概要

VOICE~岐大医学部から~

退職教授からのメッセージ

医学系研究科 神経統御学講座
生理学分野
教授 森田 啓之先生

『VOICE-岐大医学部から-』第102回は、令和2年3月をもって退職される、医学系研究科 神経統御学講座 生理学分野 教授 森田 啓之先生にお話を伺いました。

教員生活を振り返って

神戸大学在学中から生理学教室に出入りし,1981年,卒業と同時に香川医科大学第2生理学講座助手として研究生活をスタートしました。研究テーマは,自律神経性血圧調節,食塩感受性高血圧,NaClの吸収・排泄機構,多臓器連関などです。1996年の岐阜大学着任後,これらに加え,偶然のきっかけ―宇宙医学公募研究の審査員に指名された,岐阜大学に空間識実験装置 (動物用遠心過重力装置) があった―で宇宙医学に関わるようになりました。土岐市には自由落下施設である日本無重量研究所,名古屋空港には放物線飛行ができるダイアモンドエアサービス,近隣には多くの宇宙・航空機産業,岐阜は宇宙医学研究にはうってつけです。

重力の感知器官である耳石前庭系は,これまで知られていた姿勢制御や眼球運動制御以外にも自律神経・血圧調節,筋・骨代謝など多彩な身体機能調節に関与していること。また,前庭系は可塑性が強く,異なる重力環境に曝されるとその機能が変化することなどを明らかにし,宇宙飛行士でみられる医学的問題―平衡機能障害,起立性低血圧,筋・骨量減少―に前庭系の可塑的変化が関与しているのではないかとの仮説のもと,JAXA,NASAと協力して研究を進めてきました。岐阜大学退職後は,他大学の教員,JAXAの非常勤研究員として,宇宙飛行士に対するcountermeasuresの開発と,その地上への応用をテーマに研究を継続する予定であり,教員生活を振り返るにはもう少し時間が必要です。

次世代へのメッセージ

宇宙医学研究者は,「かつて宇宙少年であった」,「flight surgeonの試験を受けた」,「宇宙飛行士選抜試験にチャレンジした」など,宇宙への思い入れが強い人が多いですが,私の場合はほんの偶然で始めた宇宙医学研究であり,なんか後ろめたい気もします。それでも,大学やJAXAのサポート,宇宙医学に興味を持ってくれた学生,大学院生,教室員と協力して,研究を続けることができました。マー,そんなに強い思い入れがなくても,偶然と出会いに導かれて・・・というような研究生活もありということです。

言うまでもなく,医師は患者という複雑生命体に多角的にアプローチすることが求められます。マニュアルでは対応できない未知の疾患に直面したときに必要となるのは,いわゆるリサーチマインドです。患者を観察し,仮説を立て,その仮説を証明するためのプロトコールを考え,実施し,もとの仮説と照合して新たな仮説を導き出すという研究手法と同じ考え方が必要となります。これは,未知の疾患を未知の課題に変えると,他の職種にも当てはまります。職業教育専門学校化しつつある現在の医科系大学にあって,いかにリサーチマインドを涵養するかがこれからの学生には重要です。将来,臨床に進むにしても,一時期どっぷりと研究生活に浸かるのは素敵なことです。その中で偶然と出会いに導かれて,基礎研究に転進するのはもっと素敵なことかもしれません。

略歴

1981年 神戸大学医学部 卒業
香川医科大学第2生理学講座 助手
1982年 米国ハーバード大学医学部留学 (~1984年)
1986年 香川医科大学第2生理学講座    
講師
1990年 香川医科大学第2生理学講座    
助教授
1996年 岐阜大学医学部第1生理学講座    
教授
2020年3月 退職

学会役員等

日本病態生理学会理事長
日本宇宙航空環境医学会理事



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