岐阜大学大学院医学研究科 産業衛生学分野
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産業衛生について
産業衛生について_2
 
 日本の産業衛生学会の定款には、産業衛生の進歩をはかることを目的とすると書かれているだけで、「産業衛生」の定義についてはふれられていない。そこで、「産業衛生」とは何かについて考えてみることにした。
まず、「産業」について、広辞苑では「@生活していくための仕事。なりわい。生業。A生産を営む仕事、即ち自然物に人力を加えて、その使用価値を創造し、また、これを増大するため、その形態を変更し、もしくはこれを移転する経済的行為。・・・」とでている。つまり、「産業」とは「生産」を通じて「生業(なりわい)」を立てることである。
 次に、「衛生」について考えてみる。「衛生」とは「生を衛る(まもる)」ことである。
「生」については別誌(民族衛生、1996)で述べたので、ここでは省略する。広辞苑で「衛生」をひくと、「健康の保全・増進をはかり、疾病の予防・治療につとめること。」となっている。また、角川の漢和中辞典では「衛生」の同義語といして「養生・摂生」があげられている。そこでもう一度、広辞苑を見てみると「養生」とは「@生命を養うこと。健康の増進をはかること。衛生を守ること。摂生A病気の手あてをすること。保養。」とある。また「摂生」とは「衛生に注意し、健康の増進をはかること。養生」となっている。
 この「衛生」という名称に関してはいくつかの例がある。
 日本産業衛生学会の機関誌の名称は、1995年に従来の「産業医学」から「産業衛生学雑誌」に変更された。そこで広辞苑で「医」をひいてみると、「医」とは「病をなおすこと。また、その人。」とでている。
 また、1997年には、本学会の会員の中から、学会の名称そのものを現行の「日本産業衛生学会」から「日本産業保険学会」に改称することが提案されるに至っている。しかし、広辞苑で「保健」とは単に「健康を保つこと」となっている。
 これらのことから「衛生」は、「保健」と「医」の両方を包括している名称といえよう。
 現在、一番問題にしなければならないことは、「衛生学」が「医学」の一分科になっていることである。これは「衛生」の本質的な内容からすれば主客転倒しているということである。この主客転倒は世の中全体にわたっている。もし学会名中の「衛生」を「保健」に改称すればますます現状を肯定することになるだろう。
 それでは改めて「産業衛生」について考えてみよう。「産業」の三大要素は「人」、「物」、「金」である。しして金儲けや物作りをするのが、何者であるかを考えれば、「人」が一番重要であることは明らかである。しかし今の産業界では、企業という名のもとに事業主や雇用者が発揮している「エゴ」によって、金儲けや物作り、すなわち「金」や「物」のことを「人」より優先していないだろうか。
 近年、フロンガス等の排出に伴い、オゾン層の破壊が進み、紫外線の人体影響が問題化している。そもそもバンアレン帯やオゾン層といった地球を取り巻いている膜は、地球に住む人体をはじめとした万生物を衛るために存在しているはずであった。
 「産業」は本来、生を害する手段ではなく衛る手段として存在するはずであった。したがって「産業衛生」とは、働く人たちの健康の確保と増進のために「産業」をうまく使うことであって、決して企業という名のもとに「エゴ」を最大限に発揮している企業戦士の健康を確保増進するために何かを使うことではないと考える。
 しかし、バブル景気崩壊後、金儲け主義に走った金融機関や建設会社を中心に不良債権や不良資産が巨大化し、問題となっている。また、企業倫理が厳しく問われる中で不法行為が開示されたことによって一気に経営破綻する企業も出現し、その結果、失業者が増大し、社会問題になっている。失業のストレスは健康を害する、すなわち失業によって結果的に人体の正常な機能や構造が損なわれる、と言われている。したがって、現状では、産業は生を衛る手段ではなく、逆に破綻する手段となっていると言わざるを得ない。
 ではなぜこんな現状であるのか、前述したように金儲け主義に走り、「人」より「金」や「物」を優先させているのは、企業という名のもとに事業主や雇用者が発揮している「エゴ」であると考えられる。従って、現状の根本原因を明らかにするためには、「エゴ」すなわち「自我」とは何かについて知らなければならない。しかし、「自我とは何か」という問いは、「人間とは何か」、「生命とは何か」という問いとともに、有史以来の難問のひとつとなっている。この解答がでないかぎり「産業衛生」も進歩、発展は望めないのでなかろうか。
 
 
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