コラム

医療と医学

2020.05.19

PCR検査率からから考える封じ込め政策の今後

帝京大学脳神経内科,園生雅弘教授を筆頭著者とする2つの論文が,プレプリントサーバmedRxivに公開されました.世界各国のPCR検査率と検査陽性率の関係から,現在見つかっているよりはるかに多く感染者が広がっていること(第1論文),ならびに封じ込めの成功は,PCR検査を広く行うこととは関係しないことを示しています(第2論文).以下が園生教授による解説になります.私も執筆に協力させていただきましたが,今後の政策を考える上で重要な論文になるものと思います.

第1論文
Sonoo M, Kanbayashi T, Shimohata T, Kobayashi M, Hayashi H. Estimation of the true infection rate and infection fatality rate of COVID-19 in the whole population of each country. medRxiv 2020.05.13.20101071

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.13.20101071v1

67ヶ国のCOVID-19についての公開データでPCR検査率(ER)と検査陽性率(IR)の関係を調べたところ,有意な負の相関が見られた.これは検査率が低い国ほど検査施行を疑いの濃い例に絞っているためと考えられる.これを利用して全人口での陽性率(TIR)を回帰から推定できる(表1).その結果ほとんどの国で,現在見つかっている数の10倍〜数百倍の感染者がいる(TICR)と推定された.東京都での感染率は6.8%と推定され,これは慶応大学での6%のPCR陽性率とよく一致する.米国での2つの抗体検査の結果とも推定感染率はよく一致していた.また,これを元に感染者死亡率(IFR)も推定できる.欧米主要国では0.2〜0.9%,アジア諸国は一般に低く,日本は0.015%で欧米の1/10以下であった.このように現在見つかっているよりはるかに多く感染者が広がっていると考えられることからは,世界どこでも完全な封じ込めは無理である.日本を含むアジアでは既に比較的弱毒であることから,院内感染を防いで強毒ウイルスを封じ込めて自然選択を模倣する弱毒化戦略が特に有効と期待される.

第2論文
Sonoo M, Idogawa M, Kanbayashi T, Shimohata T, Hayashi H. Correlation between PCR Examination Rate among the Population and the Containment of Pandemic of COVID-19. medRxiv 2020.05.13.20100982

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.13.20100982v2

90ヶ国のCOVID-19の封じ込め成功度とPCR検査率の間には有意な相関があったが,GDPを説明変数に加えた重回帰を行うとPCR検査率の貢献は消えて,封じ込め成功度はGDPのみで説明できた(図1).GDPはsocial distancingへの遵守度に関連すると推測される.個々の国を見ても,タイ,マレーシア,シンガポールの近接3国を見ると検査率が低いほど(前記の順番,タイが最低)封じ込めは成功しており,全く逆の関係にある.日本はPCR検査率の低さ(0.19%)を批判されているが,検査率2〜7%の欧米主要国と比べると,最新の封じ込め成功度において,日本は欧米での優等生国(フランス,スペイン,ドイツ,イタリア)に匹敵しており,英国,米国,スウェーデンなどよりもはるかに良い.封じ込めの成功はsocial distancingが主因であり,PCR検査を広く行うことは関係しない.

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