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2025.11.07
よく歩く人ほどタウの蓄積が抑えられ,認知機能が守られる―5,000歩から始めるアルツハイマー病予防
アルツハイマー病の予防における「運動」の重要性はこれまでも繰り返し指摘されてきましたが,その仕組みについてはよく分かっておりませんでした.Nature Medicine誌に掲載されたマサチューセッツ総合病院からの研究は,身体活動がアルツハイマー病理に及ぼす影響を,PETを用いて明らかにした意義深い報告と言えます.
著者らはHarvard Aging Brain Studyに参加した296名の認知機能正常の高齢者を対象に,歩数計によって測定した1日の平均歩数と,アミロイドβおよびタウのPET画像を最大14年間(!)追跡しました.対象者の平均年齢は72歳で,追跡期間の中央値は約9年でした.
さて結果ですが,身体活動量が多い人ほど認知機能(PACC5)および日常生活機能(CDR-Sum of Boxes)の低下が遅く,特に脳内アミロイドβ高値群では,この効果がより顕著でした.具体的には,まず図1bですが,アミロイドβ高値群では,身体活動量が多いほど下側頭皮質におけるタウ蓄積の増加がより緩やかになるという交互作用効果が認められました(身体活動 × Aβ:β=−0.13,P<0.001).さらに,アミロイドβの有無に関わらず,身体活動そのものにもタウ蓄積を抑制する独立した効果がみられました(身体活動:β=−0.07,P=0.04).すなわち,「Aβ陽性であるほど運動が効きやすい」ことに加えて,「そもそも運動はタウ蓄積を抑える方向に働く」という2つの効果が存在することになります.

さらに図1cでは,アミロイドβ高値群(赤)で,身体活動が多いほど(赤実線),認知機能低下(PACC5スコア)の進行が緩やかになることが示されています(β=0.10,P<0.001).この効果はアミロイドβ低値群ではみられず,アミロイド病理が存在する段階において,身体活動が保護的に働くことが分かります.横軸をご覧いただくと,運動の効果は10年経っても認めますので非常に驚きます.
そしてもう一つ驚くのは,身体活動はアミロイドβの蓄積そのものには影響を与えず,タウ病理の進行を抑制するということです.これを明確に示しているのが媒介解析を示した図2です.身体活動量が多いほど下側頭皮質でのタウ蓄積が遅く,その結果として認知機能低下が緩やかになることが示されています.この「タウ蓄積の抑制効果」は,身体活動と認知低下との関連の約84%を媒介していました.つまり,「よく歩く人ほどタウの蓄積が抑えられ,結果として認知機能が守られる」ことが定量的に裏づけられたわけです.やはり認知機能低下に直接重要なのはタウなのだなあと思います.

さらに歩数との関係を調べると,1日5,000〜7,500歩の中等度の活動で効果が最大となり,それ以上歩いても効果は頭打ちになることが示されました.この「5,000〜7,500歩」という目標は,高齢者でも達成可能であり,アルツハイマー病予防における行動指針として実践的な意味を持つと考えられます.著者らは,この結果を踏まえ,前臨床期アルツハイマー病の進行を抑制する介入として「身体活動の増加」を提案しています.お散歩は,安上がりで,かつ強力な認知症予防と言えます.
Yau WYW, et al. Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease. Nature Medicine. 2025; https://doi.org/10.1038/s41591-025-03955-6.

