頭頸部腫瘍外来

機能温存を目指した頭頸部癌治療を行います

1:頭頸部腫瘍外来について

1)頭頸部とは

「頭頸部」と呼ばれる領域は、耳・鼻腔・副鼻腔・口腔・咽頭・喉頭・頸部食道・頸部といった広範囲な部位を含んでいます。これらの部位から発生する腫瘍が頭頸部腫瘍です。頭頸部は聴覚・嗅覚・味覚のほか咀嚼・嚥下・呼吸・発声・構音という重要かつ多岐にわたる機能を担っているため、その治療にあたっては、その機能の温存、治療後の患者様のQOL(quality of life 生活の質)を十分に考慮する必要があります。

2)当外来で診療する疾患

聴器癌(側頭骨腫瘍)、鼻・副鼻腔癌、口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、頸部食道癌、喉頭癌、唾液腺癌、頸部癌、甲状腺癌

2:診断治療について

1)診断ついて

当外来にて精密検査、治療が必要な方が予約となります。 頭頸部腫瘍の診断には、多くの場合、病理学的検査(組織診断、細胞診断)が必要であり、外来にて組織・細胞を採取する検査を行います。また、CT、MRI、FDG-PET、胃カメラ検査(消化器内科を紹介いたします)により、病気の広がり、転移診断、重複癌診断(喫煙飲酒による癌の多発のことで、食道がんが最多です。詳しくは担当医からのメッセージをご覧ください)を行います。

2)治療方針

私達の基本方針としては、まず治る可能性が高い治療法をおすすめしています。治療成績からは、頭頸部癌とくに進行癌においては、まず手術治療、放射線治療、抗がん剤治療を含めた集学的治療が中心であると考えています。また、欠損が大きい場合には再建術が必要となるため、形成外科と中心に合同手術となることも少なくありません。しかしながら咀嚼・嚥下・呼吸・発声・構音機能の温存あるいは術後の美容面のダメージを考慮しなければならないため、頭頸部キャンサーボード(写真)で、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、放射線診断科、放射線治療科、形成外科、歯科口腔外科、腫瘍内科などと議論を行い適切な治療法を提示します。

3:担当医よりメッセージ

1)告知について

癌の治療には告知の問題があります。私達は病理組織診断がついた時点で患者様とその家族に告知しています。治療中でも治療後でも患者様がどのような状態で癌がどうなっているのかを包み隠さずお話しています。こういった情報の共有化を計ることが悪性腫瘍の治療には必須と考えています。情報の共有化により患者様ご本人の自分の病気に対する理解が深まると同時に、治療方針(どうしてこのような治療が必要なのか)や、治療する立場にある我々医療従事者への理解も深まると思います。悪性腫瘍の治療には何よりもまず患者様ご本人の病気を治そうという意志が必要です。その意識を高めるためにも自分の病気を理解するということが重要です。

2)重複癌について

頭頸部癌のリスクファクター(危険因子)として、喫煙、飲酒があります。これらの因子は頭頸部癌のみならず、他の臓器における癌の共通な危険因子となっているため、頭頸部癌は重複癌(頭頸部のみではなく、他臓器に別にできる癌)の発生頻度が高くなっています。そこで、当科においては、頭頸部癌治療前に、特に頻度の高い食道を中心に重複癌検査をしております。治療後も他臓器癌を発病される方もいますので、検診をおすすめしています。

3)口腔ケアの重要性について

頭頸部癌治療の合併症を減らすためにも、治療前、治療中、治療後の口腔ケアは重要です。当院では、口腔外科の先生方と協力して、キャンサーボードをはじめとした頭頸部癌治療を行っており、治療前には全例口腔外科に紹介、相談をしております。治療前の口腔ケアを理解し、実践をお願いいたします。

4:各疾患説明

A) 聴器癌(側頭骨腫瘍)

耳にできる癌の総称です。 発生する部位で外耳癌、外耳道癌、中耳癌に分類されます。 切除可能なら手術が適応になりますが、進展している症例、合併症などでは、化学放射線治療(抗がん剤と放射線の併用療法)を行うことがあり、当科では、多剤併用化学放射線治療にて、手術を行わない機能温存治療を行っております。

B) 鼻・副鼻腔癌

鼻腔、副鼻腔に発生する癌でほとんどが扁平上皮癌です。 上顎癌が最も多く、解剖学的に症状が出にくいため進行癌が多い傾向があります。当科では化学療法、手術、放射線治療の順番で治療を行う3者併用療法を標準的な治療としていますが、化学療法は可能な場合、超選択的動注療法を行っています。この治療法は、進行癌に対しても治療効果が高い、非常にすぐれた治療法だと考えられ、現在全国で臨床試験が行われております。

C) 口腔癌

口の中にできる癌の総称です。 舌癌が最も多く、その他歯肉癌、頬粘膜癌、口腔底癌、硬口蓋癌があります。 喫煙・飲酒などのリスクファクターの他、口腔内の衛生や歯の刺激も関与しているのではないかと考えられています。 舌癌は比較的若い方も発症するので注意が必要です。 治療は手術が基本ですが、欠損が大きい場合には再建術が必要です。 場合によっては放射線治療を中心に治療することもあります。

D) 上咽頭癌

鼻腔の後方で咽頭の上部から発生する癌です。 鼻づまり、鼻出血、頸部リンパ節腫脹などが初発症状として多いのですが、時に滲出性中耳炎が初発症状となることもあります。この部位は手術治療が困難で、また放射線と抗癌剤感受性の高い癌なので、第一選択として放射線治療の適応となります。

E) 中咽頭癌

口腔の後方に位置する部位で、口蓋扁桃、舌根、軟口蓋、咽頭後壁を含みます。ヒトパピローマウイルス、喫煙・飲酒などのリスクファクターが関与していると考えられており、頸部リンパ節転移が多い癌です。 切除可能なら手術の適応となりますが、欠損が大きい場合は再建術が必要です。しかし、中咽頭の複雑な機能を温存するために、化学放射線治療(抗がん剤と放射線の併用療法)を行うこともあります。

F) 下咽頭癌

中咽頭の下方で頸部食道の上方に位置します。 前方に喉頭が存在するためこの部位にできた腫瘍を切除する際は下咽頭・喉頭・頸部食道全摘術が必要になる場合が多く、再建術も必要で大きな手術になります。 頸部リンパ節転移も多い癌です。 原発腫瘍が小さい場合には下咽頭部分切除術の対象になったり、放射線治療を用いたりすることもあります。 喫煙・飲酒などのリスクファクターが関与していると思われ、とても重複癌が多い部位です。

G) 頸部食道癌

頸部食道に発生する癌で治療方針は下咽頭癌に準じます。

H) 喉頭癌

声帯に発生することが大部分ですが、声帯の上方や下方に発生することもあります。 声帯に発生すると嗄声(しわがれ声)が出現することが多く、早期に発見されることが多い癌です。 喫煙の関与が非常に大きな癌です。 早期の癌に対しては放射線治療を行うことが多いのですが、最近ではレーザーを用いた切除術で治療期間を短縮する方法も行われています。
癌が大きくなると喉頭全摘術が必要となりますが、希望により、声を残す化学放射線治療や導入化学療法なども適応となります。

I) 唾液腺癌

大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)の他、小唾液腺に発生する癌の総称です。 扁平上皮癌が多い頭頸部の他の部位と異なり、腺癌系の癌が多く、非常に多彩な組織像を示す部位です。 治療法は手術が第一選択ですが扁平上皮癌や、進行癌では放射線治療を行う場合もあります。
耳下腺の場合、浅葉と深葉の間を顔面神経が走っているため手術時にこの処理が問題になることがあります。

J) 頸部癌

頸部原発と考えられる癌(側頸嚢胞原発など)や原発不明の頸部リンパ節転移などが治療対象です。

K) 甲状腺癌

甲状腺に発生する癌で、分化癌と未分化癌に分類されます。 分化癌の予後は非常に良く、手術治療が中心であり、当院では、場合によりVANS法(内視鏡下甲状腺手術)により、頸部に傷の残らない手術を行っております。