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2015.05.04

てんかん初回発作の予後と治療;米国神経学会ガイドライン

てんかんの初回発作の患者さんが受診した場合,その診断と抗てんかん薬の開始に関して迷うことは少なくない.その判断は,自動車の運転や就業の可否など,社会的問題にも直結しうる.今回,米国神経学会(AAN)がsystematic reviewを行い,成人のてんかん初回発作の予後と治療に関するガイドラインをまとめたので紹介したい.
まず対象は,原因不明のてんかん,もしくはもともと存在する脳病変や進行性の中枢疾患に合併するてんかん(いわゆるremote symptomatic seizure)とし,脳卒中や外傷などの急性期に生じた症候性てんかんは除外されている.Clinical questionは以下の3つである.

  1. てんかん初回発作後の再発の危険因子はなにか?

  2. AEDによる速やかな治療開始は,てんかん再発の短期的リスクを減らせるか?発作の寛解といった長期的予後も改善するか?

  3. AEDによる速やかな治療を開始した場合,どのような副作用が,どの程度の頻度で生ずるか?

まずsystematic reviewは2613論文の抄録から281論文に絞り,その全文を抄読し,基準に合致した47論文について,AAN分類に従いエビデンスの評価を行い(Class I~IV),それを元に推奨レベル(Level A-C, U)を決定した.

1)てんかん初回発作後の再発の危険因子はなにか?

初回発作後,2年以内に 21%–45%の頻度で再発し,とくに最初の1年で頻度が高い(2つのClass I研究,8つのClass II研究).この再発リスクはAED治療により有意に減少する. また再発リスクは以下の状況により増加する.すでに存在するてんかんを引き起こす脳病変(2 つのClass I研究,2つのClass II研究),脳波上のてんかん発作様異常(2つのClass I研究,4つのClass II研究),画像上の異常所見(2つのClass II研究,1つのClass III研究),夜間発作(2つのClass II研究).

2)AEDによる速やかな治療開始は,てんかん再発の短期的リスクを減らせるか?発作の寛解といった長期的予後も改善するか?

早期のAEDによる治療開始は,治療を行わなかった場合と比較し,2年以内のてんかん再発を,絶対危険度で約35%減少させるが(1つのClass I研究,4つのClass II研究),QOLには影響しない(1つのClass II研究).
また長期的効果に関して,早期のAEDによる治療開始は,2回めの発作まで治療を遅らせた場合と比較し,長期の再発寛解を達成できる頻度は改善しない(1つのClass I研究,1つのClass II研究).

3)AEDによる速やかな治療を開始した場合,どのような副作用が,どの程度の頻度で生ずるか?

さまざまな副作用が7~31%の頻度で生じるが,主に軽度で回復可能なものであった(4つのClass II研究,1つのClass III研究).

  • 初回発作後の2年間以内の再発の可能性は21%~45%と高い(Level A).
  • 再発の可能性は,脳梗塞や外傷のようなすでに存在する脳病変(Level A),脳波上のてんかん発作様異常(Level A),画像上の異常所見(Level B),夜間発作(Level B)を認める場合,増加する.
  • 初回発作後の速やかなAEDによる治療は,2回めのてんかん発作を待って治療を開始した場合と比較して,最初の2年以内のてんかん再発のリスクを減少させるが(Level B),QOLまでは改善しない(Level C).
  • 初回発作後の速やかなAEDによる治療は,3年以上の長期における再発寛解率を改善するわけではない(Level B).
  • AEDの副作用は7~31%の頻度で生じるが(Level B),主に軽度で回復しうるものである.

以上のエビデンスを元に,医師は個々の患者さんにおいて再発リスクと副作用の出現を評価し,治療を決定する必要がある.また早期のAEDによる治療開始は長期的な再発寛解率を改善するものではないが,最初の2年間における再発を抑えることを伝える必要がある.以上,初回発作後,単純にAED治療を開始すればよいわけではなく,医師は患者さんとよく話し合い,患者さんの置かれている状況,AED開始によるメリットとデメリットなどを考慮して決めることが大切であることを示している.

Evidence-based guideline: Management of an unprovoked first seizure in adults

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