研究紹介-糖尿病-
研究紹介-糖尿病- 堀川

背景


生活習慣病の代表格である2型報尿病の責任遺伝子を同定し、分子レベルで成因解明に取り組むことは、高齢化社会を迎えつつある我が国において、大きな社会的ニーズであり医療経済上重要な意義を持つ。
現在の国民医療費は年間約30兆円であるが、65歳以上の高齢者の糖尿病や高血圧に起因する虚血性心疾患、脳血管疾患の医療費に約5兆円かかっており、疾患発症予防や疾患メカニズムにもとづいた、よりオーダーメイド的な新規治療薬の開発は、高齢化社会を迎えている我が国において大きな社会的ニーズであり、このような治療薬が欧米諸国に独占された場合、我が国が背負う重荷は計り知れない。


概要


糖尿病グループは糖尿病発症の遺伝素因の同定を主題とする。
我が国の糖尿病では、膵β細胞におけるインスリン合成、分泌において重要な遺伝子に何らかの異常が存在する。すなわち、膵β細胞の特異性を維持するゲノム情報の誤り、もしくは欠落によって疾患が発症する。
研究グループはこの疾患に関連するゲノム情報を獲得するために分子遺伝学的手法を用いてアプローチを試みている。
特に糖代謝関連組織の発現遺伝子を網羅する包括的アプローチ(トランスクリプトーム)は独創的である。
本グループは、常染色体優性遺伝子で若年発症するタイプの糖尿病(MODY)の原因遺伝子(MODY 2,3,5)とその修飾因子である小太り遺伝子(SHP)、さらにありふれた糖尿病の感受性遺伝子NIDDM1(Calpain10)を発見することに成功している。


 


 


現在ゲノム上に高密度に存在しているSNPs(単純塩基多型)を用いて連鎖不平衡にもとづくハプロタイプを構築することにより、何とか多因子型疾患感受性遺伝子同定は可能となってきた。従って当面の目標としては、新規MODY遺伝子の発見と、ありふれた2型糖尿病の感受性遺伝子の同定であり、その知見をもとにした早期発症予知、新規糖尿病病態機構の解明である。
しかし従来の遺伝子多型解析に偏った方法論(古典的ゲノム)では原因となる「多遺伝子型疾患」を構成する全ての原因遺伝子を網羅することは極めて困難である。その上莫大な研究資金がかかるし、現在まで数多く施行されたにも係らず、結果ははかばかしくない。
また幸運にも候補遺伝子が同定されても、その後の発症機序メカニズム同定への戦略がない。
そこで、本グループはすべからく遺伝子はタンパク質に翻訳され、他の生体構成分子と相互作用することにより機能するという観点に注目し、疾患候補遺伝子をタンパク質相互作用ネットワーク解析(インタラクトーム、プロテオーム)に繋げることにより、高効率に疾患の発症メカニズムの解明に結びつけるという新規戦略を展開している。これにより疾患発症予防や疾患メカニズムにもとづいたよりオーダーメイド的な新規治療薬の開発が可能になると考え研究を進めている。


※厚生労働科学研究費補助金事業(難治性疾患等克服研究事業)
MODY1-6の病態調査と識別的診断基準の策定(H23-難治-一般-101)研究アンケート報告(PDF:668KB)