4 教育方針


教育改革
 21世紀における医療人育成の考え方は,平成8年6月13日の21世紀医学・医療懇談会の第一次報告における「21世紀の命と健康を守る医療人の育成を目指して」によれば,以下のごとくである

1)医療人としての能力・適性に留意した人材選考
 単に「受験学力」が高いから医学部等への進学を決めるのではなく,医療人として活躍するに十分な能力を持ちつつ,明確な目的意識を持った者や医療人としての適性を持った者が,医療人になれるような人材選考システムを作ることが必要である。
 子供の時期から医療や福祉の現場に触れる機会の拡大,中・高等学校における進路指導の改善,社会人等を対象とした特別選抜の実施など大学入学者選抜方法の一層の改善,医療関係学部の編入学枠の拡大などを進めるとともに,医療人育成制度そのものの見直しが求められる。
2)人間性豊かな医療人
 医療人には,幅広い教養を持った感性豊かな人間性,人間性への深い洞察力,倫理観,生命の尊厳についての深い認識などを持つことが強く求められている。
 医療人育成における人間教育,教養教育の重視を徹底する必要があり,人間的に成熟し幅広い教養教育を修得した後に,医療に関する専門的な教育を行うことも考えられる。
3)患者中心,患者本位の立場に立った医療人
 国民が望む人間中心の医学・医療を推進することが重要であり,この観点に立って医療人に求められる態度・技能・知識を修得する必要がある。講座制の枠にとらわれないカリキュラム編成,少人数教育の推進,実習の充実,患者との接し方,インフォームド・コンセントやチーム医療の重視など,教育内容及び方法の改善が強く求められる。
4)多様な環境の中で育つ医療人
 現在は,高等学校卒業後ストレートに大学の医療関係学部に進学し,さらに卒業後においては,同質社会の中で職業生活を送ることになりがちである。大学における編入学枠の拡大,大学を含む医療機関間の人材交流の促進などを積極的に進め,多様な学習経験,社会経験を有する者が相互に切磋琢磨する環境を作る中でこそ,資質の高い医療人が育成されるものと考えられる。
5)生涯学習する医療人
 医学・医療は日進月歩であり,学部教育や卒業直後の研修で学ぶ内容は医療の一部と言える。医療人の資質の向上を図り,患者に十分奉仕できるようになるためには,医療人は生涯にわたり学習することが求められている。学生時代に自己学習力や自己問題解決能力を育成することが重要であると同時に,生涯にわたり医療人が学習を継続できるような環境整備を積極的に進めることが必要である。
6)地球人として活動する医療人
 21世紀においては,国際協力を含め,現在以上に地球規模で医療人が活動する機会が増大することを踏まえた医療人の育成が求められる。

 
 医学に関する膨大な知識を単に教授し,詰め込むだけの教育では急速な医学の進歩と社会のニーズに対応できる医師,医学者を育成するのが非常に困難となっている状況で,本学部においては,期待される医療人の育成を目指して学部教育の改善に鋭意取り組み,平成7年度入学生から,少人数・問題解決型教育であるテュトーリアルシステムを導入した 。

平成7年度入学生から導入したカリキュラムには,
1)2年次後学期から4年次にかけて行われる少人数・問題解決型教育であるテュトーリアル システムをコアーにして,
2)医療人としての目的意識を高めるために,1年次前学期に初期体験実習・
3)リサーチマインドを醸成するために,2年次前学期に初期体験実習・
4)1年次後学期から2年次前学期にかけて,地球人として活動する医療人に必要な医学英語
5)5年次に,知識のみならず態度・技能の習得も目指したクリニカル・クラークシップ型の臨床実習
6)多様な環境の中での学習経験を計るべく,6年次に院外実習
 等が効果的に組み込まれている。
 特に,臨床実習においては,医療の現状に練達した優れた医療人が,医療現場での豊かな経験を踏まえ医学教育に参加・協力できるよう「臨床客員教授制度」を導入し,その充実を計った。
 このカリキュラムの核となるテュトーリアルシステムは,暗記に頼る過剰な断片的知識,基礎医学と臨床医学の解離,学生が積極的に参加しない等のカリキュラム上の欠陥を改善すべく導入されたもので,患者情報をモデル化した課題を通して,学習への動機を高揚し,問題発見能力,問題解決能力及び洞察力を高め,生涯学習につながる自己学習の習慣を養い,コミュニケーションの熟練を計る教育方略である。

全学共通教育
 岐阜大学では,平成8年9月に教養部が廃止され,地域科学部の発足に伴い,平成9年度から全学体制の教養教育,すなわち全学共通教育が実施されている。大学設置基準の19条にある「教育課程の編成に当たっては,大学は,学部等の専攻に係る専門の学芸を教授するとともに,幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性を涵養するよう適切に配慮しなければならない。」という項の趣旨を尊重でき,また社会からのニーズに応えることができる教養教育の場がスタートをきったところである。医学に関していえば,分野があまりにも専門化,細分化されたために,患者の疾患のみが対象になってしまったこれまでの背景がある。総合大学の利点を生かし,分野の異なる教官が参加して,「人類や自然との共生を推し進めるための教育」,「学問と社会との開かれた関係を構築するための教育」が構築されつつある。

各テュトーリアルコースの授業計画(シラバス)の作成及び学習内容の調整
 授業計画については,カリキュラム委員会で基本方針を決定し,テュトーリアルコース主任を中心に各コースごとに作成し,その概要を教育要項に搭載して学生に周知している。各授業科目間の授業内容の調整は,各コースごとの話し合いによりなされている。クラスの大きさについては,基礎医学・社会医学セミナー及び臨床実習は5〜6人,内科診断学実習は6〜7人,外科基本実習は20人,テュトーリアル学生グループについては,各グループ8人となっており,基礎医学・社会医学セミナーは学生自身にその編成を委ねている。

臨床実習
 クリニカル・クラークシップの導入
 本学部では,クリニカル・クラークシップの導入を中心とした臨床実習の改革を検討してきた。改革の主な点は,それまでの5年次3学期から6年次2学期までであった臨床実習を,4年次臨床実習入門コースを履修し,かつ臨床実習資格判定試験に合格した学生について,5年次1学期から3学期まで全日型臨床実習を大学内で行い,可能なかぎりクリニカル・クラークシップを取り入れたことであった。さらに,6年次に約6週間の院外実習を行うことも決定した。
 本学部の臨床実習変更にあたっては,日本医学教育学会臨床能力評価ワーキンググループの臨床教育の教育目標(案)による一般目標「将来,医学医療のいずれの分野に進むにせよ,卒後研修を効果的にするために,基本的臨床能力を身につける」を達成するには,臨床実習日に講義時間帯が組み込まれているそれまでの臨床実習では困難ということから出発した。その後,臨床実習移行前のバリアーの必要性,臨床実習の開始時期,臨床実習の時間数の増加,重点配置(コア教育)の必要性の有無,等を検討するとともに,全日型臨床実習(クリニカル・クラークシップ)の導入についても検討された。その結果,卒前臨床実習入門及び臨床実習資格総合判定試験の導入,開始時期の繰り上げ,全日型実習の導入による実習時間数の増加と効率の向上,教育関連病院での院外実習の導入が決定された。重点配置に関してはアンケート結果などを参照し,各臨床科均等配置,かつ1週間ずつ年2回ローテイトすることになった。

新入生合宿研修
 平成7年度から1泊2日の「新入生合宿研修」を導入した。同研修は大学生活スタート時に,医学生として将来医師となるための学力修得,人間形成確立等の重要性を認識させる目的で入学式前後に行われる。
 この研修の内容は,「医学部長講話,学生部長の特別講演,教育ガイダンス,学生生活ガイダンス,自己紹介,野外活動,教官との交流会,班別討議,セミナー,野外実習」等である。

5年生合宿研修
 医学・医療に対する社会からの要請が変化しつつある状況に対応するべく、学生が全人的医療を踏まえた臨床実習を有効に遂行できるように、平成7年度から2泊3日の「5年生合宿研修」を導入した。これまで、研修の場として「国立乗鞍青年の家」を利用し、KJ法を使って、病気の告知、患者の守秘義務、チーム医療、21世紀の医学・医療の方向性等への問題意識の開拓及びロールプレイ,模擬患者を使って,医療面接の訓練を行ってきた。20数名の教務厚生委員、臨床系教官が参加して学生の指導にあたる密度の高い研修である。

臨床実習資格総合判定試験
 平成3年5月の「厚生省臨床実習検討委員会最終報告」に沿って、医行為の拡大とクリニカル・クラークシップの導入の条件として、学生の資格条件を臨床実習開始前に適正に評価するため、平成8年2月(第4年次3学期)に第1回の臨床実習資格総合判定試験が実施さ れた。

臨床実習資格総合判定試験出題要項(平成7年4月5日改正)

1.医学部カリキュラム委員会・臨床医学教育検討作業部会の下部組織として臨床実習資格総合判定試験出題委員会が問題作成業務を行う。
2.本委員会は、臨床系18講座からの各1名と委員長からなる。
3.本委員会は、上記総合判定試験の出題、採点及び合否判定の原案を作成し、上部委員会に提出する。
4.5年次進級総合判定試験の内容
 1)本試験は、学生が臨床実習を効果的かつ安全に遂行するために、各科目に関する基本的知識、態度、技術を身につけているかを判定する。
 2)出題委員は、学生に要求される具体的な到達目標のリストを作成し、委員会に提出し 、これに沿った出題を行う。
 3)試験の形態は、多肢選択式問題(医師国家試験に準ずる)とする。
 4)合否判定基準は、毎回委員会で設定する。
 5)再試験の必要性は、毎回委員会で決定する。

他大学における授業科目の履修の方針と状況
 学則第45条の規定「教育上有益と認めるときは,他の大学又は短期大学との協議に基づき,学生に当該他大学等の授業科目を履修させることができる。」と明示されているが,医学部の特殊性もあって実績はなく,具体的に問題とされたことはない。

在籍,留年,休学,退学の状況
 過去8年間の状況は下表のとおりである。


 医学部における留年の割合は1.4%(平8),2.0%(平9)であり,休学の割合は1.0%(平8),1.4%(平9)である。退学者はこの2年間で3名であり,年間平均1.5名である。

教育施設・設備の現状

 医学部の学生に対する講義、実習、実験等に使用する施設・設備について記述したが、6年一貫教育に対応すべき教室、実習室、情報処理演習室及び関連設備、セミナー室等の 施設・設備の整備が必要であるとともに、本学で導入したテュトーリアル教育(少人数教育)は、2年次後期から実施する人体構造コースを始めとし、3年次には7コース、4年次には13コースの計21コースを修得させる。このための施設として、現有の1.5倍以上の面積 と各学年に必要とする部屋として、教室10室、テューターガイダンス室1室、コーディネ ータ室1室は是非必要である。

成績の評価,認定の基準
 成績の評価・認定については、医学部規則(第6条〜第10条)により行なわれており, 試験の成績が60点未満を不合格とする。病気その他やむを得ない理由のため,試験を受験できなかった場合は,その理由を申し出た者に限り,追試験を受けることができる。
 試験の結果が不合格と判定された者は1回に限り,再試験を受けることができる。
 授業科目の成績のうち,優,良及び可は合格とし,不可は不合格とする。
 1年次から2年次へ,及び5年次から6年次への進級には成績評価を要する条件はないが,2年次から3年次へ,3年次から4年次へ,及び4年次から5年次への進級には,成績評価・認定の条件が次のように設けられている。
 2年次から3年次への進級に関しては,教養科目,基礎科目として,2年次までに配当の単位数以上を修得し,プレテュートリアルを修得し,テュトーリアルコース1(人体構造 )を修得した者としている。
 また,3年次から4年次へ,4年次から5年次への進級に関しては,当該学年に課せられるテュトーリアルコースのうち,1コースでも不認定の場合は1年間の留年を課し,再度同コースを履修させることとしている。さらに,5年次への進級には,臨床実習入門を修得し ,かつ,臨床実習資格総合判定試験に合格することを義務付けている。

医師国家試験合格状況
 医師国家試験は,現在の医療体制に求められる医師に必要な医学知識を試験によって,医師の能力を社会的に保証しようとしている制度であると思われるが,医学教育の成果の指標の1つとして,国家試験の合格率も軽視することはできない。
 過去8年間の合格状況は下表のとおりである。


寄附講座
 本学部に,平成10年4月1日付けで寄附講座として東洋医学講座(ツムラ)を設置した。
 寄附講座とは,奨学を目的とする民間等からの寄附を有効に活用して設置運営し,本学の教育研究の豊富化,活発化を図ることを目的に設置されるもので,本学部に設置した東洋医学講座は,株式会社ツムラの寄附により5年間の期限で設置したものである。
 本学部における東洋医学に関する研究は,内科学第2講座,産科婦人科学講座,皮膚科学講座,麻酔・蘇生学講座などにおいて,西洋医学で解決できない疾患を対象にそれぞれの専門的立場で幅広く行われてきたが,今後はこれをさらに発展させ,東洋医学講座と連携し研究を行うことにより,多大の研究成果が期待される。なお,同講座の研究は,・東洋医学における「証」を用いた診断の妥当性の研究,・漢方薬のメカニズムに関する研究,・鍼治療のメカニズムに関する研究などを行っている。
 また,学生に対する教育として,協力講座の内科学第2講座や産科婦人科学講座と連携し,東洋医学の基本並びに西洋医学的意味論を含めた教育を行っている。