VOICE~岐大医学部から~
医学教育開発研究センターからのメッセージ

医学教育開発研究センター
教育開発学分野
野村 理 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第148回は、令和8年4月に就任されました 医学教育開発研究センター 教育開発学分野 教授 野村 理 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
父が産婦人科医、母が小児科医という家庭に生まれ育ちました。家での会話は自然と医学の話題になり、周囲からも「医師の家系」と見られることが多く、子ども心にはそれが心地よいものではありませんでした。そのため、将来は決して医師にはならないと、思春期の私は固く決めていました。しかし、そのさなかに父が急逝しました。
父と共に働いていた方々から、仕事に真摯に向き合う姿勢や地域医療への貢献など、私の知らなかった父の姿を教えていただきました。それを聞くうちに、なぜか「自分が父の役割を埋めなければならない」と感じ、医師になることを決意しました。
念願かなって医学部に入学しましたが、1年生から4年生までの学びは、朝から晩まで講義を受け、膨大な知識を暗記し、試験が終わると忘れてしまうという繰り返しでした。これが本当に医学の学びなのだろうか、と強い違和感を覚えました。
講義室よりも大学のPC室にこもり、当時は非常に遅かったインターネットを駆使して国内外の医学部のカリキュラムを調べ、「医学教育学という学問がある」ことを知ったのは4年生の時でした。その後、岐阜大学医学教育開発研究センター(MEDC)のセミナーやワークショップに学生の立場で参加し、温かく迎えていただいた経験が、現在の私の原点となっています。
現在研究している内容について
医学部卒業後は、小児救急医としての小児科学と救急医学のトレーニングをしてきました。特に小児病院での救急部門で働いていた時には、救急蘇生現場での自身の心理状態や感情が、医師としてのパフォーマンスやチームでの診療に大きく影響することを自覚する一方、自身の感情の調整に苦慮しました。この経験に基づき、自身の研究テーマを医学教育における感情に注目し、医療従事者や医学生の感情がどのようにパフォーマンスに影響を及ぼすのかを研究してきました。そのため、医療現場もしくは医学教育現場での主観的な感情を評価する自己回答式尺度を開発し、さらには客観的な感情評価のために、皮膚活動電位という感情の覚醒度を時計のようなウェアラブルデバイスで測定する教育心理学等での手法を医学教育に応用して研究を行い、ポジティブな感情は医学生や医療者のパフォーマンスを改善させ、ネガティブな感情やストレスはパフォーマンスを悪化させてしまう可能性があることが分かってきました。このような研究により、ポジティブな感情を高めるような教育プログラム、すなわち学び手の感情に配慮したカリキュラムの構築が可能となります。さらには、医療者が自身の感情を適切に認識し、パフォーマンスを適切に高めることができるような感情制御手法の習得を支援するプログラムも将来的には構築してきたいと考えています。
医学教育開発研究センター教授としての抱負
医学教育開発研究センター(MEDC)は、医学教育全国共同利用施設として文部科学省から認定された、日本全国の医療者を養成する学術機関の教育の質を改善する責務があります。そのような全国的な使命と同様、もしくはそれ以上に、岐阜大学の教育の質向上や岐阜県内の医療にも医学教育という観点から貢献する役割があると考えています。岐阜大学に入学したいと考えてくださっている皆様、岐阜大学の学生や教員や職員の皆様、地域住民の方々、県内の医療機関の関係者の方々との対話を通じて、この役割を果たすためのMEDCの新たな地域での使命を見出して、皆様と共に活動していきたいと考えています。
医師を目指す学生へのメッセージ
現在の働き手の多くが将来AIに置き換えられるという言説が昨今あります。確かに、AIによって効率的に運用できる「業務」が医療の中にも多くあるとは思います。しかし、「人が人を診る」「人が人を教える」という太古の昔からあった人類としての生業がなくなることはないと信じています。そこでは、人が人を診る、教えるにあたって、人が得意なことは何か、不得手なことは何か、AIに助けを借りるべきことは何かという問いが生じてきます。
そのために必要なことは人というものを良く知ることなのではないかと思っています。他者と話し、理解し、人が残してきたものを見て、触り、納得する。人が書いてきたものを読み、解釈し、家族や料理人が作ってくれたものを味わい、感謝する。時には、異なる文化の中にいる人、その人たちによって作られたものに接することも大切に思います。このような人に纏わるすべての過程の中で、自分というものを改めて知ることができるのではとも思います。すなわち、今の生活を、少しだけ俯瞰的に捉え直しながら、より大切に生きていくことを皆さんに期待しています。
略歴
| 平成13年4月 | 弘前大学医学部医学科 入学 |
|---|---|
| 平成19年3月 | 弘前大学医学部医学科 卒業 |
| 平成19年4月 〜 平成21年3月 |
津軽保健生活協同組合 健生病院 臨床研修医 |
| 平成21年4月 〜 平成24年3月 |
国立成育医療センター 総合診療部 レジデント |
| 平成24年4月 〜 平成28年3月 |
東京都立小児総合医療センター 救命救急科 サブスペシャリティ・レジデント |
| 平成28年4月 〜 平成29年7月 |
東京都立小児総合医療センター 救命救急科 医員 |
| 平成29年9月 | 弘前大学大学院医学研究科 博士課程 修了 |
| 平成29年9月 | マギル大学大学院 医療者教育学修士課程 入学 |
| 令和元年8月 | マギル大学大学院 医療者教育学修士課程 修了 |
| 令和元年9月 〜 令和4年9月 |
弘前大学大学院医学研究科 救急・災害医学講座 助教 |
| 令和4年10月 〜 令和6年6月 |
弘前大学大学院医学研究科 医学教育学講座 助教 |
| 令和6年7月 〜 令和8年3月 |
岐阜大学医学教育開発研究センター 教育開発学部門 併任講師 |
| 令和8年4月 | 岐阜大学医学教育開発研究センター 教育開発学部門 教授 |
