VOICE~岐大医学部から~
眼科学分野からのメッセージ
感覚運動医学講座
眼科学分野 教授
久冨 智朗 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第145回は、令和7年8月に就任されました、医学系研究科 感覚運動医学講座 眼科学分野 教授 久冨 智朗 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
振り返ってみると、私が初めて夢中になって自主的に取り組んだものは、天体観測でした。小学校5年生の時に理科で星空スケッチの宿題が出され、星々に色や明るさの違いがあることを知り、俄然興味を持ちました。ワクワクしながら望遠鏡を買って欲しいと眼科医の父に頼みましたが、最初に買ってくれたのはなんと対物レンズだけでした。がっかりしながらも、眼科の検眼レンズを接眼レンズとして使い、望遠鏡を自作してみましたが、架台がないと揺れて良く見えません。そこで角材を買ってきて自分で架台を自作していると、指に木の棘が刺さりました。父から眼科の細隙灯顕微鏡とピンセットを渡され、自分で取る様に言われました。眼科の顕微鏡はしっかり遊動式架台に固定されて細部まで立体的に見え、棘は簡単に取れました。同時に指の毛細血管を赤血球がコロコロと転がるように流れて行く様子も鮮明に見えて驚きました。なんとか架台が完成し、早速、宵の明星、金星を観察しましたが、地球の自転であっという間に視野の外に出てしまい、自作望遠鏡にはさらに追尾機能が必要であることが分かりました。
こうして、どうしてもきちんとした望遠鏡でなければ詳しい観察は難しいと父親にプレゼンしますと、今度は満足気に望遠鏡一式を買ってくれました。それから父の思惑通りか、天体観測から
視覚に興味を持ち、いつしか自分も眼科医になろうと思うようになりました。
ワクワクした星空への探求心は、やりがいをもって趣向を凝らして諦めずに試行錯誤する今の仕事に繋がっていると思います。
現在研究している内容について
私は眼科医として、臨床研究では網膜硝子体疾患、白内障、緑内障などの診断、手術療法を専門としています。基礎研究では網膜硝子体疾患の病態治療研究、電子顕微鏡を用いた微細構造病理解析、細胞死の細胞生物学・分子生物学研究に取り組んで来ました。さらにこれらを融合し、患者さんに還元できるトランスレーショナルリサーチに取り組んでいます。硝子体手術では硝子体や内境界膜など透明な組織や膜に対して手術をする必要がありますが、従来は困難でした。そこで硝子体白内障手術補助剤Brilliant Blue G(BBG)の開発・知財化、臨床応用・販売を実現しました。この手術補助剤BBGを内境界膜にかけると、透明な内境界膜はうっすらと青色に染まります。BBGを使うことで、膜が見えるようになり、安全確実短時間で手術ができるようになりました。この実用化したBBGは世界で190万人近くの患者さんの手術を助けています。しかし膜を上手に剥がす手術手技自体は、依然、術者の熟練が必要です。そこで現在は、患者さんにも術者にも優しい、手術手技自体を助ける新たな手術法開発を多角的に進めています。
眼科学分野教授としての抱負
当教室には伝統の緑内障診断治療の研究の歴史があり、多くの優秀な研究者、臨床家を輩出してきました。多治見市住民を対象とした多治見スタディは世界的に有名で、その後に続く研究のお手本となりました。これまでの歴史を紐解きつつ、身近なところからひらめきの領域まで、臨床にも研究にも積極的に参加するクリニシアンサイエンティストの養成に努めたいと思います。医学に限らず判断の根拠となる知識が限られていれば、判断は頼りないものとなります。物事を多角的に判断できるように、多様な視点を持つことが大事です。魅力的な臨床、研究を進め、教室から発信することで、興味を持つ若手を集めたいと思います。達成感を共有できる世代を超えた教室=チームでありたいと思います。岐阜から世界へ技術や知識を発信し、地域の方々にも還元できるよう取り組みます。
医師を目指す学生へのメッセージ
近年の医学の進歩、特に分子生物学の進歩により、生物を支える精緻なメカニズムが明らかとなっています。今まで予想もされていなかったような、分子同士の相互作用がわかり、これを狙った分子標的薬も実用化され、臨床で実際に患者さんを助けています。それに伴って、医学生に求められる知識も膨大なものとなっています。今の医学生は本当に大変だと思います。一見途方もない情報量に見えてしまって、非AIの生身の我々には新しく取り組み楽しむ余地は残っていないように思えてくるかもしれません。しかし我々にしか思いつかない大きな秘密は身近に沢山埋もれています。
このように実際の患者さんに必要な医療と科学の知識の間には、多くの情報の谷間というべき、アンメットニーズが存在します。
何でも良いです。学生時代に興味を持って没頭できるものがあるといいですね。私の学生時代はテニス三昧でした。今でもその時に培った先輩後輩のネットワークに大いに助けられています。
楽しみを見つけ究める力は、医師として働く原動力となり、継続する力に繋がり、成果がでれば言い表せない程の達成感が得られます。当教室も学生さんにも動物模擬眼を使った実際の手術さながらの手術練習や学会参加・発表機会の提供、論文作成など、様々な意欲に応えられるようにサポートしたいと思います。臨床も研究も私生活も、女性医師も男性医師も、何だって楽しみたい未来に繋がる君たち新世代を全力で応援します。いつでも気楽に眼科学教室に遊びに来てください。
略歴
1996年 | 九州大学医学部卒業 |
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1996年 | 九州大学附属病院 |
1999年 | 九州大学大学院 |
2005年 | 九州大学医学研究院助教 |
2005年 | 米国Harvard大学MEEI研究員 |
2011年 | 国立病院機構 九州医療センター眼科科長 |
2016年 | 九州大学病院 眼科 講師 |
2018年 | 九州大学大学院 眼病態イメージング講座 准教授 |
2019年 | 福岡大学筑紫病院 眼科 診療部長 准教授 |
2025年 | 岐阜大学大学院医学系研究科 眼科学 教授 |