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研修医手記

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岐阜市民病院 研修医1年目 小川 博史(part28)

28ogawa.jpg 自分が医師としての第一歩を踏み出してから初めての夜間当直。右も左もわからず、問診で何を聞けばいいか、どんな身体所見をとればいいか、何の検査をすればいいか、診断は? 治療は? ...。医師国家試験を合格したのだから知識はあるはずと思っていましたが、いざ現場にたつと何もできない自分を実感しました。そんな当直を経験してから早くも6か月が過ぎました。
 まだまだ、自分の診察に十分な自信を持つことはできませんが、指導医の先生方をはじめ、看護師さん、薬剤師さん、放射線技師さん、検査技師さんなど多くの医療スタッフから手厚い指導をして頂き、少しずつではありますが自信をもって対応できることが増えてきました。
 研修医として担当した患者さんが、元気になられたとき「お世話になりました。先生のことばが励みになりました。」とお話しして下さりました。また、診療科が変わってしまう最後の日には「先生ならいい先生になるから頑張ってね。」と言って下さることもありました。自分はまだ一人で治療を行うだけの知識も技量もないけれど、足を運び患者さんの話を真摯に受け止める姿勢が伝わったのだと思うとうれしく思いました。

 先日、長い間原因不明の発熱で苦しんでいた患者さんに、ようやく発熱の原因がわかり手術を行うことになりました。そのときのインフォームド・コンセントに同席したとき、患者さんの今まで原因がわからなかったことへの不満、不安、恐怖、そして今回の手術への期待、合併症への不安など今まで溜まっていた思いが堰を切ったように溢れ出てきました。その様子は今までいかに病に苦しんでいたかを物語っていました。このとき私はふと、過去の自分も似たような不安を感じていたと気づきました。
 私が医学生だったころ、とある実習でエコーを行うことになりました。そこで、私が試しに被験者となり心エコーを受けることになりました。しかし、このとき動脈管開存症が見つかり、後日検査入院することになったのです。検査入院であり、また侵襲がそれほどあるものでもないのに、私は病気のことから検査のことまで不安や恐怖で頭が一杯でした。
特に心臓カテーテル検査を行うときにはあまりの緊張で多量の汗をかいてしまい、ちょっとしたことにでも過敏に反応していました。
 もちろん、医師が患者さん自身の気持ちを完璧に知ることはできません。しかし、私は自分の経験を踏まえて、患者さんの気持ちを知り、その気持ちに応えていく努力は怠ってはいけないと改めて強く感じています。私が経験したことは他の苦しんでいる患者さんからみればほんのささいなことかもしれません。しかし、その経験を財産としてすこしでも「人」を診る医師となりたいです。そして、そんな医師になるためにも病気や治療に対しての知識や技能だけでなく人間性も養っていけるように努めていきたいと思います。

 研修医として現場にでて強く実感したのが末期患者さんの医療についてです。最近は高齢化が進んだこともあり、多くの末期患者さんがいらっしゃいます。特に当直をしていると何人かの末期患者さんが救急車あるいは家族に連れられてwalk inとして来院されます。
 今までの国家試験や大学でのテストに向けた勉強では病気を完全に治すことを主体に勉強していました。しかし、いざ現場にいくと末期の患者さんが大勢来院され、どこまでの治療を希望されるのか、急変時にはどこまでやればいいのか、帰宅あるいは退院後はだれが面倒をみるかなど治療すれば全てが解決するわけでないことが多々あります。そのとき、医師などの医療スタッフだけでなく、ソーシャルワーカーや社会福祉士、介護士など行政も交えて連携した対応が必要になっています。しかし、現状でも退院後の受け入れ先の調整に多くの時間がかかるなど多大な労力がかかるうえ、今後団塊世代の高齢化に伴いより多くの問題が出てくると思います。そのため、患者さんの健康を見守る医師としての役割はますます重要となっていくといえるでしょう。私たち研修医が初期研修を終えるまでにはそのような患者さんを責任もって対応していける力を身につけなければいけないと感じています。

 研修医としての生活が始まる前から、ある程度の将来の医師像、方向性について考えていたつもりでした。特に学生の頃に経験した臨床実習では数週間各科を回っただけで、その科でのやりがい、楽しさ、苦しさなどをわかったつもりでいました。しかし、いざ初期研修が始まり臨床の現場にでて様々な科をローテーションしていくと、これまでとは全く違った方向に対して興味や迷いが生じてきました。一方で、より深く各科に関わっていくことで大変なことがあっても、その中にある楽しさややりがいを少しずつではありますが理解することができたのではないかと思います。その意味では、以前までの研修制度と異なり、より多くの情報が得られることで、適切に自分が進む診療科を決めることができるようなったといえるでしょう。しかし、自分の将来を決める選択の難しさは変わっていないようにも見えます。実際多くの先輩方が将来の専門となる診療科をギリギリまで迷っていらっしゃると耳にしますが、自分も来年は同じように悩むかもしれません。だからこそ、私は1年目の今から真剣に自分の将来について考え、各診療科では自分ができることから医療に携わり、自分がどの科にいっても通用する知識や技能を身につけるとともに、将来を決めるための情報を得ていきたいと思います。
 よく、先生方から医師として本当に大変で、真価が問われるのは3年目以降からだといわれます。
今はわからないことがあれば気軽に先生方や看護師さんら医療スタッフに質問することができますし、仮に失敗したとしてもフォローしてくださります。また、主治医として患者さんを完全に受け持つことがないため、指導医のフォローのもと患者さんを受け持つことができます。しかし、3年目になると研修医から医師として扱われ、自分が主治医として患者さんを受け持ち、すべてにおいて責任持って対応していかねばなりません。また、当直では今度は下の研修医を指導する立場となり、入院させるのか、帰宅させても問題ないのか自分の判断で責任をもって対応しなければなりません。このとき、自信をもって行動できる医師となるためにも、研修医としての2年間を終えるまでに医師としての知識、技術、姿勢を身につけなければなりません。
 早くも研修医生活のうち半年が過ぎさり、残り3/4しか時間は残されてはいません。まだまだ失敗
も多く、多くの先生方をはじめ、看護師さん、薬剤師さん、技師さんなど多くの医療スタッフにご迷惑をおかけすると思います。自分の不甲斐なさに落ち込むことも多く、人命を預かる責任の重さから自分が医師となってよかったのだろうかと考えることもあります。しかし、これまで支えてくださった医師として尊敬できる先生方、多くの医療スタッフの方々、患者さんも含めこれまで応援して下さった多くの方々のためにも、早く一人前の医師となって患者さんのためにも医療に貢献できるようになりたいと思います。

平成28年1月1日


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