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研修医手記

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大垣市民病院 研修医1年目 立川 優果(part30)

shuki30.jpg 大垣市民病院で研修を始めて、はや6ヶ月が過ぎようとしています。1つずつ、できることが増えてきましたが、それ以上に学ぶべきことや自分がまだできないことが見つかる毎日であり、悩みが尽きる日はありません。

 GW明けから始まった救急外来での当直業務。国家試験に通ったはずなのに、いざ患者さんを目の前にすると固まってしまいました。何を問診したらいいの? とるべき所見は? 必要な検査は? 治療は…? 必要な物品がある場所さえ分からない、上級医へconsultをするにも下手なプレゼンで患者像がうまく伝わらない…何もできない自分に情けなさを覚えました。
 あれからもう半年がたち、まだ十分な自信はないものの、周りの方々の支えがあって少しずつ救急外来での業務に慣れてきました。その一方で、学生時代とは大きく違う医師としての責任を1回1回の当直業務の中でひしひしと感じています。救急外来では私たち研修医が1st touchで診療できますが、逆に自らの判断で検査のオーダーができるということは、医療被爆や造影剤の使用など、侵襲が大きい検査も私自身の判断で施行されてしまいます。副作用のない薬などなく、点滴や処方もまた然りです。これは患者さんに本当に必要な検査なのか、もっと他のアプローチはないのか、処方はこれでいいのか…そう試行錯誤することばかりです。そんな私をフォローしつつ、質問したことに的確に答えて下さり、てきぱきと診療を進めていく2年目の先生方には、ただただ尊敬と憧れの気持ちであり、来年にはこうなりたいと思いながら一緒に当直をさせていただいています。

 当院は1ヶ月ごとの全科ローテート方式であり、半年間で様々な患者さんの入院管理をさせていただき、その中から学ぶことも多くありました。
 診断・加療目的に入院された患者さんの原因疾患が判明し、研修医として初めてICに立ち会わせていただいたときのことです。それまではいつも笑顔でよく世間話をされていた患者さんでしたが、主治医の先生から一通りの説明を受けた後、症状の原因が分かったという安堵感、どうして自分がという怒りと悲しみ、治療や将来のことに対する不安をぽつ、ぽつと涙を浮かべて話され、初めて目の前にする患者さんの思いに私ははっとしました。同時に、ご家族が感じていた不安や、家族へ迷惑をかけるのではないかというご本人の戸惑いを感じ、病は一人の問題ではないということも改めて感じました。
 また、終末期の患者さんを担当させていただいたこともありました。毎日お話をする中で、死への恐怖や不安、残していく家族への申し訳なさ、あれをしておけば良かったという後悔など、私達には決して分からない思いが患者さんには多くありました。しかし目の前のつらそうな患者さんに対し、医学的にできることは何もなく、自分の中にはただただやるせなさや不甲斐なさしかありませんでした。私にできることといえば、日々患者さんと話をすることぐらいで、果たしてこれでいいのだろうかと悩みながら毎日過ごしていました。今思えば、時折患者さんが「先生だから、こんな気持ちを話せるのよ」といってくださったことが、当時の私の心の支えになっていました。先日、その患者さんが亡くなったと聞き、病室にかけつけたところ、ご家族から「先生が毎日来てくださるのを本当に楽しみにしていた。先生に会ったら何を話そうといつも考えていて、明日も元気でいなければねと毎晩話していたんです。本当にありがとうございました。」というお言葉を頂きました。医師としては何もできなかった、悔しい、けれど、全く何もできなかったわけではない、そう思った瞬間でした。それは医師としての本業とは少しずれているかもしれませんが、この悔しさと患者さんと真摯に向き合う気持ちをずっと忘れずに、これから日々の診療にあたろうと心に決めました。

 もちろん、この半年間はつらいことばかりではなく、嬉しかったことや、やりがいを感じたこともたくさんあります。当たり前のことではありますが、採血やルート確保ができるようになったこと、失敗する回数が減ってきたこと。まだまだ自信をもってとはいきませんが、救急外来で病歴から疑った疾患があっていたり、鑑別で浮かぶ疾患が増えたりしたこと、エコーで分かる疾患が少し増えてきたこと。入院後も禁煙はしないの一点張りだった急性心筋梗塞の患者さんが、「先生、俺タバコやめられないって言ってたけど、先生と毎日お喋りして禁煙するって決めたわ」と退院時にいってくださったこと。遠方の患者さんでしたが、近くを通ったからと先日わざわざお顔を見せに来てくださったときは本当に嬉しかったです。先生方の指導や周囲の方々の支えで、少しずつですができることは増えているのかなと思います。
 当院で研修を始めて、本当に周りの人に恵まれていると感じることが多くあります。忙しい中で、思考プロセスや知識を丁寧に教えてくださる上級医の先生方、救急診療のエッセンスを毎週講義で教えてくださる救急科の先生はもちろんのこと、自分でやった方が早いのに色々と経験させてくださる看護師さんや、投薬の注意点やよりよい投薬を提案してくださる薬剤師さん、「わからないことがあったらいつでも聞いてくださいね」と言ってくださる技師さん、MEさん、そして毎日一緒に過ごす同期のみんなには、日々感謝の気持ちでいっぱいです。
 私と同じように、日々の診療に不安や戸惑いを感じる同期も多いですが、研修医室でパソコンの前に集まっては、当直中の症例に関し、なぜこの検査を出したのか、画像をどう評価したのか、ベストの対応は何だったのかを、よくお互いのカルテを見て検討しています。こうすることで、自分の知識の抜け穴や、お互いの考え方の違いを知り、切磋琢磨しあえているのではないかと思います。わからないことを教えあったり、仕事で落ち込んだことがあると慰めあったり、嬉しかったことがあると一緒に喜んだりしてくれる同期がいてくれて、私は本当に恵まれています。

 すでに半年間の研修を終え、現在は研修医生活が残り4分の3しかないことに強い焦りを感じています。膨大な数の患者さんが来院される年末年始の当直は乗りきれるのか、半年後に今の2年目の先輩方のようになれるのか、3年目から主治医としてやっていけるのか…今は研修医として上級医の先生方に面倒を見ていただけますが、いつまでもお世話をしていただくわけにはいきません。3年目以降、主治医としてやっていくために必要な最低限の知識と技術は、この2年間で身につけなければならず、勉強すべきことは山程あります。
 研修医になりたての4月、「君たちの勉強不足は患者さんの不利益に直結する」と上級医の先生からいわれたことがありました。そのときは、あまり深く考えてはいませんでしたが、学生とは違い責任ある研修医となった今、その言葉の重さを痛感しているところです。学生時代から、多くの先生方に「医師は日々勉強が必要だ」との教えをいただいてきましたが、今その意味を身をもって感じ、日々診療にあたっています。

 この半年間、悩んだり落ち込んだりすることも多く、今後医師としてやっていけるのか自信がなくなったこともありました。しかし今は、学生時代にお世話になった方々や日々指導してくださる上級医の先生方、コメディカルの方々、仲間でありよきライバルでもある同期、そして私の夢を応援し続けてくれた家族、皆さんのお陰でずっと夢見ていた仕事ができることに、これ以上の幸せはないと感じています。私を支えてくださる方々に感謝の気持ちを抱き、やりたい仕事が出来る喜びを忘れず、良き医師となれるよう日々頑張っていきたいと思います。

平成29年1月1日


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