VOICE~岐大医学部から~
小児病態学分野からのメッセージ
医学系研究科 分子・構造学講座
小児病態学分野
教授 大西 秀典 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第113回は、令和3年3月に就任されました、医学系研究科 分子・構造学講座 小児病態学分野 教授 大西 秀典 先生にお話を伺いました。
小児病態学分野及び小児科の紹介
岐阜大学小児科学教室は、従来から免疫・アレルギー、先天代謝異常症を主なテーマとして世界的にも評価されるような臨床、研究を行ってきた伝統のある教室です。現在は先天性免疫異常症(原発性免疫不全症及び遺伝性自己炎症疾患)、先天性代謝異常症などの遺伝性疾患や自己免疫疾患といった比較的希少な疾患だけではなく、感染症、アレルギー疾患、神経疾患、血液・悪性腫瘍、内分泌疾患をはじめ小児疾患の様々な疾患領域について専門診療、研究を行っています。小児科の関連部門として当院は新生児集中治療部を備えており、令和3年から地域周産期母子医療センターの認定を受け岐阜地区の新生児医療において重要な役割を果たしています。また岐阜県のご協力により令和2年から小児在宅医療教育支援センターを設置いただき、重症心身障がい児者、発達障害児、移行期の医療を行う医療者の教育・支援にも取り組んでいます。
現在研究している内容について
私の主な研究領域は、先天性免疫異常症、特に自然免疫系の異常症(遺伝性自己炎症疾患を含む)ですが、教室では先天性代謝異常症、アレルギー、血液腫瘍関係などの領域で世界に向けた研究を展開しており、「教科書を1行でも書き換えることを目指す」活動に取り組んでいます。新しい疾患の発見、診断方法の開発、創薬が我々の教室の目標です。その1例として2019年には世界ではじめてのI型インターフェロン症の責任遺伝子の発見を報告しておりますが、当科で診療中の免疫難病症例の中にはいまだ原因不明の方も多数おられます。診断方法の開発としては、フローサイトメトリを利用した免疫異常疾患の迅速診断システムの確立や、構造生物学を利用した遺伝子バリアントの評価系の構築にも取り組んでいます。最後に創薬についてですが、免疫難病の中で高サイトカイン血症が病因となっているものがあり、新規の抗サイトカイン薬の開発にも取り組んでいます。その他、先天性代謝異常症の網羅的遺伝子診断、食物アレルギーの治癒を目指した食品開発、血管腫や難治なリンパ管奇形に対するプロプラノロールやmTOR阻害剤の臨床研究・治験を行っています。
小児病態学分野教授としての抱負
小児病態学分野教授として医学教育・研究・診療において最も重視する点は、臨床と研究のバランス、その高次元での融合です。臨床と基礎研究は隔てるものではなく、現在は医学の発展と共に基礎研究がそのまま臨床に直結する時代となっています。その代表的な例が遺伝子診断です。2010年前後から次世代シークエンサーの技術が確立、普及し、従来原因不明であった症例の診断が比較的容易につくようになり、またその病態に応じた特異的な治療法が見いだされることとなりました。2009年からは国策として厚労省の難治性疾患克服研究事業が立ち上がり、多くの希少難病がクローズアップされています。小児科は診療科の特徴として、担当する年齢層的に遺伝性疾患が多いことが挙げられ、その多くが希少難病ですが、大学病院の重要な使命のひとつに、地域で発生する原因不明の難治疾患を解決する医療があります。このことから、臨床を主に担当する医師や研修医であっても基礎研究の知識を学び、Research mindを持った医師とならなければ、太刀打ちできない疾患に遭遇することになりえます。臨床は単純化すると診断と治療の繰り返しですが、その中で具体的な目標として①新しい疾患の発見、②新しい診断方法の確立、③新しい治療法の創出を掲げたいと思います。尚、小児科では、専門医研修制度が平成29年度から変革され、それに伴い多くの小児科医が県内で研修を開始していますが、彼らが難しい疾患から逃げず、Research mindを持って立ち向かい、質の高い診療を提供できる小児科医をひとりでも多く育成することが私の使命であると考えています。
医師を目指す学生へのメッセージ
小児科は、通常の医療の範囲では診断がつかない、治療のできない症例に出会うことが多い診療科ではないかと思います。そのためリサーチマインドを重視した教育を医学部生の段階から行っています。現在の当学のカリキュラムでは医学部2年生の時点で一定期間研究室に配属されますが、小児科においては小児難病の診断・治療に関する研究を体験していただいています。また臨床実習や専門医研修においても、県内の他施設では経験できないような多くの希少疾患・難病の患者さんをいかにして診断をつけるか、治療していくのか、若手医師の考える力を養成することに注力しています。小児科医は小児(だけではなく実際はAYA世代や成人の年齢に達した患者さんも診ています)の総合診療医でありながら、小児の専門診療医でもあるので、覚えることも多く、研修はとても大変ですがやりがいがある診療科だと考えています。岐阜で小児医療を我々ととも担い、教科書の1行を一緒に変えていく医学部生、大学院生が当医局の門戸を叩くのを心待ちにしています。
略歴
1998年3月 | 岐阜大学医学部医学科 卒業 |
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1999年1月 | 高山赤十字病院小児科 医師 |
2003年3月 | 岐阜大学大学院医学研究科内科系専攻(小児科学) 修了 |
2003年4月 | 横浜市立大学大学院総合理学研究科生体超分子システム科学専攻 共同研究員 |
2004年7月 | 財団法人日本予防医学協会 リサーチレジデント |
2006年4月 | 岐阜大学医学部附属病院小児科 医員 |
2008年4月 | 岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 助教 |
2011年1月 | 岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 併任講師 |
2015年1月 | 岐阜大学医学部附属病院小児科 講師 |
2017年10月 | 岐阜大学医学部附属病院新生児集中治療部 准教授 |
2019年11月 | 岐阜大学医学部附属病院小児科 准教授 |
2021年3月 | 現職 |