コラム

パーキンソン症候群

2023.08.10

可逆的な脳ドーパミントランスポーターシンチ異常(前編)―カタトニアとなにか?

カタトニアは,広範な運動,言語,行動の異常によって特徴づけられる複雑な神経精神症候群です.統合失調症や気分障害に認められることが多いため,精神科領域にみられる神経症候と考えがちですが,感染症(ウイルス性脳炎,神経梅毒,SSPE,プリオン病等)や自己免疫性脳炎(NMDAR脳炎,傍腫瘍症候群,SLE),変性疾患(ハンチントン病,パーキンソン病),低/高ナトリウム血症,自閉症,アルコール離脱症候群,薬剤性などさまざまな原因で生じ,ときどき経験します. 症候学的には,重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持し(posturing),受動的にとらされた姿勢を重力に拮抗したまま保持し(カタレプシー:catalepsy,動画),屈曲の際に検査者に蝋(ろう)を曲げるような感触を与えるという筋トーヌスの特徴を示します(waxy flexibility).

上記の3つがカタトニアでよく認められる運動異常症ですが,他にも多くの特徴があり,正確な診断のためには,この現象の全スペクトルを認識することが重要です.DSM-Vでは以下の12項目のうち,3項目を満たせばカタトニアの診断が可能になります.

1.昏迷(stupor)
2.カタレプシー(cataplexy:受動的にとらされた姿勢を重力に拮抗したまま保持する)
3.蠟屈症(waxy flexibility:他者が姿勢を取らせようとすると,ごく軽度で一様な抵抗がある)
4.無言症(mutism)
5.拒絶症(negativism:指示や刺激に対して反対する,あるいは反応がない)
6.姿勢保持(posturing:重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持している)
7.わざとらしさ(mannerism:普通の所作を奇妙,迂遠に演じる)
8.常同症(stereotypies:反復的で異常な頻度の,目的指向のない運動)
9.外的刺激の影響によらない興奮(agitation)
10.しかめ面(grimacing)
11.反響言語(echolalia:他人の言葉を真似する)
12.反響動作(echoplaxia:他人の動作を真似する)

治療についてはRCTは不足してエビデンスレベルは高くないものの,ベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬とされ,N-メチル-d-アスパラギン酸受容体拮抗薬も有効であると考えられています.具体的にはロラゼパム,ジアゼパム,ゾルピデム,アマンタジン,メマンチン,トピラマート,オランザピンの有効性を示した前方視的試験,症例集積研究があります.電気けいれん療法(ECT)は薬物治療に抵抗性の患者に用いられます.カタトニアを早期に完全に消失させるためには,その根本的な原因を特定し,治療する必要があります.以下の総説がお薦めです.動画もこの総説からのもので,3つほどありますが,フリーで見ることができます.次回,意外なことが判明したカタトニアのDATスキャンについて議論します.

Wijemanne S, Jankovic J. Movement disorders in catatonia. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2015 Aug;86(8):825-32.(doi.org/10.1136/jnnp-2014-309098

一覧へ戻る