コラム

パーキンソン症候群

2024.04.26

発症の10年前にパーキンソン病を血液で診断できる時代に入った!

ドイツから,縦断的に追跡された個人において,血液中の異常αシヌクレイン(α-syn conformer)がパーキンソン病(PD)と臨床診断される10年前に遡って検出できることを初めて示した研究が報告されました.発症前診断は,早期の病態修飾療法を可能にするため,重要な目標となっていました.

テュービンゲン大学のTREND研究において,PDと診断されていない参加者1201人(50~80歳)が登録され,2009年以来,2年ごとに血液サンプルが,4年から10年間にわたって前向きに採取されました.後にPDと臨床診断された12名の血液を後方視的に解析し,(1)異常α-synを認識する抗体(MJFR-14-6-4-2)を用いた免疫ブロット,および(2)α-syn seed amplification assay(α-syn-SAA)を用いて,神経細胞外小胞由来の異常α-synを検出・増幅しました.さらに13人の健常対照者と,レム睡眠行動障害(iRBD)20人の血液も合わせて解析しました.

結果ですが,すべてのPD患者は,臨床診断時に免疫ブロットが陽性,かつα-syn SAAも陽性でした.さらに,すべてのPD患者は臨床診断の1〜10年前にα-syn SAA陽性を示しました.図のAC, BDは2例の患者の免疫ブロットとSAAのデータです.例えば症例10ではベースライン(BL)である10年前に両検査とも陽性で,臨床診断時(CD)に至るまで経時的に免疫ブロット濃度と,SAAのチオフラビンT強度(60時間後)が増加していることが分かります.E, Fは12例全例の経時的データです(罹病期間とMDS-UPDRS part3).一方,iRBDコホートでは30%がSAA陽性で,健常対照者はすべて陰性でした.

以上より,PDでは臨床診断の10年前まで遡り,末梢血中の異常α-synを検出・増幅できる可能性が示されました.発症前の診断が血液ベースでできることを示した意義は大きいと思います.アルツハイマー病でも同様の研究が既に示されており,いよいよ神経変性疾患は本格的な発症予防の時代に入る予感がします(きっと健康診断の採血で分かるようになります).今後の課題としては,異なるPDサブタイプにおけるseeding活性の比較,前駆期の症状との相関の検討,そして何より大規模な前駆期PDコホートにおける前向き研究による感度・特異度の確認が必要と思われます.今後の発展が注目されます.
Kluge A, et al. Detecting Misfolded α-Synuclein in Blood Years before the Diagnosis of Parkinson's Disease. Mov Disord. 2024 Apr 23. (doi.org/10.1002/mds.29766

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