コラム

神経所見・検査所見

2014.07.08

パンケーキは術後も消えずに残る  ―頚椎症性脊髄症の特異的なガドリニウム造影所見―

頚椎症性脊髄症は,ミエロパチーの原因としては頻度が高い(23.6%という報告がある).圧迫が高度な場合,治療として外科的に除圧術が行われるが,手術に踏み切るのは正確な診断が必要で,その場合,画像所見は重大な意味をもつ.頸部の頚椎症性脊髄症に対するMRIでは,T2強調で高信号病変が約15%に出現し,ガドリニウム造影所見が7.3%に見られるとする報告がある.またT2強調画像における縦長紡錘状の高信号病変に加え,ガドリニウム造影にて,平坦・横長のパンケーキ様造影所見が,圧迫の一番強い部位,ないしその近傍に出現することが知られている(図;Neurology 2013;80;e229).今回,いわゆるパンケーキ・サインについての詳しい検討が,Mayo Clinicから報告されたので紹介したい.

研究は,①頚椎症性脊髄症疑いにて,②術前のMRIで造影を認める病変を認め,③実際に除圧術が行われた症例(1996年~2012年)を対象として行われた.対象は56例(男性39例,平均53.5歳)で,脊髄MRIでの病変は,頸部52例,胸部4例で認められ,所見として,T2強調画像(矢状断)における紡錘状の高信号病変は100%,脊髄の腫脹は79%に認められた.パンケーキ・サインは73%に認められ,典型的には狭窄の一番強い部位のすぐ尾側に出現した.水平断では灰白質に造影所見が見られることはなく,脊髄の辺縁部分が造影された.40例(71%)で,初期には腫瘍性ないし炎症性ミエロパチーと診断され,除圧術の施行は,中央値で11ヶ月(範囲1-64ヶ月)遅れた.生検は6例で行われたが,診断の変更がなされることはなかった.また,白質のグリオーシスと血管周囲の炎症を認め,造影所見に関連する変化と考えられた.術後の経過では,95%の症例では,改善ないし症状の安定が見られた.

そして驚くべきことに,ガドリニウム造影所見は程度は軽減するものの,術後12ヶ月の時点で75%の症例で持続した.最終の診察時(中央値60ヶ月;範囲10-172ヶ月)において, 20例(36%)が歩行時の介助を要したが,これを予見する因子として,術前における歩行の介助が挙げられたが,手術の遅れは関与しなかった.

以上より,パンケーキ・サインは頚椎症性脊髄症を示唆する所見として重要であること,および除圧術後も長期間,持続して認められることが明らかになった.また論文の中に,この造影所見を用いての頚椎症性脊髄症の診断アルゴリズム(フローチャート)が提唱されているが,基本的に灰白質をスペアするパンケーキ・サインの有無と,頚椎症による圧迫所見の有無・程度,さらにその他の疾患の除外検査(髄液細胞増多,頭部MRI異常,胸部CT,AQP4抗体)を組み合わせたものになっている.

パンケーキ・サインは,頚椎症かその他の原因のミエロパチーかの鑑別の際,議論となる所見であり,自身の日常診療の経験の中でも,整形外科や放射線科の先生方と,何度か議論したことがある.本論文を読んで,このような日常診療での経験を,多数,長期間,しっかりと記載していくことで,Annals誌にアクセプトされるようなインパクトあるエビデンスを形成できることを改めて感じた.このような臨床力と,エビデンスを発信する能力に個人的にはとても憧れる.

Specific pattern of gadolinium enhancement in spondylotic myelopathy. Ann Neurol. 2014 May 16. doi: 10.1002/ana.24184. [Epub ahead of print]

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