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岐阜大学医学部に入学して

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岐阜大学医学部医学科1年 吉田 正裕

1.はじめに

 はじめまして。2021年度に岐阜大学医学部医学科に入学いたしました吉田正裕と申します。この度、新入生を代表しまして、この岐阜大学医学部記念会館だよりに寄稿させて頂くことになりました。まずは、簡単な自己紹介をさせてください。
 私はほとんどの新入生とは違い、以前は別の大学に通っていた、いわゆる「再受験生」です。以前の大学ではアクチュアリーという資格の取得を目指して数学という学問の門戸を叩いたのですが、道半ばで大きな挫折を経験し、結局大学を卒業することなく中退しました。中退後は就職をするでもなく塾講師のバイトで食いつなぐ日々を過ごしていました。この期間は非常に苦しいものでした。昔から何かとりえがあったわけではありませんが、それでも数学には自信がありました。しかし、その数学で挫折を経験し、自分には一体何ができるのか、そもそも自分は何がしたいのかさえ分からなくなったのです。「社会の中で何者でもない自分」である期間が長くなるほど焦りました。良く言えば「自分探しの旅」の期間であったのかもしれませんが、当時は将来のことが何も見えず、まるで暗闇の中でただ立ち尽くしているような感覚で、とても「旅」と呼べる心境ではありませんでした。そんななかでも、人の悩みや問題に向き合い、寄り添う仕事がしたいという気持ちはありました。加えて、友人に医学生や看護師が多くいたことも助けて漠然と医療職への憧れが膨らみ始め、医師という職業に就くことを考え始めました。
 「そうだ、医学部いこう」と勢いそのままに受験勉強を始めたのが2020年春、ちょうど国内で新型コロナウイルスの第一波が訪れた頃のことです。1年の受験勉強の末、2021年4月、この岐阜大学医学部医学科の一員となることができました。大学を中退した時にはまさか再び大学生になろうとは思いもしていませんでした。
 人生のどん底にいた数年前を思えば、今は毎日が夢のようです。「大学生」という社会的身分があり、目標を持って日々を過ごすことができる。そして、そこにはかけがえのない同期の仲間がいる。大げさに聞こえるかもしれませんが、友人との普段の何気ないやりとりでさえ、神様からのギフトであるかのように思えます。単に高校生の続きとしての大学生であった頃には気付けなかったことが、この半年だけでも数えきれないほどありました。そこで、この機会に偉大な先輩方への所信表明を、そして、なにかの縁で出会うことができた大切な同期のみんなへのメッセージを綴りたいと思います。

2.大学生の特権

 もし、タイムリープの能力を手に入れたとして、戻りたい過去、やり直したい過去はあるでしょうか。この原稿を書いている2021年の秋口ではアニメ「東京リベンジャーズ」が流行しています。未来を変えるために過去へ戻り、大切な人を守るというアニメだそうです。私なんかは先日U-NEXTで偶然見かけたアニメ「僕だけがいない街」にはまり、一気に全話観てしまったのですが、どうやらタイムリープを題材にした物語というのはいつの時代も人々の心を惹きつけるようです。例に漏れず、私もタイムリープができるならやり直したい過去があります。それは大学生活です。
 私は非常に後悔の多い大学生活を送っていました。学問に挫折したこともそうなのですが、大学生だからこそできること、大学生にしかできないことを疎かにしてしまっていたように思います。大人になったらできること、やらなければならないことはその時になってからやればいいというのが今の私の考えです。例えば学生時代のアルバイトも、社会勉強の範疇であれば私は肯定しますが、勉強や遊びの時間を侵してしまうのはもったいないと思ってしまいます。貴重な学生時代の数時間をアルバイトに捧げたところで得られるのはたったの数千円です。しかし同じ時間を友人と遊びに出かけたり、勉強に費やしてみたりしたらどうでしょう。決してお金では買うことのできない、人生において大切なことが得られるのだと私は信じています。
 「大学生の特権」は何だろうと考えたときに、私は「時間と体力」なのではないかと結論を出しました。お金はないけれど、遊びや勉強に費やす時間と体力に満ち溢れているのが大学生なのだと思っています。大学生ほど時間に融通が利く時期は他にないように思います。「今日暇?」の一言で遊びに出かけていくことができるのも大学生の特権です。有り余る時間を使って友人との交流の時間を持つというのは、勉強と並んで(ひょっとすると勉強にもまして)大切なことだと思っています。

3.人との交流

 人間形成の大部分は人との交流によってなされると私は考えています。私はこれまでに人と関わる中で他者の思想に触れ、他者との接し方を学んできたように思います。たくさんの経験の中で上手くいったことも、いかなかったことも全て現在の私の糧になっています。多種多様な人との交流の中で人格は形成され、コミュニケーション能力が磨かれていくのだと思います。
 我々医学部生のほとんどは数年後、臨床医として患者と向き合う仕事に就くわけですが、医学部生として過ごす6年間に医学の知識をただ詰め込んでいくだけで良い医療人になれるとは到底思えないのです。まして、今後はAIをはじめとしたテクノロジーの台頭により、医師は患者を「癒す」ことがより一層求められるようになるなかで、人と適切に関わることができないのは医師としての価値を下げてしまうように思えます。
 また、先ほども少し述べたように、私には看護師の友人が数名いるのですが、酒の席で聞こえてくるのは主に医者の愚痴です。その多くは医者の言動についての愚痴です。我々は入学以来、チーム医療の重要性を何度も耳にしてきました。もちろん、チーム医療というのはスタッフ同士が仲良く、楽しく仕事をするということだとは思っていません。しかし、医療とは関係のないところでチーム内に軋轢が生まれてしまっているとしたら、円滑なチーム医療の実現に障壁をなしてしまうのではないでしょうか。
 要するに、私たちは患者と向かい合う医療人であるとともに組織に属する社会人として正しく振る舞うことができるようになる必要があると思うのです。人との関わり方を覚えるためには実際にやってみるしかないと思います。私は積極的に人と関わり、人としての魅力を磨いていきたいと思っています。

4.今しかできないことをする

 私は医学部準硬式野球部に入部したのですが、それには理由があります。以前、私は地元の草野球チームに所属し時々試合に参加していたのですが、だんだんと時間の都合がつかないチームメイトが増え、しまいにはチームは解散することになりました。そこで、野球をはじめとしたチームスポーツは学生時代を逃すとなかなか機会が得られないのだと知りました。私が野球部への入部を決めたのは、チームメイトと目標に向かって練習に励み、結果に対して共に一喜一憂する機会は今後の人生で二度と得られないかもしれないと思ったことに起因します。
 私は以前の大学に通っていた頃は部活動に所属せず、アルバイトばかりしていました。今になって思えば、労働は大人になったらいくらでもできるのだから、学生時代にしかできないことをとことんやっておくべきだったと強く後悔しています。
 今しかできないことを全力でやるのが、今の私のモットーです。勉強も遊びも部活動も、何一つ妥協することなく学生時代を駆け抜けたいと思っています。

5.人生を切り拓く

 そうは言っても、大学生にとって勉強に先立つものはないと思います。私は塾講師の仕事を始めて久しいのですが、時折生徒から「勉強が何の役に立つの?」という質問を受けます。私は大抵こう答えます。「何の役にも立たないよ。入試問題を解く際には役に立つかもしれないけどね」と。そして、少し意地悪ですがこう付け加えます。「でも、もし勉強しなかったとして何になれるの?」と。私の小学生の頃の夢はプロ野球選手でした。しかし、後に自分には野球の才能が無いことに気付くのです。かといって芸術的な才能があるわけでもないし、顔で飯が食えるほどの恵まれた容姿を持っているわけでもありません。結局、勉強することでしか人生を切り拓くことができなかったのです。勉強は私のような凡人にもチャンスをくれました。受験勉強は本当に苦しかったけれど、結果的に医学部に合格し、医師になるためのスタートラインに立つことができたのですから。
 勉強をしていくと世の中の色々なことが分かり、選択肢が増え、さらに深く学んでいくと選択する権利が得られるのだと私は考えています。私はまだまだ医学については何も知らないに等しいのですが、今後も様々なことに興味を持ち、これまでそうしてきたように、勉強することで人生を切り拓いていきたいと思っています。

6.おわりに

 やり直したかった学生生活をもう一度送っているという点で、ある意味私はタイムリープに成功したのかもしれません。年齢は元に戻らないようですが。しかし、私のような特殊な経歴でない限り、過ぎ去った学生生活は二度と帰ってきません。同期のみんなには私と同じ後悔をしてほしくありません。私は同期の中では年配者であることに加え、新入生の学年代表に就任し、少なからず人からの視線を浴びているということは自覚しています。同期のみんなよりは少しだけ長く生き、酸いも甘いも知ってきたからこそ、良い背中を見せられたらいいなと思っています。
 最後にはなりますが、我々新入生一同、6年間を大いに楽しみ、そして学び、医師としてはもちろん、人としても岐阜大学医学部の名を背負うに恥じない人間になりたいと思っています。先輩方にはどうか温かい目で見守っていただきたく存じます。最後までお付き合いくださりありがとうございました。


令和4年1月5日

掲示者

岐阜大学医学部同窓会事務局

岐阜市柳戸1番1
電話 058-230-6091
FAX 058-230-6092


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