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2018.12.25

「分かったつもり」と「分かった」の違い

平澤興先生(1900-1989)の記念館に出かけました.平澤先生は新潟市南区味方出身の医学者で,新潟医科大学教授や京大総長を勤められました.中枢神経,とくに錐体外路系の研究に取り組まれただけでなく,一般向けの医学解説書や随筆も手掛けられました.新潟大卒の私は,学生の頃から「一以貫之(一貫して変わらずに道を進むこと)」や「努力努力又努力」といった先生の書を拝見する機会がありましたが,記念館を訪れて初めて目にするものがありました.驚くほど入念な大脳基底核のスケッチです.チューリッヒ大学に留学中,1枚でも多くの標本を見たいと大まかなスケッチで済ませていたところ,師のモナコフ教授に呼ばれ,「君は本当に標本が分かっているのかね」「分かったと分かったつもりとは違うのだよ」と指摘され,脳天を殴られたような衝撃を受けました.参考書を見てわかったつもりになっていたことを反省し,標本だけをひたすら観察し,朝から晩まで3ヶ月かけて1枚の標本(写真)をスケッチしたそうです.そして初めて新しい発見が見えてきたそうです.「分かった」と言えるまでには相当の努力が必要で,学問に安易な道はないのだと改めて思わされました.

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