リンパ浮腫について

体内には血液が流れる血管以外にも、リンパ液とよばれる体液が流れるリンパ管というものがあります。何らかの理由でこのリンパ管の流れが悪くなり、リンパ液がたまり、むくんでしまった状態をリンパ浮腫といいます。


リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫は原発性と続発性に大別されます。

原発性は原因のわからない特発性や遺伝子異常等による先天性にわけられ、リンパ管やリンパ節の発育形成不全などにより発症すると言われています。

続発性は主にがん治療の合併症・後遺症として発症します。がんは血液やリンパ液の流れにのって転移するため、リンパ節(リンパ管の集合駅)を切除したり、放射線をあてたりする必要があるため、それに伴って、リンパ管の流れが悪くなり、発症します。術後すぐに発症する方もいれば、10年以上経ってから発症する方もいます。また、大きな怪我をした場合に同じ様にして発症することがあります。

リンパ浮腫の症状

初期のころは目立った症状はあまりないため、発症に気付かない方もいらっしゃいます。ある程度進行すると、むくみが強く、見た目にも目立つようになり、腕や足の重さやだるさを感じます。また、傷が治りにくくなり、細菌感染を起こしやすくなります。症状の強い方では、リンパ液が皮膚から漏れ出してくるような方もいらっしゃいます(リンパ瘻といいます)。重症になると、皮膚が硬く厚くなり、毛が濃くなります。関節の動かしにくさも目立つようになります。稀にですが、悪性腫瘍(リンパ管肉腫)を生じることもあります。

また、下記のように病状にあわせて病期分類されます。

国際リンパ学会による病期分類

0期
リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。

Ⅰ期
比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが、まだ初期であり、四肢を挙げることにより軽減する。圧痕がみれることもある。

Ⅱ期
四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり、圧痕がはっきりする。

Ⅱ期後期
組織の繊維化がみられ、圧痕がみられなくなる。

Ⅲ期
圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか、表皮肥厚、脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。

リンパ浮腫の診断

当院ではリンパ管シンチグラフィという検査を受けていただき、リンパの流れをみることで、診断をつけるとともに重症度を判定しています。また、後述します手術治療の箇所を決める助けにもなります。

リンパ管シンチグラフィでは、ごく微量の放射線を出す薬を手や足に注射します。この薬はリンパ液とともに流れていきますので、その様を経時的に撮影することで、リンパの流れや溜まりを調べることができます。

また、術前にはICG(インドシアノグリーン)蛍光リンパ管造影という、色素の注射を行い、特殊な赤外線で観察することでリンパの流れをみる検査も行っています。

リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫の標準的な治療は、以下の治療を組み合わせて行うことです。

①圧迫
弾性着衣、包帯で患肢を先から隙間なく圧迫し、むくみの改善を図ります。

②用手的リンパドレナージ
溜まったリンパ液をリンパ管を通して流すようにマッサージします。専門的な教育を受けた医療者が実施、指導するものです。

③運動療法
標準化された指針はありませんが、近年有効であると言われています。

④スキンケア
皮膚を健康な状態に保ち、感染の危険性を減少させます。

これらの治療は症状を良くするために悪くなることを防ぐために必須の治療ですので、みなさまに行っていただいております。しかし、残念なことに根本的な解決には至らないため、根治治療とはなりません。

そこで、形成外科では以下の手術治療を行っています。これらは原因に直接介入する根治治療となります。

①リンパ管細静脈吻合術(lymphatic-venous anastomosis;LVA)
リンパ液は頭や手、足の先から胸の方へリンパ管を通って集まり流れていき、最終的には静脈へ合流して血管内へ流れます。その途中で流れが悪くなり渋滞したリンパ液を近くの静脈へバイパスすることで渋滞の解消を目指します。リンパ管と静脈を縫いつなぐのですが、リンパ管は直径0.5mmもないほど非常に細いため、肉眼での手術は難しく、顕微鏡を用いて手術を行います。
リンパ管自体も長引くリンパ浮腫に伴って徐々に傷んできてしまうため、比較的早期の方ほど効果が高いと言われています。

②血管柄付きリンパ節移植術(vascularized lymph node transfer;VLNT)
患者さんご自身からリンパ節やリンパ管を血管と一緒に取り出して、リンパ浮腫の原因となっている部分に移植することで新たなリンパの流れを作り、流れを改善させる手術です。リンパ浮腫が進行し、LVAの効果が乏しい方が適応になります。