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研究内容

脳卒中における神経細胞死ならびにその治療薬の検討

脳虚血再灌流障害

ここ10年の脳梗塞医療の発展には目を見張るものがあります。従来、脳梗塞は治らない病気であったものが、血栓(血管に詰まった血の塊り)を溶かす組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)の認可を始め、閉塞した血管を再開通させることで治癒も望める疾患へと変貌しました。再開通により症状が劇的に良くなる方も増えましたが、未だ治療成績が十分であるとまではいえません。閉塞した血管を再開通させると、虚血自体より障害が強いといわれる再灌流障害を引き起こす可能性があり、このメカニズムの解明、治療薬の開発が喫緊の課題であると考えられています。
虚血再灌流障害は様々な障害が複合して起きており、われわれはその中でも酸化ストレス、自然免疫、ミトコンドリア機能障害をターゲットと考えています。それぞれの分野において、分子生物学的並びに薬理学的な手法を用いて、そのメカニズムと治療薬に関する研究を行っています。
例えば、酸化ストレスに関しては、生体の持つ最も強い抗酸化ストレス機構である転写因子Nrf2 (Nuclear factor-erythroid 2-related factor 2)に注目し、虚血再灌流障害時におけるメカニズムとその活性化剤の治療薬としての可能性を検討しています。また自然免疫に関しては、Toll-like receptor(TLR)に注目しています。TLRは脳虚血再灌流時後の免疫系の関与の最上流にあると考えられており、その下流因子への関与や治療ターゲットとしての可能性を検討しています。

脳血液関門(BBB)における周皮細胞

周皮細胞は近年注目されている細胞であり、BBBにおけるバリア機能の維持のみならず多数のメディエーターの放出や血管内皮細胞やアストロサイトとの相互作用が報告されていますが、未だ十分に研究されていない分野です。また、周皮細胞がある程度の分化能を持つ可能性も示唆されています。現在、BBBを含めたNeurovascular Unit(NVU)という概念が提唱されており、NVU全体を保護することが最終的な目標である神経細胞の保護に繋がると考えられています。その中核を担う可能性のある周皮細胞は注目を集めて当然なのかもしれません。しかしこの重要な機能を持つ可能性が高い細胞は、脳卒中時には障害されやすいとの報告もあり、われわれは脳梗塞や脳出血時における周皮細胞の細胞死ならびにその保護薬について検討しています。さらに周皮細胞の保護が神経細胞死の抑制に繋がるかが今後の課題です。

高次脳機能の画像診断および脳腫瘍の画像診断

高次脳機能の画像診断および脳腫瘍の画像診断に関する臨床研究を、中部療護センターのスタッフが中心となって行っています。中部療護センターは独立行政法人の自動車事故対策センターにより設置され、社会医療法人厚生会木沢記念病院により運営される「自動車事故による脳損傷によって重度の後遺症をかかえる患者の社会復帰を目ざし、高度な治療と看護及び病態解明を目的とした、世界でも類を見ない専門病院」です。医療スタッフは岐阜大学医学部の脳神経外科専門医を中心に構成されています。遷延性意識障害や高次脳機能障害の患者に対して従来の外科療法、薬物療法、理学療法、作業療法、言語聴覚療法に加えて、バーチャルリアリティ-を用いた刺激療法や音楽療法、高次脳機能訓練等を導入しています。これらのリハビリテーションの導入の医学的根拠や効果の判定として最新鋭のMRIやPET、SPECT、電気生理学的検査等を用いて、個々の患者に対して1)脳内の神経繊維のネットワークの損傷部位の形態学的な把握、2)脳循環代謝の統計学的画像解析を用いた脳機能低下部位の三次元的な把握、3)五感刺激や高次脳機能刺激に対するFunctional Mappingを中心とした検査を施行し、Evidence based Rehabilitationの確立を目指しています。最近の研究としては、fMRIを用いたdefault mode networkの解析、ノルアドレナリンをターゲットにしたMeNER PETやアミロイドβをターゲットとしたPiB PETといった新規核種を用いたPETで検出した神経機能画像評価を行っています。そして、PET検査が行えることで、当施設では、その特性により脳腫瘍の鑑別、悪性度や活動性の評価、更には組織学的評価へと応用しています。最近の研究としては、Methionine/Choline PETを用いての治療前後の病変の活動性評価、Methionine PET dynamic studyによる脳腫瘍組織型の分類評価、腎機能障害や造影剤アレルギーなどで造影検査を行えない患者へのCholine PETでの代替評価を行っています。このような、先進的画像評価が可能なため、脳腫瘍のPET検査は最近の10年弱の間に計3000例を超える実績があり、脳腫瘍に限定されず、その鑑別を必要とする疾患の検査目的に日本全国より患者が集まっています。

悪性脳腫瘍におけるがん幹細胞

がん細胞のなかには幹細胞のような働きをする「がん幹細胞」が存在すると言われています。がん幹細胞は化学療法や放射線療法に対する抵抗性をもち、娘細胞である分化がん細胞を生み出す事ができます。このために悪玉の親分のような存在と考えられています。われわれはがん幹細胞を標的とする治療法が開発できればがんの大元をシャットアウトし根治に結びつけられると考え、2004年に本邦で初めて悪性脳腫瘍患者よりがん幹細胞の単離•培養に成功しました。その後、われわれの研究チームが先駆けとなり本邦においても胃がんや乳がん等の他臓器のがんでがん幹細胞の研究が進む事となりました。現在までに、多数の論文や米国癌学会での招待講演などでその成果を発表し続けています。われわれは本邦の他大学のみならず、米国ピッツバーグ大学、バージニア大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、クリーブランドクリニック、マイアミ大学、ミシガン大学などとも共同研究を行っています。さらに、韓国の研究機関には我々の樹立した細胞株を無償で提供し、韓国における脳腫瘍幹細胞研究のモデル細胞として中心的な役割を担いつつあります。

血小板

血小板は血管の破綻に伴って活性化し、止血において最も重要な役割を果たしています。一方で、現在の高齢化社会においては脳梗塞や心筋梗塞といった血栓症が問題となっており、加齢や動脈硬化に伴う血小板の過剰な活性化を抑制して血栓症を予防することが重要であると考えられています。また、近年急速に発展しつつある脳血管内治療において周術期血栓性合併症は大きな問題であり、治療時の適切な抗血小板療法は治療成績の向上に不可欠です。しかしながら、抗血小板薬の効果には個人差があるため画一的な使用では不十分で、抗血小板作用のモニタリングを行うことで適切な治療介入を行うことが望ましいと考えられます。われわれは薬理病態学教室と共同して血小板凝集能の測定と活性化機序の解明、活性化した血小板が分泌する生理活性化物質の解析を行っており、血小板機能に関する基礎研究とともに、血栓症治療や血管内治療時の血栓性合併症などの実臨床における血小板凝集能、抗血小板剤療法の影響について研究を行っています。

脳腫瘍免疫療法

癌は日本人の死亡原因の第一位であり、手術や放射線療法、化学療法の発展にもかかわらず、依然として年間30万人が癌で死亡しています。最近、悪性腫瘍に対する新たな治療法として自らの免疫力を高め抗腫瘍効果をもたらす免疫療法が注目されています。文部科学省でも第三次対がん10ヶ年総合戦略(平成16年~平成25年)で優れた癌免疫療法に係る基礎的研究の推進を掲げています。脳神経外科領域でも、悪性脳腫瘍の生存期間を延長させるための新しい免疫治療法の開発が期待されています。

自分自身の細胞に由来する腫瘍細胞に対しては免疫応答が弱く、免疫療法によって腫瘍の増殖を抑制することは困難でした。しかし、我々は、ある種の化学物質(IL-2、IL-15、TNFα等のサイトカイン)を用いれば、腫瘍と戦う能力のある細胞(Tリンパ球やナチュラルキラー細胞等)の機能を高めることができ、実験的に腫瘍を接種した動物の生存期間を延長させたり、腫瘍を完全に消失させることが可能であることを見いだして国内外に発表してきました。今後は、ヒトの悪性脳腫瘍に対する免疫治療の確立と臨床応用をめざして研究を進めていきます。

高次脳機能の画像診断

高次脳機能の画像診断に関する臨床研究を、中部療護センターのスタッフが中心となって行っています。中部療護センターは独立行政法人の自動車事故対策センターにより設置され特定医療法人厚生会総合病院木沢記念病院により運営される「自動車事故による脳損傷によって重度の後遺症をかかえる患者の社会復帰を目ざし、高度な治療と看護及び病態解明を目的とした、世界でも類を見ない専門病院」です。医療スタッフは岐阜大学医学部の脳神経外科専門医を中心に構成されています。遷延性意識障害や高次脳機能障害の患者に対して従来の外科療法、薬物療法、理学療法、作業療法、言語聴覚療法に加えて、バーチャルリアリティ-を用いた刺激療法や音楽療法、高次脳機能訓練等を導入しています。これらのリハビリテーションの導入の医学的根拠や効果の判定として最新鋭のMRIやPET, SPECT, 電気生理学的検査等を用いて、個々の患者に対して1)脳内の神経繊維のネットワークの損傷部位の形態学的な把握 2)脳循環代謝の統計学的画像解析を用いた脳機能低下部位の三次元的な把握 3)五感刺激や高次脳機能刺激に対するFunctional Mappingを中心とした検査を施行し、Evidence based Rehabilitationの確立を目指しています。(当センターの試みは先日NHKのETV特集にて取材放映されました。)

さらにこれらの脳外傷の患者に対する診断、治療技術を痴呆性疾患、脳腫瘍、脳血管障害等中枢神経疾患全般に応用しています。特に脳腫瘍のPET検査は年間150例程度の実績があり、脳腫瘍の糖代謝、アミノ酸代謝等の測定に日本全国より患者が集まっています。