VOICE~岐大医学部から~
耳鼻咽喉科学分野からのメッセージ
医学系研究科 神経統御学講座
耳鼻咽喉科学分野
教授 小川 武則先生
『VOICE-岐大医学部から-』第107回は、令和2年7月に就任されました、医学系研究科 神経統御学講座 耳鼻咽喉科学分野 教授 小川 武則先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
医師を目指す多くの学生の方と同様、私も小児期に受けた医療がきっかけとなっています。肘内障で救急外来に伺うことも多くありましたし、副鼻腔炎で耳鼻科にも定期的にお世話になっていました。さらに小学校4年生の最初の入院も大きなきっかけでした。虫垂炎から腹膜炎になり、1カ月ほど入院しました。初めての手術、入院生活でしたが、局所麻酔で子供ながら1時間近く頑張ってたことを鮮明に覚えていますし、医師、看護師さんなど多くの医療スタッフの方にお世話になったことで、医療者に憧れも抱きました。最初は優しく、回復してからは廊下を走り回っては怒られたりと子供らしく?思う存分入院生活を送りました。今でも腹部には虫垂炎にしては比較的大きめの傷がありますが、医学部進学のきっかけについてはなんとなくその時の経験があったからと思います。耳鼻咽喉科・頭頸部外科に興味を持ったのは大学6年生の時です。祖父の癌死をきっかけに、癌治療に携わりたいといった思いと診断から治療、経過観察まで携わりたい、耳鼻咽喉科実習で経験した機能障害を何とかしたいとの思いで、卒業前には頭頸部がんを専門とすることを決め、現在に至っております。
どのような研究を行っていますか?
耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍は、近年死亡者数の増加がありますが、首尾よく生存させることが出来てもキャンサーサバイバーのQOL、quality of survivalを維持することも大きな課題です。耳鼻科領域のがんは、話す、食べる、聞く、見る、におい、味、容貌など人らしい生活を送る上で重要な機能を障害します。そこで、より良い機能を目指した個別化医療実現という目標のもと、基礎ならびに臨床研究を行っています。基礎研究では、薬剤耐性、放射線耐性に関する研究、咽頭癌を中心としたヒトパピローマウイルスがんの研究、頸動脈小体腫瘍に代表される家族性腫瘍の遺伝子解析などの基礎研究を行ってまいりました。現在では、オルガノイド培養法を用いた遺伝子解析と分子標的薬を中心とした薬剤感受性システムの確立、マイクロRNAやlong noncoding RNAを中心とした血清マーカー、唾液マーカーの研究、癌治療に伴う口腔内細菌叢の変化をとらえるメタゲノム解析、酸化ストレスに関わる転写因子と抗がん剤、放射線副作用の関係など頭頸部癌の診断、治療に関わる因子を広く研究しています。臨床研究では、個体差が大きく、個別化医療が大きな問題となる高齢者医療、治療前の質的診断により低侵襲手術可能かを判断する画像診断、医科歯科合同手術、エビデンス作りのための多施設共同研究などを行っています。
教室をどのようにもり立てて行きたいですか?
大学教室は、全ての医局員が、男女の差がなく、アイデアを生かしてスキルアップできる環境でなければならないと思います。明るく開かれた環境で、臨床、研究に偏ることなく、バランスの良い教室を目指したいと思います。その中で、国内、海外、基礎、臨床問わず大いに見聞、人脈を広げるチャンスを見つけていきたいと思います。私個人としても日本をリードする頭頸部外科、頭蓋底外科医になることが目標ですし、良好な多職種チーム(MDT)を作ることにも尽力したいと思っています。具体的には、頭頸部腫瘍センターを設置、発展、日本をリードする頭頸部外科、頭蓋底外科手術の実施、AI、ネット環境を利用した医療過疎地への診療支援、分子病理学的背景をもとにしたオーダーメイド医療の発展などが目標となります。
その一方で、当教室の伝統でもある平衡診療・研究、耳科学の研究もさらに発展させていきたいと思います。耳鼻咽喉科は多くの医学生の方が感じることと思いますが、非常に扱う分野が多岐にわたっております。感覚器(聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚)、多くの脳神経、音声などのコミュニケーション機能、上気道の炎症、アレルギー、摂食・嚥下、頭頸部腫瘍など幅広い臨床・研究ができることも魅力です。医局員個々の希望、特性を生かしながらみんなで成長するために、大いにサポートしていきたいと思います。
医師を目指す学生へのメッセージ
各々理想とする医師像があると思います。私は、最新の治療法を含めたベストな治療法に精通しながらも患者さん、ご家族の心情に配慮出来、思いやり(ホスピタリティ)あふれる医師を目指しています。まだまだ未熟で、患者さんと一緒に悩みすぎたり、時には自分ではベストな治療法が提示できないこともありますが、そのためにメディカルスタッフと良好なチームを作って、自分一人で解決できない時に大いに助けてもらっています。キャンサーボードなどで価値観の異なるメンバーと議論すると、自分が正しいと思っている考えが、実はマイノリティであると思わされることも多々あります。是非、人の和を大事に、チームワークを大事にすることを学生時分から身につけて、医療の現場に飛び込んでいただければと思います。また、私が大切にしている師匠の教えに" If I were,"という言葉があります。もし、自分が患者さんだったら?家族だったら?指導医だったら?経営者だったら?様々な立場に自らを置くことで、多角的に物事、自分をとらえ、問題を解決したり、いざ自分がその立場になったときに準備となったりすることが出来ます。病気を経験すると良い医療者になれると昔から言われますが、大いに様々なことを想像して、心の準備をすると良いと思います。
略歴
1998年3月 | 金沢大学医学部 卒業 |
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5月 | 東北大学医学部付属病院耳鼻咽喉科 医員 |
1997年7月 | 仙台市立病院耳鼻咽喉科 嘱託医師 |
2004年3月 | 東北大学大学院医学系研究科博士課程 修了 |
4月 | 東北大学病院耳鼻咽喉科 医員 |
2005年7月 | 東北大学病院耳鼻咽喉科 助教 |
2006年4月 | 宮城県立がんセンター病院耳鼻いんこう科 医師 (2007年より医長) |
2008年7月 | 東北大学病院耳鼻咽喉科 助教 |
2010年10月 | ジョンズホプキンス大学耳鼻咽喉科 Post-Doctoral Fellow |
2014年4月 | 東北大学大学院医学系研究科 講師 |
2014年5月 | 東北大学病院耳鼻咽喉科 講師 |
2019年7月 | 東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 准教授 |
2020年7月 | 現職 |