コラム

神経所見・検査所見

2022.10.01

憑依,悪魔つきの新たな鑑別診断

Movement Disorders Clinical Practice誌からの動画です.10ヶ月の経過で「激しい体幹の屈曲を伴う首下がり」を呈した49歳のインド人の女性です.このような発作を1日で数回呈するようになり,不眠も認めました.その後,数ヶ月で幻視,記銘力障害,遂行機能障害,そして顔面・手足の舞踏運動,不安定歩行と転倒が出現しました.腱反射は消失,FDG-PETでは両側尾状核の低代謝を認めました.診断は何でしょうか?
昔から激しい運動異常症や幻覚,精神症状を呈し,まるで体内に人や動物の霊が入り込み精神的・肉体的影響を与える現象は「憑依,悪魔つき」と呼ばれてきました.「霊に取り憑かれているので除霊してほしい」などと言われたわけですが,その原因疾患としてNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体脳炎が有名です(過去ブログ:若い女性に好発する脳症の正体 https://bit.ly/3fzic43).映画「エクソシスト」のモデルとなったという説もあります.しかし本例はNMDA受容体抗体ではなく,血清・脳脊髄液で高力価のIgLON5抗体を認め,IgLON5抗体関連疾患と診断されました.専門医でなければ精神疾患として鎮静されていたと思います.
治療はステロイド,リツキシマブによる免疫療法,そしてテトラベナジンで舞踏運動を抑制し,2ヶ月後には改善しました.IgLON5抗体関連疾患には「舞踏運動を伴う認知症」というサブタイプがありますが,著者はその重症例と考えています.つまり頸部と体幹の高度の屈曲にて発症する病型もあることになります.当科ではcell-based assayによるIgLON5抗体測定が可能ですので,このような患者さんがいらっしゃいましたらぜひご相談ください.
Kanchana S, et al. Head drop and trunk flexion as an early manifestation of Anti-IgLON5 disease. Mov Disord Clin Pract. 24 Sep 2022(doi.org/10.1002/mdc3.13575)(動画はフリー)

 

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