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疾患・症状

1. 脳血管障害(脳卒中)

脳血管障害(脳卒中)は大きく分けて脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分類されます。

(1) 脳梗塞

かつて、脳血管障害、特に脳梗塞は、いったんかかってしまったら治療することのできない病気だと考えられていました。ところが今から10年ほど前、いったん血の固まりで脳の血管が詰まってしまっても、直ぐに薬の投与を受ければ、血の固まりが溶けて血流が回復し、脳梗塞にならずにすむことがわかりました(血栓溶解療法)。しかし、これには治療を受けるまでの時間に制限があり、血管が詰まってから3時間以内に再開通すれば回復しますが、この時間を超えてから再開通した場合にはかえって脳出血などの危険性が高くなってしまうのです。(この3時間という時間には個人差が大きくみられます。)そこで、当科では発症後速やかに来院された患者さんに対して、いつでも直ぐさま治療が開始できるように、専門医によるチームで救急患者さまの受け入れから治療まで対応しています。
このような急性期治療のみならず、当院では慢性期の脳梗塞患者さまに対する予防的外科治療(頚部内頸動脈血栓内膜剥離術、頸動脈ステント留置術、頭蓋内外バイパス手術など)や、内科治療、脳卒中危険因子(リスクファクター)の管理など総合的な治療を行っています。

(2) 脳出血

高血圧をほっておくと脳出血を起こすことがあります。発症から6時間以内は止血が完成していないため、この時間帯に血圧を十分に下げておくことが出血を拡大させないために大変重要です。もしも出血量が多く意識障害が強い場合には、命を救うために手術で血腫を取り除くことが必要です。
当科では開頭による血腫除去術ばかりではなく、穿頭による血腫吸引術や内視鏡を用いた手術を行っており、患者さまの状態に応じて最も適切な治療方法を選択しています。

(3) くも膜下出血

くも膜下出血は突然激しい頭痛をきたし、重症の場合にはそのまま死に至る大変怖い病気です。その原因は脳の血管に出来た脳動脈瘤というコブが破れるためです。動脈瘤はいったん破れると繰り返し破れてしまうため、一刻も早く動脈瘤の再破裂を防ぐ手術が必要です。開頭術(クリッピング術)と血管内手術(コイル塞栓術)の二つの方法があり、それぞれの方法に長所と短所があります。当院ではどちらの治療法も経験が多く、症例に応じて治療法を選択しています。さらに、これらの手術では処置が困難な動脈瘤に対しても、バイパス手術を併用して良好な治療成績をあげています。(図:動脈瘤クリップ前DSA、クリップ後DSA、動脈瘤術中画像)


▲動脈瘤クリップ前DSA


▲動脈瘤クリップ後DSA


▲動脈瘤術中

最近では、脳ドックや頭の病気の検査で、動脈瘤(未破裂動脈瘤)が破裂する前に見つかることが増えています。未破裂動脈瘤が破れる確率はおよそ年間1%と考えられており、それほど高い頻度ではありませんので、動脈瘤が見つかったからといって大きなショックを受けることはないと思います。もちろん動脈瘤などないにこしたことはありませんが、それでも破れる前に見つかったわけですから、知らずにくも膜下出血を起こしてしまうよりも、むしろ運がよかったとお考えになって頂いてよいのではないでしょうか。ご相談頂ければ、動脈瘤の大きさや形、場所などによる破れやすさや最適な治療方法、治療に伴う危険性などをご説明致しますので、その上で、治療を受けられるかしばらく様子をみるか、判断していただけばよいと思います。

(4) 脳動静脈奇形 (AVM)

通常、血液は圧力の高い動脈から徐々に細く枝分かれして毛細血管となり、組織に栄養や酸素を与えた後、圧力の低い静脈になって心臓に戻りますが、本疾患では胎生期の脳血管形成過程で脳の一部で動脈と静脈が直接つながってしまったために圧力の高い動脈血が静脈に流れ込むようになり、破綻して頭蓋内出血をおこしたり、てんかんや頭痛の原因となったりします。最近ではMRIなどの検査で偶然発見されることも多くなっています。脳動静脈奇形の出血率は年間3%、頭蓋内出血をすでに来している場合は出血してからの1年間は6%とリスクがやや高いと言われています。
脳動静脈奇形に対する治療法には、 開頭手術・血管内手術・放射線治療(ガンマナイフ、ライナック、サイバーナイフ)などがあります。脳動静脈奇形の大きさ・形態・局在などに応じて、治療法を選択したり、いくつかを組み合わせて治療を行います。
血管内手術は開頭手術、放射線治療の術前処置として行われることが多く、手術の場合には、手術で見えにくい深部の血管を、放射線の場合には全体のサイズが小さくなるように塞栓します。これらの組み合わせは有効で安全性が高く、現在我々が最もよく行う治療法です。

2. 脳腫瘍

脳腫瘍はもともと脳にあった細胞から腫瘍が発生する原発性脳腫瘍と、全身の癌が脳に転移しておこる転移性脳腫瘍とに大別されます。脳腫瘍と聞くと大変怖い病気だと思われる方が多いと思いますが、実は原発性脳腫瘍の6~7割は髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫といった良性の腫瘍です。これらの良性腫瘍は手術で摘出できれば完治します。腫瘍の近くにある大切な神経や血管を傷つけないためにあえて少し腫瘍を残すことになったとしても,短期間に大きくなることは少ないので経過をみていくことができます。また、腫瘍を手術で小さくすることができれば、定位放射線治療が可能となる場合があります。これは残存した腫瘍に集中的に放射線を当てる治療dで、周囲の能のダメージを少なくすることもできます。当院ではノバリスという装置で治療を行っています。 一方、脳腫瘍の中には脳に染み込むように発育する悪性タイプもあります。腫瘍の発生する場所にもよりますが、このような腫瘍の場合にも神経症状を悪化させることなく、できるだけ多くの腫瘍を摘出します。術前の検査ではMRIやPETという検査で、腫瘍の広がりや増殖力を調べ、手足を動かしたり話をしたりするための大切な中枢(運動中枢、言語中枢)と腫瘍との位置関係を十分に把握するようにしています。手術中にもニューロナビゲーターや神経刺激を行って、大切な神経の機能を調べながら、腫瘍を摘出しています。言語の機能を残すために、手術中にいったん麻酔を覚まして,手足の動きや会話を確認しながら手術を進める覚醒下手術も行っています。

3. 頭部外傷

頭部の外傷は交通事故、転落事故によるものがほとんどで、脳の損傷の程度も軽微なものから重度なものまでさまざまです。比較的軽微な損傷である脳しんとうは、一過性の意識障害だけで後遺症を残さないことがほとんどで、点滴で治療します。しかし急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷など、頭蓋内に出血を伴うような重症な頭部外傷では、多くの場合緊急開頭手術によって血腫の除去や、脳の腫れによる頭蓋内圧上昇に対する治療を行います。当科では高次救命治療センターとの協力により、精密なベッドサイドモニタリング(脳圧センサーなど)を駆使し、充実したスタッフにより24時間体制で厳重な管理を行っています。これらの治療により単に救命のみでなく、高いレベルでの脳機能の回復が達成できるようになってきています。

4. 脊椎、脊髄疾患

手足のしびれ、麻痺、痛みは頭の病気だけではなく、脊髄や脊椎(背骨)の病気でも生じます。脳神経外科では主に脊髄の腫瘍や血管障害(脊髄動静脈奇形)の外科治療と血管内手術を行っています。これらは脳に連続した脊髄に起きる病態ですので、当科では術後療法まで含めた総合的な管理が可能です。
また、頚椎(首の骨)の変形や狭窄によっておこる障害に対しても治療を行っています。骨の変形による神経や脊髄の圧迫は、命には関わりのない病気ですので症状が軽い場合には薬や牽引治療などで様子をみることが多いのですが、症状が強い場合には変性した椎間板(骨と骨の間にあるクッションのようなもの)を摘出したり、変形した骨を削ったり、狭くなった脊柱管(脊髄の入っている管)を拡大することで症状を軽くすることが可能です。当科では顕微鏡を用いた手術法で小さな傷口で体に優しい手術を行っています。骨の固定にはチタンやセラミックの固定具を用いており、手術後の安静も短期間ですみます。

5. 中枢神経系奇形・小児神経疾患

中枢神経系奇形・小児神経疾患は数多くあり、その中でも特に水頭症、小児脳腫瘍、もやもや病に対しご家族との対話を十分に持ちつつ、より高度な専門的医療を行っています。

水頭症は脳脊髄液の循環障害がその主な原因で、頭囲拡大、発達の遅れといった症状がみられ、最近では胎児期に超音波検査で診断されることもあります。従来のシャント手術に加え内視鏡手術も導入しており、手術方法の幅が広がりつつあるのと同時に、その病態に適した治療を行うことが可能です。
小児脳腫瘍は頭痛、嘔吐、意識障害などで発症することが多く、手術支援機器を用いた安全で確実な手術を行うと同時に、小児科や放射線科と協力して、化学療法や、定位放射線療法を含めた放射線治療を行い、総合的な治療を展開しています。
もやもや病は脳血管が細くなる病気で、笛を吹いたときや熱いラーメンを食べ過換気になった時、手足の麻痺が一時的に出現したり、痙攣を起こしたりします。脳血管撮影、脳血流検査を行い、その病態に適した治療(血管吻合術といった手術等)を行っています。

6. 顔面けいれん、三叉神経痛

頭蓋内の血管が脳神経を圧迫することによって、その神経に起因した症状を出すことがあります。顔面神経が圧迫されると顔面けいれん(眼周囲のぴくつきから始まり、ひどい場合は口角にも広がります)、三叉神経が圧迫されると三叉神経痛(顔面の突発的な痛み)を生じます。これらに対して、薬物療法はもちろん、顔面けいれんに対するボツリヌス毒素の注入、また血管と神経の圧迫を解除する手術も積極的に行っており、良好な結果を得ています。手術では、神経と血管の間にスポンジを挿入することを避けて、血管を移動させて頭蓋骨の壁に貼り付けるようにしています。頭蓋内にできるだけ異物を残さないようにする方針です。

7. パーキンソン病などの不随意運動、疼痛

パーキンソン病とは脳内のドーパミンという物質の分泌不足から生じる病気です。症状としては手が振るえたり、四肢の関節が硬く全体的に動きも鈍くなったりします。最初に内服薬での治療が行われますが、これらの薬の中には、最初は効果があっても長期間服用することによって薬効が切れる時間に急に症状が出現しやすくなるwearing offと呼ばれる現象や、薬の内服のタイミングに無関係に急に症状の悪化や改善を認めるon-off現象などの問題が生じる場合があります。また逆に、内服によって手足が勝手に動いてしまうジスキネジアという問題も起きてきます。これらの現象やその他の副作用のために、内服治療は有効なのに継続できない患者さんは外科治療の対象となります。深部脳刺激術は、まさしく脳深部の神経核を持続的に電気刺激する治療であり、特に振るえやこわばりにはよく効き、日常生活動作をしやすくする効果があります。詳しくは担当医にご相談下さい。


▲パーキンソンの歩きかた


8. てんかん

てんかんという病気は100人に1人の割合で見られる、非常に多い病気です。脳細胞が異常な電気信号を発して意識をなくしたり、ひきつけを起こしたりします。頭のけがや病気(髄膜炎、脳腫瘍など)が原因となる場合や、特にはっきりとした脳の病気を持ち合わせない場合もあります。このような症状をお持ちの場合、原因の有無をはっきりさせるために、一度は精密検査を受けておかれた方がよいでしょう。
多くの場合は内服薬で治療でき、ほとんどの方は日常生活に支障なく生活できるようになります。内服薬による治療が難しく、且つ脳の一部が発作の引き金(焦点といいます)となっている場合には、手術で発作をなくしたり減らしたりすることができます。他にも、迷走神経を刺激することで発作を減らす方法もありますので、お困りの方はご相談下さい。

9. 認知症

認知症の原因として最も多い疾患はアルツハイマー病です。残念ながら現在までのところアルツハイマー病をなおす方法はありませんが、進行をおさえる薬はありますので、早期に診断して早く治療を開始することが重要です。しかしながら、アルツハイマー病を早期に診断することは意外に難しく、CTやMRIを撮っても早期にはわかりません。当科では脳血流を測定して、アルツハイマー病の診断やアルツハイマー病とよく似た症状をだすレヴィー小体型認知症との鑑別を行っています。
また、認知症症状を示す病気の中には手術で良くなるものがあることをご存知ですか?例えば髄膜腫という良性の腫瘍や、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などは物忘れなどの認知症症状が最初にあらわれることがありますが、手術で治る疾患です。また、脳の血流が低下して脳の働きが悪くなっている時にも記憶障害などをおこしますが、血行再建術という手術で良くなる場合があります。このように外科手術で良くなる認知症症は決して多くはありませんが、治すことのできる病気をほっておく手はありません。当科にて精査させていただきますので、お気軽におたずね下さい.

10. 頭痛、しびれ、めまい、意識消失発作

頭痛は脳神経外科を受診される患者さんの症状として最も多いものです。患者さんのほとんどは、筋収縮性頭痛や片頭痛といった脳には異常のない慢性の頭痛ですが、いずれの場合も,症状がひどいと起きられいほどです。この二つの頭痛は実は区別が難しいことも多く、また有効な薬が異なるために、お医者さんから薬をもらっているけれどよくならないと言って、当科を受診される患者さんもたくさんみえます。頭痛以外に、手足のしびれ、めまい、ふらつき、気を失うなどの症状も患者さんの症状として多いものですが、その原因は様々で治療には専門的な知識が必要です。多くの場合は問診と必要最低限の検査で診断と治療が可能ですので、このような症状でお困りの方もお気軽にご相談ください。