研究内容

 

「研究室から大学は今」岐阜新聞掲載の記事
http://pub.jim.gifu-u.ac.jp/soumubu/TOPICS/ima/

 

1.細胞生・死のシグナル伝達メカニズム
2.神経細胞の死と分化メカニズム
3.血管内皮細胞の増殖と細胞死のシグナル
4.アルコールの健康障害とその予防

 

 私たちの体は約50兆個もの細胞からつくられており、細胞が生命の基本単位となっています。それぞれの細胞がお互いに情報を交換し、情報に的確に応答し、協調的に働くことにより生命が維持されています。我々の研究室では、細胞同士がコミュニケーションする仕組み、すなわち細胞の情報伝達メカニズム、なかでも細胞の生と死に関わるシグナルとそれらの制御メカニズムを主たるテーマとして研究を行っています。それらを通じて臨床医学に貢献できる基礎医学研究を目指しています。
がん細胞では細胞死を効率よく誘導することが、一方虚血部位や劇症肝炎では細胞死を抑制することが予防や治療につながります。神経細胞の生と死、そして分化の制御についても関心を持っています。また、血管は全ての臓器・組織に酸素や栄養を供給しており、まさに個体維持の生命線となっています。血管の形成メカニズムの解明にも最近精力的に取り組んでいます。また、アルコールの健康障害とその予防についても研究を進めています。

 

1.細胞生・死(アポトーシス)のシグナル伝達メカニズム

 アポトーシスによる細胞死は個体の発生・分化や各種病態の形成に深く関与することが明らかにされてきました。しかし、FasやTNF-αが細胞外のアポトーシス誘発分子として同定されたのに対して、細胞内の情報伝達メカニズムには不明な点が多く残されています。ガン抑制遺伝子p53と活性酸素種(ROS)がどのようにアポトーシスを誘導しているかについての解析を中心に研究を行っています。また生存シグナル系で重要視されているAktキナーゼ活性化にどのように関与しているかを解析しています。また、最近注目されているオートファジーを伴った細胞死についても興味ある知見が得られ、このタイプの細胞死のシグナルについても研究を開始しました。
 本来、異常を起こした細胞はアポトーシスにより排除されますが、ガン細胞はアポトーシスメカニズムに異常を起こした細胞と考えられています。一方、虚血性疾患ではいかに細胞死を抑止し、臓器の機能脱落を防止するかが問題となります。したがって、細胞の生・死のメカニズムを明らかにすることにより、一方では日本人の死因のトップとなったガンの治療に、また脳や心臓の虚血性疾患の治療に、有用な知見を与える基礎研究となることを目指して研究しています。

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2.神経細胞の死と分化メカニズム

 アルツハイマー病に代表される痴呆症などの神経変性疾患や血管障害による神経細胞障害は、ミレニアムプロジェクトで提唱された「生き生きとした高齢化社会を目指す」というスローガンに対しては、大きな障害となっています。これらの疾患に対する予防・治療法の開発は社会的、経済的にも重要な課題であり、世界的にも要請が多い研究課題あり、特に世界に例を見ない急速な高齢化が進行している我が国が、緊急に取り組むべき課題であると考えます。そこで、神経細胞死実効に関わるシグナル分子をゲノムワイドに体系的に解析して、神経細胞死制御の分子メカニズムを明らかにし、それをコントロールし得る分子の探索を通して、神経細胞障害の予防や神経修復・再生に向けた創薬・新規治療法の開発の基盤を創出することを目的とした研究を行っています。

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3.血管内皮細胞の増殖と細胞死のシグナル

 血管の内側を覆う血管内皮細胞は、血管の正常な形態・機能を維持しているだけでなく、発生段階の血管形成にも重要な働きもっていることが知られています。また、虚血性の脳心血管病、癌、糖尿病などの病態においても、血管内皮細胞の増殖、細胞死が深くかかわっていることが明らかになりつつあります。 我々の研究室においても、血管内皮細胞の分子レベルでの機能解析、そして治療応用の可能性を探る研究をすすめています。

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4.アルコールの健康障害とその予防

 飲酒により体内に入ったアルコール(エチルアルコール)は最終的には二酸化炭素と水に代謝されるが、その過程でアセトアルデヒドが生じます。日本人も含めてアジア人(モンゴロイド)の約半数ではアセトアルデヒド代謝酵素のSNPs(一塩基多型)のために、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすく、顔面の紅潮、吐き気、頭痛、脈拍数の上昇などフラッシング症状を引き起します。また、酸化力が極めて強いアセトアルデヒドは細胞毒あるいはDNA障害を引き起こす物質として知られており、アセトアルデヒド代謝能が低い人は飲酒により神経変性疾患やがんのリスクが著しく上昇することが2000年以降多数の研究論文で報告されています。また、2005年8月16日発行のThe Wall Street Journalでもこの問題は”Asian Flash”として大きく取り上げられています。したがって、日本人を含めたアジア人のアルコール代謝経路の詳細を明らかにし、さらにアセトアルデヒド代謝を促進する物質の探索を目指して、研究を行っています。

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