当教室の研究について

神経免疫班研究

自己免疫性小脳失調に関連する自己抗体の研究

自己免疫機序が介在する小脳失調症の存在が知られており、いくつかの疾患特異的な自己抗体が報告されています。これらの自己抗体の認識抗原は細胞内抗原と、細胞膜表面抗原の2種類に分類されます。細胞内抗原を認識する自己抗体は、抗Yo抗体、抗Tr抗体、抗Ri抗体、抗Zic4抗体などの傍腫瘍性に産生される抗体と、抗GAD抗体や抗グリアジン抗体など、腫瘍とは無関係に産生される抗体が該当いたします。細胞膜表面抗原を認識する自己抗体に関しては、これまでに代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)1抗体と、ランバート・イートン症候群で陽性となる抗VGCC抗体が報告されております。当科では、後者の細胞膜表面抗原を認識する自己抗体に着目して研究を行っております。孤発性で、その他の二次性小脳失調症の可能性が否定された、ほぼ純粋型に近い小脳失調症を対象として自己抗体の検出を行っております。既知の抗体検索として、Cell based assay(CBA)法を用いた抗mGluR1抗体の測定を行っております(図1)。抗mGluR1抗体陽性患者の臨床的な特徴として、小脳失調症以外に味覚障害を高率に合併することが報告されており(Lopez-Chiriboga AS, et al. Neurology 2016; 86: 1009-1013.)、もし疑わしい患者さんがいらっしゃいましたら、下記連絡先までお知らせください。また新規自己抗体の同定のために、自然科学研究機構生理学研究所生体膜研究部門(深田正紀教授)との共同研究により、ラット脳凍結切片組織や培養神経細胞を用いた免疫染色による抗体スクリーニング(図2)と、免疫沈降・質量分析による抗原蛋白の同定を行っております。

  • 図1)CBA法を用いた抗mGluR1抗体の検出

  • 図2)培養神経細胞を用いた膜表面抗体のスクリーニング

プログラニュリンの神経疾患における臨床応用に向けた研究

前頭側頭型認知症の原因遺伝子産物である成長因子プログラニュリン(Progranulin : PGRN)は、神経成長・保護および抗炎症作用など多面的な効果を合わせもつ蛋白質です。我々は、このプログラニュリンを神経疾患の診断と治療に応用するための研究を行っております。ELISA法により各種神経疾患患者の髄液PGRN濃度を測定した結果、中枢神経悪性リンパ腫と髄膜癌腫症において、その他神経疾患と比較し有意に上昇していることを確認し報告いたしました(Kimura A, et al. J Neurooncol. 2018; 137:455-462)。日常臨床において、度々これら疾患の診断に難渋することがあり、髄液PGRN値は、中枢神経悪性リンパ腫や髄膜癌腫症の簡便なバイオマーカーになる可能性が考えられます。また、視神経脊髄炎患者の急性期の髄液においてPGRN値が上昇し、PGRN値が発症から約1年後の機能障害スケールの改善度:ΔExpanded Disability Status Scale (EDSS) と正の相関関係がみられたことから、PGRNが視神経脊髄炎の予後に関与している可能性を指摘しました(Kimura A, et al. J Neuroimmunol. 2017; 305: 175-181)。

自己免疫性脳炎と抗神経抗体に関する研究

自己免疫性脳炎は、近年あいついで海外より新たな抗神経抗体が報告され、その多彩な臨床像が明らかになりつつあります。従来、自己免疫性脳炎の診断には、抗体検索と免疫療法に対する効果が、重要視されてきました。一方、多くの施設において、抗体検索を初期診断に用いることは、現実的ではなく、より実用的な診断基準の必要性を受けて2016年にGrausらにより自己免疫性脳炎の診断のためのアルゴリズム(Graus et al. Lancet Neurol. 2016; 15; 391-404.)が提唱されました。これにより抗体の結果を必要としない自己免疫性脳炎のprobable以上の診断と初期段階における免疫治療の開始が可能となりました。しかし、このアルゴリズムを用いても、definiteの基準を満たすためには、抗神経抗体の結果を必要とする症例が少なからず存在し、自己免疫性脳炎が疑われる症例では、抗神経抗体の検索がこれまで同様に必要であることに変わりはありません。当科では、自己免疫性脳炎が疑われた患者さんに対して、積極的に既知の抗神経抗体の検索を行い、既知の抗体が検出されなかった症例に関しても、ラット海馬初代培養神経細胞を用いた免疫染色などにより未知の抗体の検索を行っております。

抗体測定について

当科では、現在下記の抗体測定を受け付けています(2021/4/1現在)。メール題名に所属、測定希望抗体を明記の上、下記連絡先までご連絡下さい。おって送付方法等ご連絡します(対応は平日とさせて頂きます)。また患者さんからの直接依頼は受けていませんので、主治医にご相談ください。

・抗mGluR1抗体
・抗IgLON5抗体
・抗GFAPα抗体

連絡先
住所 〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1-1
宛先 岐阜大学 大学院医学系研究科 脳神経内科学分野
神経免疫グループ担当 宛
E-Mail
(抗体測定受付専用アドレスです。送信する場合は●を@に変更して送信ください。)
※E-Mailアドレスを変更しました。以前のアドレスは使用できません。
TEL 058-230-6255
FAX 058-230-6256