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研修医手記

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岐阜県総合医療センター 研修医1年目 山口 莉穂(part39)

kensyuui-39.jpg 「医師」として働き始め、はや半年が経ちました。

 目に映るもの全てが新鮮で、目先のことで精一杯になりながら一日一日を過ごしていたら、研修医の4分の1が終わっていました。まだまだ未熟で毎日を必死に駆け抜けている最中ではありますが、研修医手記を寄稿する機会をいただきました。一度立ち止まりこの半年を振り返ることができるとても良い機会であると考え、お引き受けいたしました。あまり背伸びせず等身大の自分をお伝えできたらと思います。

 

■不安との戦い

「患者の前では医者も研修医もないの。それが医療現場。」

 2021年4月下旬から放送されたドラマ「泣くな研修医」での一言です。この言葉は研修医が始まったばかりの私に向けての言葉ではないかと思ってしまいました。経験値の浅さは困っている患者さんの前では通用しない。経験豊富な医師による診察ではなく、私が診察することによって患者さんに不利益を与えてしまわないか…。自分の無知が患者さんの命を危険に晒すことにならないか…。この半年間はとにかく不安との戦いでした。
 学生の時の座学やポリクリとは違い、研修医は状況に応じて臨機応変に自分で判断していかなければなりません。大学6年間で医学を学び、医師国家試験に合格するだけでは、実際の医療現場で役に立つ医師にはならないのです。研修医が特に主体的に動く救急外来での業務が始まった頃は、うまくできるか不安で初めの1か月間は夢の中でも患者さんへの問診を続けていました。これを読んでくださっている研修医の方々の中には同じ経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。自分の対応が患者さんに不利益を与えていないか不安になり、このままではぐっすり寝むれないと思い、カルテで事実を確かめるため深夜に病院へ車を走らせたこともありました。他にも夜間救急業務中に仕事が落ち着き、少し仮眠ができた時には、夢の中で院内用の電話が鳴り響き、「はい、山口です!」と言った自分の大きな寝言で目を覚ましてしまうという恥ずかしい経験もありました。
 また今年の9月には他県の研修医が数年前に消化管穿孔を見逃したことで患者さんが亡くなり、訴訟となったニュースが耳に入りました。明日は我が身かもしれないと背筋が凍り、すぐに消化管穿孔の画像について調べたことをよく覚えています。自分の判断ミスが患者さんの命を左右する。「まだ経験が浅くて…。」「まだ研修医なので…」は何の言い訳にもならないのです。今でも自分が診察した患者さんが翌日急変して、病院に運ばれてきていないか不安でたまりません。
 半年を経て、過度の不安は少しずつ軽減してきましたが、まだまだ不安はあります。しかし、この不安を全てなくすのもまた危険であると思っています。適度な不安と緊張感を持ちながら慎重さを欠くことなく医療行為ができるように成長していきたいです。

■不安の中で感じる成長

 これまで研修医生活での不安についてたくさんお話ししてきましたが、もちろん成長を感じる瞬間も同じくらいあります。例えば、一度対応したことがある患者さんと似た主訴の患者さんを診察する際には、前の症例で学んだこと(問診で聞くポイント、鑑別疾患、検査内容等)を思い出し実践することができると、一歩ずつ成長している自分に気づき嬉しくなります。また、今までできなかった手技や検査をスムーズにできるようになった時には、頑張ってきてよかったと心から思います。
 何より成長したと感じるのは患者さんへの説明です。初めは辿々しく、患者さんを逆に不安にさせてしまうようなインフォームドコンセントであったと思います。しかし半年という短い間でも様々な症例を経験して、患者さんの反応を確認しながら試行錯誤を重ねることで、分かりやすく具体的に伝えることが徐々にできるようになったと感じています。それでも上級医の説明とは比べものになりません。ある先生に「研修医は上級医が患者さんへどのように説明するかを観察できる最後のチャンスだ。良い点を盗んで実践し、自分のスタイルを確立していくこと。」と教えていただきました。確かに専攻医になってからは、主治医になり自分で説明することが多いため上級医のインフォームドコンセントを観察する機会はかなり減るのではないかと思います。間近で上級医を観察し実践できる今だからこそ、自分にあったスタイルを探っていきたいです。
 他にもローテート中に指導医の先生方からは心に響く多くの言葉をいただきました。
 「どんな研修病院を選んでもさほど変わらない。いかに能動的に学んでいけるか、それが大切である。」
 「医師としての初めの5年間は特に重要だ。この期間の医学を学ぶ姿勢、患者さんと関わる姿勢、医療スタッフと関わる姿勢は、将来その人がどのような医師になるかを決める。」という言葉も心に残っています。今が医師としての土台を作る時なのです。残りの研修医生活を、気を引き締めて進んでいきたいと思います。

■ともに働く仲間の存在

 この半年間、ともに働く仲間の存在は私にとって大きいものでした。私が働いている岐阜県総合医療センターの同期は歯科研修医の1人を含めて20人います。経験がなくて不安なのはみんな同じ。研修医室では救急外来やローテートで勉強になった症例や自信がなかった症例を共有し、対応を話し合って自然と学び合うことができています。また岐阜県総合医療センターの研修医の仕事の中に月1回ほど造影当番という名の一日中造影CTやMRI用の静脈ルートを確保する仕事があります。医師として必要不可欠な技術ではありますが、慣れていない私にとって初めは苦難の連続でした。研修医室で良い血管の見つけ方や針を刺す時のコツ、穿刺してもあまり痛くない場所等を話し合ったり、お互いに練習台となり経験を積んだりすることで少しずつですが上達することができました。救急外来でのエコーに自信がない時には、仕事が終わった後に遅くまで残り、お互いにエコーを当て合うことで少しずつ学んでいくことができました。毎日研修医室で顔を合わす仲間だからこそ、今ではお互いに高め合うことができるかけがえのない存在になっています。そして何より休憩時間に研修医室でする何気ない会話の時間が私にとって至福のひとときです。
 また、研修医2年目の先生は本当に頼もしい存在です。自分の仕事だけでなく、私たち研修医1年目の動きも把握し、冷静にそして的確に仕事をされる姿はいつも輝いて見えます。2年目の先生方は進路を決めて来年4月には専攻医へと進まれます。そして私たちはあと半年で後輩を迎えることになります。まだまだ2年目の先生方との差は埋まりませんが、少しでも近づけるよう努力を続けていきたいです。
 最後になりましたがここまで半年間を乗り越えることができたのは、日頃より親身になってご指導いただいている先生方をはじめ、多くの医療関係者の皆様のサポートのおかげだと思っております。関わってくださる全ての方々へ改めて感謝し、研修医手記とさせていただきます。

追記
 この原稿を書いている10月下旬には新型コロナウイルスの第5波が落ち着いてきています。第5波のピークの時には前日に診察をした患者さんが新型コロナウイルスに感染していたということは頻繁にありました。今後の感染状況がどうなるかは予測ができませんが、早く新型コロナウイルスが収束することを願っております。


令和4年1月5日


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