コラム

医療と医学

2020.07.09

無動無言状態でも食事のできるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)

発症から6年が経過し,無動無言状態にあるCJDの高齢女性が入院されました.主治医から食事ができるとのプレゼンを聞き,驚いて回診に行くと,たしかにご主人が介助をして食べ物を口元に運ぶと,口をあけてぱくっと召し上がっていました.胃ろうは作ってあるものの,ご家族の介助で1日1,2食は経口摂取されていました.この女性は,日本で一番多い,プリオン遺伝子V180I変異を有するgenetic CJDの患者さんです.69歳で運動緩慢と記銘力障害にて発症し,嚥下障害も出現して徐々に進行しました.嚥下ビデオ透視検査(VF)が発症から27,31,39,79ヵ月目(図)に行われました.口腔から咽頭への食塊の輸送は徐々に悪化し,咽頭嚥下の開始も徐々に遅くなりましたが,咽頭嚥下機能は維持されていました.画像検査では脳幹の萎縮や血流低下はなく,脳幹機能が温存されている仮性球麻痺が示唆されました.

「食べられるうちは,食べてほしい」と切に希望するご主人の気持ちが印象的でしたし,嚥下障害の医療に取り組む國枝顕二郎先生が「この疾患の人は食べられないという思い込みを持たないよう気を付けたい.食べられる人に禁食を強いることはしないようにしたい」と述べていたこともその通りだと思いました.大変,勉強になりました.

ちなみに写真は発症79ヶ月のVFです.口腔から咽頭への食塊輸送が悪く,咽頭嚥下の開始が遅れていましたが(a),嚥下反射が誘発されると,食塊は誤嚥を伴わずに咽頭から上部食道へと通過しました.

Kunieda K, Hayashi Y, Yamada M, Waza M, Yaguchi T, Fujishima I, Shimohata T. Serial evaluation of swallowing function in a long-term survivor of V180I genetic Creutzfeldt-Jakob disease. Prion 2020; 14, 180-184.doi.org/10.1080/19336896.2020.1787090

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