
生化学における遺伝子工学的技術 その1
目 的
遺伝子工学の発展により、今やこの技術は本来の分子生物学や生化学においてのみならず、他の生物学諸部門、医学、薬学、農学から理工学方面の研究に至るまで、不可欠なものとなっている。それに伴い、分子生物学に比較的馴染みの少なかった研究者や臨床医がこの技術を短期間にマスターしなければならない事態が生じている。
本実習では多くの技術の中で基本的な以下のことを行う。
1)培養細胞からのゲノムDNAの調製
2)DNA断片のプラスミドDNAへの組込みDNAの制限酵素消化とその電気泳動
3)DNAの制限酵素消化とその電気泳動およびDNA断片の精製
4)大腸菌の形質転換
5)プラスミドDNAの調製
6)サザンハイブリダイゼーション(Southern hybridization)
1)培養細胞からのゲノムDNAの調製
生物の種を規定するゲノム DNA は、同一生物種では細胞の種類にかかわらず同じであり、細胞核内に存在するが、ミトコンドリアにも少量のミトコンドリアDNAが存在する。核DNA はミトコンドリア DNAとは異なり、塩基性タンパク質であるヒストンや他の非ヒストンタンパク質と結合した状態にあり、DNAの調製の主な操作は除タンパクである。除タンパクの方法として、通常まずタンパク変性剤としてのSDSを用いてDNA-タンパク複合体として存在するクロマチンを可溶化し、その後タンパク分解酵素を十分に働かせる。さらに有機溶媒のフェノールやクロロホルムを用いてタンパク質を変性させ、DNAから除去する。
DNA の抽出に際しては、DNA 分解酵素の作用を抑えるため、滅菌した器具を用いて低温で試料を扱うことが必要である。材料はできるだけ新鮮なものを用いる。また、激しい振とうや先の細いピペットチップの使用は、長いDNA分子が切断されることが考えられ、このような操作は避けなければならない。ここでは、市販のキットを用いた簡便法によりDNAを抽出し、波長 260 nm の吸光度を測定して DNA 量を求める。また、アガロースゲル電気泳動によって得られたDNAの状態を確認する。
準 備
- DNA 抽出用培養細胞:2 - 5 x 107細胞を用意する。
- DNA 抽出用試薬(G NOMETMDNA 抽出キット):Cell Suspension Solution, RNase MIXX, Cell Lysis/Denaturing Solution, Protease MIXX, Salt Out Mixture.
- TE 溶液:10 mM Tris-HCl (pH 7.5), 1 mM EDTA
- DNA 抽出用 15 ml コニカルチューブ、ブルーチップ(DNA 抽出用に先端を切ったもの)、ピペットマン、
- 分光光度計
実 験 1 培養細胞からのゲノムDNAの調製
- 培養細胞を1,000 rpm で10分間遠心する。得られた沈澱に 1.85 ml の Cell suspension 溶液を加え、転倒混和して細胞を均一にする。
- RNase MIXXを 50 μl 加え、十分混和する。
- Cell Lysis/Denaturing Solution 100 μl を加えてよく混和する。
- 55℃, 15分間インキュベートする。
- Protease MIXXを25 μl 加え、十分に混和する。
- さらに55℃, 30分間以上インキュベートする。
- 500 μlのSalt Out Mixtureを穏やかにしかも十分に混和する。混和後、試料を2分して1.5 ml マイクロチューブに分注し、4℃(氷中に), 10分間放置する。
- 13,000 rpm, 10分間遠心し、上清のみを注意深く 15 ml コニカルチューブに移す。沈澱を吸い込んだ場合は透明な上清が得られるまで再び遠心しなおす。
- この上清に2 mlのTE 溶液と8 mlのエタノールを加えゆっくりと混和した後、1,500 xg 15分間遠心する。
- 上清を十分に取り除いてDNAの沈澱を風乾する。適当量のTE溶液に浮遊させる。
- 得られたサンプルのDNA 量は、分光光度計を用いて260 nmの吸光度を測定して求める。なお、2本鎖DNAでは、1OD260nm = 50 μg/mlと推定される。
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2)DNA断片のプラスミドベクターへの組込みと大腸菌の形質転換
組換えDNA実験では細胞あるいは個体に異種のDNAを導入するが、DNAが導入される細胞または個体を”宿主 (host)”と呼び、大腸菌を用いることが圧倒的に多い。DNAは自己増殖能をもつ運搬体(carrier)に連結して細胞に導入される。この運搬体を”ベクター(vector)”と呼ぶ。大腸菌ベクターは、(1) コスミドベクター、(2) 二本鎖DNAファージベクター、(3) プラスミドベクター、(4) 一本鎖DNAファージベクターに大別され、目的に応じて種々のベクターを選択する。プラスミドは大腸菌内で自律増殖可能な二本鎖で環状DNAである。有用なプラスミドベクターの条件として、a)抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカーをもつ、b) クローニングのための複数の制限酵素認識部位をもつ、c) 大腸菌内で多コピー存在しうることなどが挙げられる。現在では、pUC系プラスミドをはじめ上記の条件にかなう種々のベクターが開発され、クローン化cDNAを発現させることを目的とした発現ベクターもある。はさみと糊で紐を切ったりつないだりするように、DNAを制限酵素で切断(digestion)したり、切断端を連結酵素(ligase)で結合させること(ligation)ができる。末端が同じ制限酵素切断端である場合は連結が容易であるが、末端の塩基配列が異なる場合は、Klenow 酵素で平滑末端になるように埋めたり、制限酵素認識配列をもつ1本鎖DNA(リンカー, linker)を予め結合させた後、連結反応させる場合がある。ここではDNA 断片を精製し、プラスミドベクターへの組込みを行う。また、連結反応液を大腸菌に感染させ、大腸菌を形質転換(transformation)させる。プラスミドベクターにはしばしば抗生物質に対する耐性遺伝子が含まれており、選択マーカーとして用いられる。抗生物質に感受性な大腸菌の形質が非感受性に転換される。組換えDNAをもつ細胞あるいは個体を組換え体(recombinant)と呼ぶ。
2.1)DNA 断片のアガロースゲル電気泳動による分離と精製
Ligation を行うためのDNAは予め制限酵素で断片化しておき、これらをアガロースゲル電気泳動で分離し、ゲルから目的のバンドを切りだし、ガラスビーズを用いてDNAを抽出する。なお、制限酵素処理については後に詳しく述べる。
準 備
- 予め制限酵素処理したプラスミドDNA
- 色素液:30% グリセロール、0.25% ブロモフェノールブルー(BPB)、0.25%キシレンシアノール(XC)
- DNA マーカー:λ DNA/Hind III (λ DNAを制限酵素Hind IIIで消化したもの),
ΦX174 DNA/Hae III (ΦX174 DNAを制限酵素Hae IIIで消化したもの)
- アガロースゲル電気泳動用緩衝液:1x TAE=40 mM Tris-acetate, 1mM EDTA。濃縮緩衝液(50x TAE)を50倍希釈し、泳動用およびアガロースゲルの調製に用いる。
- 1%アガロースゲル:アガロース1gを秤量し、100 mlの1x TAEを三角フラスコに入れる。オートクレーブあるいは電子レンジでゲルを完全に溶かす。室温に放置するか、流水中で50-60℃(大体手で触れられるくらい)に冷やす。冷やしすぎるとゲルが固まるので、時々三角フラスコを振ってゲルが固まらないように注意する。エチジウムブロマイド(ethidium bromide)を終濃度0.5 μg/ml となるように加える。型(ゲルモールド)に溶解したアガロースを流し込み、室温に放置して固める。ゲルが十分に固まったところで、ゲルを壊さないように注意しながらゆっくりとコーム(櫛形)を抜く。
- ピペットマン(P-20)、滅菌チップ および滅菌マイクロチューブ、マイクロ遠心機、インキュベーター
- Gene Clean II DNA 抽出キット:NaI 溶液、Glass Milk、洗浄液(New Wash)
実 験 2 アガロースゲル電気泳動によるDNAの分離
- 泳動装置に緩衝液(1x TAE)を入れ、ゲルをこの中に浸す。エチジウムブロマイドを終濃度0.5μg/mlとなるように泳動槽に加える。
- 予め制限酵素で消化したDNA試料15 μlに色素液3 μlを加え、ピペットマンを用いてゲルのスロットに注入する。試料がスロットからはみ出さないように注意する。
- サイズマーカーとして、λ DNA/Hind III (4 μl)およびΦX174 DNA/Hae III (2 μl) を同一のスロットに入れる。
- 100Vで 30分間電気泳動する。
- 2本鎖DNAの鎖間に挿入されたエチジウムブロマイドは、UV照射によって赤い蛍光を発しDNAの存在が確認できる。目的のバンドとマーカーの易動度の比較により確認する。
#注意:UVを用いる場合は、必ずプロテクターを付け、UVを絶対に直視しないよう注意する。
- きれいなカッターナイフで目的のバンドを切りだして 〜2mm 角くらいに細切し、マイクロチューブに入れる。
実 験 3 DNA 断片のアガロースゲルからの抽出・精製
- マイクロチューブに入れた細切ゲルの重さを計り、その3倍量の NaI 溶液を加える。
- 55℃, 3分間加熱し、ゲルを完全に溶解する。時々試料を振って完全に溶解したことを確認する。
- ボルテックスミキサーで十分に浮遊させ Glass MilkTM 5 μl を試料に加え、氷中に5分間放置する。
- 12,000 rpm, 1分間遠心し、ピペットマンで上清をできるだけ取り除く。
- 500 μl の洗浄液を加え、ピペットマンで沈澱をほぐす。
- 12,000 rpm, 1分間遠心し、ピペットマンで上清をできるだけ取り除く。
- 5) - 6) の操作をさらに2 回(計 3 回)繰り返す。
- 110 μl の滅菌超純水を加えピペットマンで沈澱をよくほぐし、55℃, 3分間加熱する。
- 12,000 rpm, 1分間遠心し、ピペットマンで上清100μl を新しいマイクロチューブに移す。
- 100 μlの滅菌超純水を加えピペットマンで沈澱をよくほぐし、55℃, 3分間処理する。
- 12,000 rpm, 1分間遠心し、ピペットマンで上清100μl を 9) のマイクロチューブに移す。
- 20 μlの 3M 酢酸ナトリウム、1 μlのグリコーゲン、エタノール600 μlを加え、 -20℃ で30分間放置する。
- 14,000rpm, 5分間遠心する。上清をピペットマンで取り除き、70%エタノールを500μl加えて同じ条件で遠心する。
- 上清をピペットマンでできるだけ取り除き、マイクロチューブの蓋を開けたままデシケーターに入れて風乾する。
- 5 μlの滅菌超純水を加えてDNAを溶かす。この全量もしくは一部をライゲーション反応に用いる。
2.2)精製DNA断片のプラスミドベクターへの組み込みと大腸菌の形質転換
準 備
- プラスミドベクター:自己環状化(self-ligation)を防ぐために、制限酵素消化したプラスミドを予め子牛小腸アルカリホスファターゼ(calf intestinal alkaline phosphatase, CIAP) などで処理し、末端を脱リン酸化しておく。
- DNA 断片:挿入したいDNA 断片をアガロールゲル上で分離し、目的のバンドをゲルから切出し、DNAを抽出する。DNAをガラスビーズに吸着させて精製する方法がある。
- 連結酵素(ligase) および連結酵素用緩衝液:T4 ligase がよく用いられるが、ここでは緩衝液や酵素を含むライゲーションキットを用いる。
- インキュベーター:連結反応(ligation)は16℃で行う。形質転換の際の熱処理は42℃で行う。大腸菌の培養は37℃で行う。
- 形質転換用大腸菌:形質転換が効率よくおこるように予め処理した細胞をコンピテント細胞(competent cells) と呼ぶ。
- SOC メジウム:2% tryptone, 0.5% yeast extract, 0.05% NaCl, 2.5mM KCl, 20mM MgCl2, 20mM glucose
- LB-Amp プレート:アンピシリン(50 μg/ml) を含む LB 寒天培地(プレート)
実 験 4 ライゲーション反応
- プラスミドベクター(2μl)および精製 DNA 断片(2 μl)を滅菌マイクロチューブに入れる。
- ライゲーションキットの溶液IA(4μl) を同じチューブに入れる。
- 16℃で数時間インキュベートする。
実 験 5 大腸菌の形質転換
- [実験4]のライゲーション反応液(8 μl)を大腸菌(competent cells)(100 μl) に加え、氷中に30分間放置する。
- このマイクロチューブを42℃で30秒間インキュベートし、直ちに氷冷する。
- 900 μlのSOCメジウムを含むチューブに熱ショック処理した大腸菌全量を移し、37℃で激しく振とうしながら1時間インキュベートする。
- SOC中でインキュベートした大腸菌を1:9に分け、LB-Ampプレート上に均一になるようにパスツールピペットを曲げて作ったスプレッダーを用いて広げる。
- LB-Ampプレートを37℃で一晩インキュベートする。プラスミドDNAを取り込んだ大腸菌は抗生物質耐性となり、コロニーを形成する。
- ピンセットで滅菌爪楊枝をつまみ、その先端で単一コロニーを拾い、LB-Amp培地を含む15ml コニカルチューブに入れて37℃で 12時間以上激しく振とう培養する。
- 増殖した大腸菌は、集菌して以下のアルカリ-SDS法によりプラスミドを調製する。
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3)プラスミドDNAの調製
ここでは、プラスミド DNAの少量調製を行う。大腸菌を分解して大腸菌ゲノムDNA、タンパク質などを沈澱させる方法に、(1) アルカリ-SDS法と(2) 煮沸(boiling) 法がある。その後さらに、フェノール処理やRNase A 処理によりそれぞれタンパク質やRNAを除く操作を行う。ここでは、アルカリ-SDS法を行う。
準 備
- 滅菌マイクロチューブ、ピペットマン、滅菌チップ、チューブ立て
- 溶液 I:50 mMグルコース、10 mM EDTA(pH8.0)、25 mM Tris-HCl(pH8.0)
- 溶液 II:0.2 N NaOH、1% SDS
- 溶液 III:5 M 酢酸カリウム(60 ml)、氷酢酸(11.5 ml)、H2O(28.5 ml)
- 溶液:10 mM Tris-HCl(pH8.0)、0.1 mM EDTA(pH8.0)
- フェノール・クロロホルム混液:TE 飽和フェノール1容とクロロホルム1容の混液
- 3 M 酢酸ナトリウム溶液、エタノールおよび70% エタノール水溶液
- RNase A:熱処理によりDNaseを失活させたもの。10 mg/ml
- LB-Amp 培地:LB 培地にアンピシリン(ampicillin, 50 μg/ml)を添加したもの。
実 験 6 プラスミドDNAの調製
- 各チューブから菌液をマイクロチューブに移し、これを12,000 rpm、1 分間遠心して上清をピペットマンで除去する。
- 沈澱を100 μl の溶液 I に懸濁し、5分間室温に静置する。
- 溶液 II を200 μl 加えて混和し、氷中に正確に5分間静置する。
- 氷冷した溶液 IIIを150 μl 加えてよく混和し、さらに氷中に5分以上静置する。
- 12,000 rpm、5 分間遠心する。
- 上清を新しいマイクロチューブに移し、等量(450 μl)のフェノール・クロロホルム混液を加えてよく転倒混和する。
- 12,000 rpm、5 分間遠心する。
- 水層(上層)を、2倍量(800 μl)のエタノールを含むマイクロチューブに移し、混和する。
- 氷中に5 分間放置する。
- 12,000 rpm、5 分間遠心する。
- 上清を除き、沈澱に400 μlの70% エタノールを加え、12,000 rpm、5 分間遠心する。
- 沈澱を吸わないように十分注意してできるだけ水分を除き、5 分間真空乾燥する。
- 1/50 容の RNase Aを含む50 μlのTE 液を加え、37℃, 30 分間インキュベートする。
- 1/10 容の3M 酢酸ナトリウム溶液および2 容のエタノールを加え、-80℃, 30分間放置する。
- 13) - 15) の操作を繰り返す。
- 20 μlのTE液に溶解する。
3.2)DNAの制限酵素消化とその電気泳動
遺伝子操作において使用される酵素は、制限酵素とそれ以外のものとに大別できる。
1) 制限酵素(restriction enzyme):DNAの特定の塩基配列を認識し、切断する酵素。エンドヌクレアーゼの一種。認識される塩基配列はしばしばパリンドローム構造をとる。切断端が平滑末端(blunt end) を示す場合と、5' あるいは3' 末端が突出する場合がある。後者は、5'-あるいは3'-突出末端(5'- or 3'-protruded) 型と呼び、粘着末端(sticky end) 型とも総称される。
2) DNA ポリメラーゼ、Klenow 酵素、各種キナーゼ、S1ヌクレアーゼ、逆転写酵素など、組換えDNA の作製や分析に使用される酵素。
#1 制限酵素の使用方法:DNA 溶液に10倍濃縮緩衝液を1/10 容加え、1 μgのDNAに対して1-5 単位の制限酵素を加える。よく撹拌し、酵素の至適温度で1時間反応させる。
#2 酵素の単位:一定量のDNAを一定時間で切断する酵素の量を1単位とする。通常、1 μg のλ ファージDNAを1時間で切断するのに必要な酵素量を1単位という。
#3 酵素緩衝液:制限酵素が十分な活性を示す条件は各酵素により異なり、塩の種類 (Na あるいは K)、塩濃度(0, 50, 100mM)および温度の至適条件を熟知して使用することが必要である。通常、購入した酵素に適切な10倍濃縮緩衝液が添付される。以下に代表的な酵素の認識配列と反応条件を示す。
表 7−1 主な制限酵素の認識塩基配列と性質
|
BamH I |
EcoR I |
Hind III |
Kpn I |
Pst I |
Pvu II |
Sal I |
Sau3A I |
Taq I |
Xba I |
Xho I |
|
G/GATCC |
G/AATTC |
A/AGCTT |
GGTAC/C |
CTGCA/G |
CAG/CTG |
G/TCGAC |
/GATC |
T/CGA |
T/CTAGA |
C/TCGAG |
|
K:150 |
Na:50 |
Na:50 |
K:10 |
Na:100 |
Na:60 |
Na:150 |
K:50 |
Na:100 |
K:100 |
Na:100 |
|
37 |
37 |
37 |
37 |
37 |
37 |
37 |
37 |
65 |
37 |
37 |
|
添付緩衝液の組成例:至適条件となるように以下の緩衝液を希釈(X10)して用いる。
H:1000 mM NaCl, 500 mM Tris-HCl(pH7.5), 100 mM MgCl2, 10 mM DTT
M:500 mM NaCl, 100 mM Tris-HCl(pH7.5), 100 mM MgCl2, 10 mM DTT
L:100 mM Tris-HCl(pH7.5), 100 mM MgCl2, 10 mM DTT
K:500 mM K-acetate, 200 mM Tris-acetate(pH7.9), 100 mM Mg-acetate, 10 mM DTT
準 備
- プラスミドDNA、制限酵素、制限酵素用10倍濃縮緩衝液および滅菌超純水
- 色素液:30% グリセロール、0.25% ブロモフェノールブルー(BPB)、0.25% キシレンシアノール(XC)
- DNA マーカー:λ DNA/Hind III , ΦX174 DNA/Hae III
- エチジウムブロマイド液
- アガロースゲル電気泳動用緩衝液:0.5x TBE = 45 mM Tris-borate, 1 mM EDTA。Tris-酢酸緩衝系(TAE)あるいはTris-ホウ酸緩衝系(TBE)が用いられるが、ここではTBEを使用する。濃縮緩衝液(5x TBE)を10倍希釈し、泳動用とアガロースゲルの調製に用いる。
- 1%アガロースゲル:アガロース1g を秤量し、100 ml の0.5x TBEを三角フラスコに入れる。オートクレーブあるいは電子レンジでゲルを完全に溶かす。室温に放置するか、流水中で50-60℃(大体手で触れられるくらい)に冷やす。冷やしすぎるとゲルが固まるので、時々三角フラスコを振ってゲルが固まらないように注意する。エチジウムブロマイド(ethidium bromide)を終濃度0.5 μg/ml となるように加える。型(ゲルモールド)に溶解したアガロースを流し込み、室温に放置して固める。ゲルが十分に固まったところで、ゲルを壊さないように注意しながらゆっくりとコーム(櫛形)を抜く。
- ピペットマン(P-20)、滅菌チップ および滅菌マイクロチューブ、インキュベーター
実 験 7 制限酵素処理
- 滅菌マイクロチューブに以下のものを入れる。
- マイクロ遠心機で 12,000 rpm, 数秒間遠心する。
- 37℃, 1時間インキュベートする。
- 色素液 4 μlをマイクロチューブに加え、 12,000 rpmで数秒間遠心する。
- 試料12 μlを[実験2]の要領で1%アガローズゲル上で電気泳動する。
- UVトランスイルミネーター上で挿入断片(insert)と同じ大きさのバンドを確認する。
#酵素使用上の注意:多くの場合、同じ酵素溶液が複数の実験に用いられるため、致命的なコンタミネーション(contamination)が起こることがある。ピペットマンのチップはその都度新しいもの(滅菌済)を用い、酵素液が入っている容器の蓋を開けるときも直接手を触れず、手袋をするか、キムワイプなどを口に当てて開いた方がよい。酵素液は、冷凍庫で -20℃に保存する。使用時は氷中に置き、使用後は直ちに冷蔵庫に戻す。これを怠ると酵素は失活する。
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4)サザンハイブリダイゼーション(Southern hybridization)
サザンブロッティング法は、アガロースゲル電気泳動などで分離した DNA 断片をフィルター上に移して固定し、一般には放射性同位元素(主に32Pが用いられる)で標識された DNA断片とDNA-DNAハイブリッドを形成させ、オートラジオグラムをとることによって目的とする DNA 断片を検出・同定する方法である。
サザンブロッティング法には大きく分けて以下のステップがある。
1) DNA の抽出・精製および制限酵素処理
2) DNA 分離のためのアガロースゲル電気泳動
3) メンブランへの DNA の転写
4) ハイブリダイゼーション
5) 目的DNA断片の検出・同定
本実習では、プラスミド DNAを制限酵素 BamH I, EcoR I, EcoR I + BamH I の3種の処理を行い、アガロースゲル電気泳動後、サザンブロットを行い、化学発光によってDNAを検出する。
準 備
- 0.4 N NaOH:500 ml
- サザンブロット用ナイロンメンブラン:ゲルと同じ大きさに切っておく。
- 転写用装置:トレイ、サランラップ、ロ紙、ペーパタオル
- ハイブリダイゼーション用ナイロン袋、ポリシーラー、トレイ、インキュベーター
- ハイブリダイゼーション用緩衝液:20 ml
バッファー 20 ml
NaCl 0.58 g
ブロッキング試薬 1 gを混合し電子レンジで溶解させる。
- 一次洗浄バッファー:1l(リットル)
尿素 360 g
SDS 4 g
20X SSC 25 ml を混合しH2Oで1lにする。
*20X SSC:3 M NaCl, 0.3 M Na3-citrate (pH 7.0)
- 2次洗浄バッファー:2X SSC(20X SSC を希釈して用いる)
- 化学発光検出試薬:試薬AおよびBを等量ずつ使用直前に混合する。
実 験 8 サザンブロッティング
1.電気泳動
- プラスミドDNAを3本のマイクロチューブに分注し、それぞれに対してBamH I, EcoR I, EcoR I + BamH I の3種の制限酵素処理を[実験6]の要領で行い、[実験2]の要領でアガロースゲル電気泳動を行う。
- アガロースゲルをトランスイルミネーターにのせ、定規を当ててウェルからバンドまでの距離がわかるように写真を撮る。
2.アルカリブロッティング
- 予めゲルの大きさ(縦横)を測定し、その大きさのナイロンメンブラン1枚と、厚手のロ紙2枚を切っておく。また、30
x 13 cm の厚手のロ紙2枚を準備する。
- トレイにガラス板を渡し、厚手のロ紙2枚(30 x 13 cm)をのせて下に折り曲げる。ロ紙を0.4N NaOHで浸し、トレイに残りを入れる(図参照)。なお、以下のステップは手袋をはめて操作する。
- ロ紙中央にゲルをのせ、ナイロンメンブランをピンセットでつまみ気泡が入らないようにその上にのせる。気泡が入るとその部分のDNAが転写されないので注意する。
- ゲルのまわりの部分をサランラップで覆う。
- この上にゲルと同じ大きさのロ紙2枚をのせ、さらにペーパータオルの束、ガラス板、おもりをのせてブロッティング装置を組む。
- そのまま、2-3 時間おく。
- 終了後、メンブランのウェルの位置に鉛筆でマークし、2X SSCに1分間浸した後、ロ紙ではさんで乾燥させる。
3.プレハイブリダイゼーション
- ハイブリダイゼーション用バッファーを予め42℃でインキュベートしておく。
- ナイロンメンブランとバッファーをやや大きめのナイロン製シールバッグに入れて空気を除き、ポリシーラーで口を閉じて42℃で20分間以上インキュベートする。
4.ハイブリダイゼーション
- 予め標識されたプローブ(20 ng/ml バッファー)を加える。
- 42℃で振とうさせながら一晩インキュベートする。
- ハイブリダイゼーションバッファーを捨てて、メンブランをタッパーウェアーに入れ、一次洗浄バッファーで42℃、20分間、2回洗浄する。
- 続いて2次洗浄バッファーで室温、10分間、2回洗浄する。
5.化学発光による DNA の検出
- メンブランを新しいタッパーウェアーに移し、混合した検出試薬に1分間浸す。
- メンブランをサランラップではさみ、カセッテに入れてフィルムに1分間感光させる(ここからの操作は暗室で行う)。フィルムを現像し、検出されるバンドの濃さによって感光時間を延ばす。
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