概要

VOICE~岐大医学部から~

解剖学分野からのメッセージ

生命原理学講座
解剖学分野 教授
江角 重行 先生

『VOICE-岐大医学部から-』第142回は、令和7年4月に就任されました、医学系研究科 生命原理学講座 解剖学分野 教授 江角 重行 先生にお話を伺いました。

現在研究している内容について

 私はこれまでに神経細胞の多様性や脳が発達していく過程をシングルセルレベルで研究してきました。その中でも特に大脳皮質に着目して研究を進めてきました。大脳皮質は記憶、認知、判断といった高次脳機能が発現されるきわめて重要な働きを担う部位で、興奮性のグルタミン酸ニューロンと抑制性のGABAニューロンの二種類の細胞によって支えられています。最近の研究成果で、新生仔マウスの大脳皮質の障害に反応して、GABAニューロン前駆細胞が分裂・分化転換しアストロサイトを新生することを見出しました。アストロサイトというのは、ニューロンを保護し栄養分を与える細胞です。この現象は、一度神経系へと分化することを決めた細胞がアストロサイトになることができるという、いわば時間を巻き戻すような全く新しい現象です。この研究を進めることで神経障害の拡大を防ぎ、脳卒中などの新たな治療戦略の創出につなげたいと思っております。

 また、解剖学分野では、細胞外小胞 Extracellular vesicles を用いた異生物間コミュニケーション法の確立やEVsを異生物間で授受する方法およびそのメカニズムの解明、筋特異的に発現しているmicroRNA(small non-coding RNA)を利用した横紋筋肉腫に対しての創薬研究、がん抑制遺伝子であるAPC遺伝子の多彩な機能を脳神経系や消化管の異常に着目して解析するなどの研究も行っております。

解剖学分野教授としての抱負

 生物のからだは、細胞・神経によって構成された緻密な組織によって成り立っています。そのかたちには必然性があり、機能破綻に至る過程の多くでは形態の変化や異常が認められます。私はこれまでに、神経細胞の多様性や発生発達過程をシングルセル解析によって研究してきました。私は、シングルセル解剖学研究を発展させ、従来の解剖学のアプローチでは明らかにできなかった構造や病態、新しい現象を明らかにしたいです。

 私たちの分野は、解剖実習や医師・歯科医師の手術手技研修(カダバー・サージカル・トレーニング(CST)を担当しております。献体していただいた方・登録していただいた方の崇高な志には心より感謝しており、尊いご意志に則った業務の重要性を実感しております。私たちは、スタッフ(献体業務に携わる教員・技術職員・事務職員)が一丸になって、綿密に連携をとり、ご遺体の適切な管理に努め、医学の発展と進歩のために尽力します。

医師を目指す学生へのメッセージ

 私たちの解剖学分野は、医学部に入った学生のみなさんの最初の専門的な実習である解剖実習を担当しています。人体の構造と機能は不可分であり、生理機能と病的過程のいずれにおいても、構造と機能の両者を知り、総合的に捉えることで初めて、医学を修めることが可能となります。解剖実習を通じて、緻密な人体の構造を体系的に理解し、リアルな感覚として身につけ、献体の方が"最初の患者さん"だという倫理感、教科書とは違う個人差があるという事実を学んでもらいたいと思っています。

 解剖学は、かたちを見てはたらきをひも解く古くて新しい学問です。私たちは、これまでの解剖学研究を踏襲しつつも、分子生物学や細胞生物学的手法を取り入れ、基礎と臨床の架け橋となる研究に積極的に挑戦したいと思っています。人体の構造・組織・細胞・神経のかたちや、脳の発生・発達に興味がある学生は、気軽に研究室を訪ねて下さい。

略歴

平成10年3月 広島大学 理学部 生物科学科 卒業
平成12年3月  広島大学大学院 理学研究科 遺伝子科学専攻 修了
平成17年3月 大阪大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 修了
平成17年4月 熊本大学大学院 医学薬学研究部(医学部) 脳回路構造学分野 助手
平成19年4月 熊本大学大学院 医学薬学研究部(医学部) 脳回路構造学分野 助教
平成21年8月 Children's National Hospital (米国ワシントンDC 平成23年7月まで:博士研究員)
平成29年7月 熊本大学大学院 生命科学研究部(医学部) 脳回路構造学分野 講師
令和2年4月 熊本大学大学院 生命科学研究部(医学部) 形態構築学講座 講師
令和7年4月 岐阜大学大学院 医学系研究科 生命原理学講座 解剖学分野 教授



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