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研修医手記

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岐阜市民病院 研修医1年目 松井 しほ(part35)

 「先生」と呼ばれることにむずがゆさを感じ、びくびくしながら病棟を歩いていた4月。治療といえども患者さんに侵襲を加えることができてしまうということや人命を預かる責任の重さを目の当たりにして、自分に与えられた権限の大きさに尻込みしてしまうこともありました。あっという間に半年が経ちました。求められるものに追いつこうと一生懸命動き、学びながら、一日一日を過ごすので精一杯だったというのが正直なところです。

 6年間で詰め込んだ膨大に思えた知識は、医療を行うのに必要な情報のほんの一部でした。診断のための検査、除外しなければいけない疾患。薬剤の量は? 期間は? 効果判定はいつどのように行おう。食事は? リハビリはいつから依頼しよう。覚えた知識を核にして、実際にひとりの患者さんを治療するために考えなければいけないことはさらに膨大にありました。そしてそれを実行するには、患者さんや家族への説明、他職種とのコミュニケーションも欠かせません。頭をフル回転させても追いつかないこともあり、たくさんの患者さんを抱える指導医の先生には尊敬の一言です。自分には到底できないのではないかと圧倒されましたが、指導医に導かれながら少しずつ、辿々しくですが医師として治療に携われるようになってきたのではないかと思います。

 研修の中で一番学びが多いと感じたのは、当直帯の救急外来です。慣れないうちの当直は、問診で聞くべき項目や身体所見は何か、何の検査をすれば良いのか、画像の読影、上級医へのコンサルト、悩んでいる間にどんどん増えていくカルテ、ただ右往左往して2年目の先生や看護師さんに頼りきりでした。2年目の先生方のスムーズな問診や的確な考察、てきぱきと診療を進めていく姿を見て、ただ尊敬と憧れの気持ちです。来年自分もそうなりたいと先輩の姿を追いかけていますが、まだ高い目標に感じています。当直が終わるごとに診た患者さんを復習しながら、ああすれば良かった、これを聞くべきだったと、反省はまだまだ多いです。
 それでも、自分自身で小さな成長を感じる場面もあります。身体症状から考えた鑑別が合っていたときや、自分の立てたプランで治療が進み患者さんが元気に退院していくときには、勉強したことが誰かの役に立っているのだと実感し、さらに向上心をかき立てられます。また、多くの患者さんの協力で身につけた手技を、処置を急ぐ場面で素早く確実に行えたときは、なんともいえない達成感があります。未熟さを痛感する毎日ではありますが、そのような小さな達成感で、自分を鼓舞しています。
 そして何より一番の向上心の源となるのは患者さんとの関わりです。受け持った患者さんの中に、思うように治療が進まず入院が長引いていく患者さんがいました。お見舞いの家族は来ておらず、いつも一人でテレビを見ています。予定よりだいぶ長くかかっていることへの苛立ちもあり、毎日毎日、様々なことへの不満を口にして心を閉ざしていました。不満を言われに病室へ行くというのは気の進まないこともありましたが、毎日何度も会いに行きました。徐々に回復し退院が決まったとき、「先生が毎日会いにきてくれたから頑張れた、先生が笑顔でいてくれたから希望をもって治療続けようって思えた。退院できたのは、先生のおかげです。」と、言われました。私は治療を見守るだけで医学的なことはなにもできなかったのですが、患者さんに会いにいく、話を聞くだけでも大きな治療の支えになる可能性があるのだということを学んだ症例であり、また、たくさん勉強して早く患者さんの治療に医学的に貢献しなければならないと思った症例でもありました。「先生、また会えたらいいな。」叶わないほうが良いのかもしれませんが、少し嬉しい言葉でした。
 医療現場の現実を知り、自分のコミュニティが医療関係者ばかりになると、ときに患者さんの立場で考えられなくなってしまうことがあるなと感じます。医療者の都合で物事を進めてしまうことや、患者さんの要求が理解できないことも少なからずあると思います。医療関係者ではない自分の家族から、「今日、先生にこんなことを言われたよ。」「検査もせずに大丈夫だと言われたのだけど...」など患者目線の言葉をきくと、はっとすることも多いです。患者さんの立場で考えるというのはものすごく難しいことかもしれませんが、常に心がけて関わっていきたいと思います。そのために患者さんの話をしっかり聞き真摯に向き合うという気持ちを忘れずにいたいです。

 初期研修の4分の1があっという間に過ぎてしまったことに驚いています。研修医としてできるようになったことを振り返って、残りの研修期間の少なさと、目標として描いていた姿とのギャップに、不安と焦りを感じています。また、同じ病院の同期や、他の病院に勤める同窓生の話をきいて、自分の未熟さが情けなくなることもありますし、1年後に2年目の先生方のように頼もしくなれるだろうかと、不安は尽きません。しかし、同期や同窓生、先輩方から常に刺激を受け切磋琢磨し合うことで自分も勉強や仕事に励むことができ、とても恵まれた環境だと感じています。業務を終えて研修医室へ戻ると、同期や先輩方が温かく迎えてくれます。飲みに誘ってくれます。そこで、たくさん笑って、ときには医療について語り合い、労い合い、明日も頑張ろうと励まし合います。まだまだできないことばかりで落ち込むことも多々ありますが、温かい同期や先輩方には心を救われています。
 常に気にかけ、丁寧に教えてくださる先生、治療方針を任せて下さる先生、横で見守り、ときにはアドバイスをくださる看護師の方々、いつでもご相談下さいと声をかけて下さる薬剤師の方々。そのほかにもたくさんの方々が、未熟な私たちを導いてくださいます。そのおかげで少しずつできることが増えてきましたが、自分の決断ひとつひとつが患者さんの利益とは表裏一体に侵襲を加え、ときには大きな害を与え得るということを決して忘れず、診療にあたりたいと思います。
 最後になりましたが、日頃よりご指導いただいている先生方、同期や先輩方をはじめ、応援していただいている皆様に感謝し、研修医手記とさせていただきます。

平成31年1月1日


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