VOICE~岐大医学部から~
糖尿病・内分泌代謝内科学分野からのメッセージ
内科学講座
糖尿病・内分泌代謝内科学分野
教授 恒川 新 先生
『VOICE-岐大医学部から-』第143回は、令和7年4月に就任されました、医学系研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌代謝内科学分野 教授 恒川 新 先生にお話を伺いました。
医師になられたきっかけは?
私にとって医師という職業は、身内に医師がいたことや、友人に医師を志す者が多かったこともあり、非常に身近な存在であり進路としても自然な選択でした。一方で、医師以外の職業としては、これまでに出会った強い個性と深い影響を与えてくれた恩師の姿に触れ、教師という職業にも興味を抱いていました。高校生のときには、映画『今を生きる』を観て深く感動し、夜の映画館で友人とともに教師という生き方について語り合ったこともありました。こうして振り返ると、医師と教師という二つの道に関心を持っていたことが、多くの医学部生や若手医師と関わる大学病院での医師という仕事に、私が自然と惹かれた大きな理由の一つであったと思います。
現在研究している内容について
糖尿病分野において、膵β細胞を主な研究テーマとして取り組んできました。世の中には「肥満であっても糖尿病を発症しない」人々が多く存在します。こうした人々では、膵β細胞が肥満によるインスリン抵抗性を補うだけのインスリンを分泌できているため、糖尿病を発症しないのです。すなわち、膵β細胞の量と機能を十分に増強することができれば、糖尿病の根治も可能になる----このような考えのもと、膵β細胞の研究に取り組んできました。糖尿病の病態メカニズムについては、膵β細胞における細胞内シグナルネットワークやエピジェネティクスの観点から解析を進めています。治療に関しては、膵β細胞の増殖を促す増殖因子の探索、組織幹細胞の応用や細胞リプログラミングの手法を用いたアプローチを行っています。基礎と臨床を融合させることで、糖尿病に対する新たな治療法の開発を目指しています。
また近年では、臨床症例で経験した内分泌ホルモン異常による、これまでに報告のない低血圧疾患についても注目しています。基礎と臨床の両面からアプローチを行い、新たな疾患概念の確立に向けた研究にも取り組んでいます。
糖尿病・内分泌代謝内科学分野教授としての抱負
私は岐阜大学卒業後、二つの大学病院において診療・研究・教育に携わるとともに、医局長として教室運営にも関わってまいりました。その中で、「組織は人なり」という言葉の重みを日々実感してきました。優れた研究や診療体制は、すべて人材の成長と協力によって初めて成り立つものです。私が目指す教室運営の根幹は、優れた人材が集い、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境づくりにあります。そのためにも、医局員一人ひとりと信頼関係を築き、共通の目標に向かって協働できる体制を整えていきたいと考えています。大学病院として臨床で生まれた疑問を基礎研究によって解明していく姿勢を大切にし、診療と研究が一体となって発展していく教室を目指します。そして、国内外の研究者と連携しながら、日本を代表する糖尿病・内分泌代謝の拠点にしたいと思います。情熱と謙虚さ、そしてユーモアと笑顔と好奇心を忘れず、失敗を恐れずに常に成長を続ける――そのような、熱い思いのある教室を築いていきたいと考えています。
医師を目指す学生へのメッセージ
私自身、学生時代は部活動や課外活動に多くの時間を割き、座学よりも現場で学ぶことを好んでいたタイプです。しかし、医師として働き始めてから、学生時代に得た人間関係や挑戦する姿勢や忍耐力などが、予想以上に診療や研究に役立っていることに気づかされました。医学は知識や技術のみならず、人としての幅や柔軟性が問われる分野です。患者さん一人ひとりの背景を理解し、謙虚に向き合うことが求められます。なかでも糖尿病や内分泌疾患は、生涯にわたる全人的医療が求められる領域であり、医師の人間性が強く問われる分野でもあります。ぜひ学生の皆さんには、学びの幅を広げ多様な経験を積む中で好奇心と探究心を育みながら、学生時代に感じたことを大切にして自分なりの医師像を形作ってほしいと思います。
略歴
平成 9年 | 岐阜大学 医学部 卒業 |
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平成 9年 4月 | 名古屋第二赤十字病院 臨床研修医 |
平成11年 4月 | 厚生連昭和病院 医員 |
平成12年10月 | 名古屋第一赤十字病院 医員 |
平成13年 4月 | 名古屋大学大学院医学系研究科 入学 |
平成17年 3月 | 名古屋大学大学院医学系研究科 修了 |
平成17年 4月 | 名古屋大学医学部附属病院 医員 |
平成19年 4月 | シカゴ大学医学部 Postdoctal Reseacher |
平成21年 4月 | シカゴ大学医学部 Research Associate Professional |
平成22年10月 | 名古屋大学医学部附属病院 医員 |
平成23年 4月 | 名古屋大学医学部糖尿病・内分泌内科 助教 |
平成28年 4月 | 愛知医科大学医学部内科学講座糖尿病内科 講師 |
平成29年 4月 | 愛知医科大学医学部内科学講座糖尿病内科 准教授 |
令和 5年 4月 | 愛知医科大学医学部内科学講座糖尿病内科 特任教授 |
令和 6年 4月 | 東海国立大学機構 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター 客員教授 |
令和 7年 4月 | 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病内分泌代謝内科学 教授 |