステロイド、免疫抑制剤、レーザー治療、抗VEGF薬注射はよく用いる治療方法であり、さらには、放射線療法を用いなければならない疾患もあります。診断と治療薬の匙加減が大切で、それによって患者の予後は左右されます。
診断における有用な検査器械も数多く開発されています。網膜の断面、網膜の層構造が、非侵襲的に画像化することがOCTという器械で可能になり、また、造影剤を使用せず血流の有無がわかる、そんな器械も登場してきました。それらの分野で研究がさかんに行われています。
このように診断、治療、特に手術とどんどん進化している過程の眼科は、若い皆さんの力を活かせる科ではないかと思います。眼という器官を通して生体の不思議、生命力の強さ、医学・医療の面白さが体験できると思います。是非興味をもって眼科学に取り組んでみてください。
略歴
1995年3月 | 大阪大学医学部 卒業 |
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1995年5月 | 大阪大学医学部附属病院 眼科 研修医 |
1996年1月 | 泉大津市立病院 眼科 医員 |
1997年10月 | 東大阪市立総合病院 眼科 医員 |
1999年6月 | 大阪大学医学部 医学系研究科 眼科 研究生 |
1999年9月 | クリーブランドクリニック財団コール眼研究所 International Research Fellow |
2002年9月 | 大阪大学医学部附属病院 眼科 医員 |
2005年11月 | 大阪大学医学部 眼科学講座 助手 |
2007年4月 | 大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)講座 助教 |
2013年4月 | 大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)講座 講師 |
2014年4月 | 大阪大学大学院医学系研究科 先端デバイス医学寄附講座 准教授 |
2021年5月 | 現職 |