卒業生・一般・企業の方へ

奥穂高岳夏山診療所

活動報告

平成22年度 短報

岐阜大学医学部の本活動は、奥穂高岳周辺で発生した心身トラブルへの対処を目指したボランティア活動です。しかしながら、駐在する3,000mの地で出来ることは、きわめて限られています。そこで、活動を通して蓄積される情報を広く発信し、これから登山に向かう人たちがトラブルを避け、自然を楽しんでもらうことも重要な活動と考えています。

平成22年度(7月24日~8月20)の受診者総数は76名でした。例年と同様の受診者数であり、おおむね同じような原因で診療所を訪れています。そこで、気がついた2~3の事について、次に記します。

今年も、軽い山酔い(頭重感・頭痛、軽い吐気・嘔吐、食欲低下、倦怠感など二日酔いのような症状)の方が多く、幸い、肺水腫や脳浮腫などの重症高山病はゼロでした。次いで多いのが、滑落や転倒による外傷です。多くは転びそうになって手や膝をつき、擦り傷や外傷、捻挫を生じたものですが、指の骨折が疑われた方もいました。滑落や転倒された方にお話を伺うと、いつもは何でもない場所でのことが多いようです。体調や疲労度を正しく判断し、行動することが重要と思われます。また、この中には雪渓が割れて2~3m転落した2人が含まれ、一人は肋骨骨折のためヘリコプターで下山となりました。雪渓を歩く際は、「下に水が流れていない、端の方を選ぶ」など、事故を防ぐための知識が必要です。滑落や転倒の原因は第一に疲労ですが、その陰にはやはり軽い山酔いがあり、判断力が低下しているのではないかと疑っています。

膝関節や足首、大腿筋など、下肢のトラブルで受診された方も、例年のように多くみられました。ウオーキングなどで十分にトレーニングをしたつもりでも、重いザックを背負って長時間登り降りをする登山には不十分かも知れません。特に、下山時は大きな力が膝などに加わりますので、それを想定したトレーニングが必要です。

登山という大きな負荷が加わると、健常者でも血圧が上昇します。持病に高血圧をお持ちの方は、登山の前には主治医と相談することが望まれます。また、今年は歯痛で受診された方が3名いました。気圧が低いことに関連することかどうか不明ですが、やはり、持病を持ったまま山に入りますと痛みなどで楽しさも半減します。持病は普段から手当てを怠らないように致しましょう。

(文責:夏山診療所運営委員会)

平成22年度 奥穂高岳診療所派遣等人員
班及び期間 医 師 看護師 学生 その他
医学科 看護学科
第1班 7.24~7.27 2 1 3 1
第2班 7.28~7.31 2 1 2
第3班 8.1~8.4 1 2 3
第4班 8.5~8.8 1 1 3
第5班 8.9~8.12 2 1 7 2
第6班 8.13~8.16 2 1 5 2 1
第7班 8.17~8.20 2 1 5 1
奥穂高岳夏山診療所 診療の記録(平成16年度~平成22年度)
16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度
登山関連


高山病 * 54 * 31 26 25 42 28 31
胸部不快感 1 1
感冒 19 8 8 7 6 5 6
下痢 1
便秘 1
蕁麻疹
胃腸炎 * 6 1 3 2 1 1
不眠症 1
起立不能
失神発作 1
疲労 8 2 1
頭痛(筋性) 2 4 4 1 2 4
熱中症 2


滑落 1 * 6
滑落・全身 1 * 2
滑落・顔頭 * 1
滑落・顔面 1
転倒 6 2 1 1 3 6
転倒・頭部 1 1 5
転倒・顔面 1 2
落石・頭部 1 1 1 1
落石・手
落石・下肢 1 1 1
外傷(上肢) 3 1 6 5
外傷(下肢) 18 2 4 * 7 7
上肢関節痛 1 1 1
下肢関節痛 1 1 4 8 8 6
下肢筋肉痛 10 2 1 4 4 1 2
下肢捻挫 7 3 2 2 1 2
頭部外傷 1 3
熱傷 4 6 1
日焼け 1 1
虫刺され等 6 1 2 5 3 1 1
靴擦れ 1 1 2 1
皮膚炎 1 1
肺水腫疑い * 1
切創 3 1 2 1 1
腰痛 3 1 2
胸壁痛
その他 2 3 1 4
持病等
痛風 1
起立性低血圧 1
神経痛
尿路結石
高血圧症 1 1 1 1
水虫
眼科疾患 3 1 3 1
腰椎ヘルニア 1
歯痛 4
膀胱炎 1 5
アレルギー性鼻炎 1
不整脈 1 1
咽頭異物疑い 1
その他 2 1 3
合計 155 77 57 80 97 80 76
* : ヘリ搬送 2 3 2 2
論文発表
  1. 加藤義弘,松岡敏男.奥穂高岳診療所における6年間の疾病調査.日本臨床スポーツ医学雑誌(10)3.514-518.2002
  2. 加藤義弘,松岡敏男,城弟知江,大平幸子.北アルプス夏山登山者の健康状態に関するアンケート調査,登山医学25、85-90、2005
  3. 加藤義弘,松岡敏男,城弟知江,大平幸子.富士登山における脈拍数、動脈血酸素飽和度,高山病症状発症の検討-小児と大人との比較-,登山医学25、1-4、2005
  4. 加藤義弘、松岡敏男、城弟知江、高見剛。国内登山での高山病-奥穂高診療所での経験より-、医事新報4286、66-70,2006
学会発表
  1. 城弟知江、加藤義弘、松岡真紀子、大平幸子、鈴木敬子、野田桃子、鈴木欣宏、畑裕子、松岡敏男、高見剛。第25回日本登山医学シンポジウム(鹿児島)2005.奥穂高岳登山者の健康に関するアンケート調査結果
  2. 大平幸子、加藤義弘、城弟知江、松岡真紀子、鈴木敬子、野田桃子、鈴木欣宏、畑裕子、松岡敏男、高見剛。第25回日本登山医学シンポジウム(鹿児島)2005.奥穂高岳登山者の高山病症状と下肢の関節痛・筋肉痛に関する検討
  3. 加藤義弘、鈴木欣宏、松岡敏男、城弟知江、松岡真紀子、大平幸子。第8回岐阜生活習慣病運動療法研究会(岐阜)2005.北アルプス夏山登山者の健康状態と運動習慣
  4. 城弟知江、野田桃子、大平幸子、松岡真紀子、鈴木敬子、加藤義弘。第12回日本小児運動スポーツ研究会(名古屋)2005.子どもの登山を考える-奥穂高岳・富士山での経験より-
  5. 加藤義弘、城弟知江、大平幸子、鈴木欣宏、高見剛、松岡敏男。第26回日本登山医学シンポジウム(東京)2006.奥穂高岳登山での高山病症状出現の危険因子
  6. 大平幸子、加藤義弘、鈴木欣宏、城弟知江、高見剛、箕浦とき子、松岡敏男。第27回日本登山医学シンポジウム(蔵王)2007. 中高年登山者の実態調査
  7. 加藤義弘、松岡敏男。第27回日本登山医学シンポジウム(蔵王)2007. 心疾患をもった子どもの登山を考える

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